「寒いよ〜。お母さーん! お父さーん!」
呼んでも誰も返事をしてくれない…。お母さんはどこ? お父さんは…? どこを向いても、白い雪とおっきな木しか見えない。こんなことなら、お母さんの言う事聞いて、おとなしく家のそばで遊んでたらよかった…。
「怖いよ〜、さみしいよ〜、誰か、誰・・かぁ。ぐすっ」
その日、まだ幼かった僕は、両親と一緒に北海道の親戚の家に遊びに来ていて、遊んでるうちに森の中で迷ってしまった。遠くの見えない森の中、白く化粧された木々に、どんどん降ってくる雪。既に僕の膝の下くらいまで雪は積もっていた。持ってるものといえば、手袋とリュックの中の熊のぬいぐるみと少しのお菓子。すごく寒くて寂しかった…。
誰かぁ…。さっきからずっと歩いてるけど、全然何も見えないよ…。寒くて体が凍っちゃいそうだよぉ。耳なんかもう何も感じないし、僕、もうだめなのかな? お母さん…。
「あっ!」
横の斜面に大きな穴があいてる! 何か、動物さんのお家かな…? そんなのどうでもいいや、少し休ませてもらおうっと。
その頃、何も怖いものを知らなかった僕は、仲に何がいるかも分からないまま、冷え切った体を精一杯動かして穴に駆け込んだ。その穴は大人が辛うじて潜り込めるかどうかくらいの大きさの穴で、幸い中には何も居なかった。僕はその穴に入るとリュックを下ろして、お父さんやお母さんが迎えにくるのを待つことにした。小さな体をガタガタ振るわせながら…。
「まだ寒いよぉ…」
穴に入ったのに、まだ寒いよぉ。お父さん、お母さん、お願いだから早く来て…。これからは、ちゃんと言う事聞くからさぁ…。
なんか眠くなってきた…。寒いよー、眠いよー…。寒くて眠っちゃいそうだよぉ。
ガサガサッ
「誰っ、お父さん!?」
ウォー
「うわぁっ! く、くまっ!!」
僕の目の前に入り口をふさぐように目の前に熊が立っていた。もうだめだ、僕はくまに食べられるんだ、瞬間的にそう思った。しかし、熊は「くぅーん」と犬のように甘い鳴き声をだして僕の顔をぺろぺろとなめた。そして、子供を抱くように、おなかの下に僕を抱きかかえた。
「うわっ、助けて!」
僕は思わず逃げ出そうともがいた。相手が大きすぎる。
くまは、暴れる僕を子供でもあやすようにやさしく抱き直した。
「うわっ、暖かい。ねえ、くまさん、僕を助けてくれるの?」
「くぅ、くぅ〜ん」
その熊の声が、僕には「うん、安心して眠りなよ…」という風に聞こえた。
「そうなんだ、ありがとう、くまさん」
このくまさんのやさしい目、どっかで見たことあるかな? そんなことを考えながら暖かい熊のおなかで眠りについた…。
………
「…たー、 裕太〜っ、どこにいるの〜」
「ゆうたー!」
あっ、お母さんとお父さんの声だ…。助かったんだ……!
「お母さん! お父さん!」
ふと、穴の入り口から差し込む光が、何かにさえぎられた。と同時に、その方向へ駆けていって、飛びついた。
「裕太!」
よかった、助かったんだ…。お母さんの胸の中で僕はそう思った。しっかり抱きしめられて、すごく心地がいい。
「僕ねえ、くまさんに助けてもらったんだ! くまさんのおなかで寝てたんだよ」
「えっ、熊!? そんなのどこにもいないじゃないの…」
「えっ、そんな…。本当なんだって…。 でなきゃ凍えてたもん」
僕は慌てて周りを見渡した。すると、穴の入り口に、リュックの中にいたはずのくまのぬいぐるみがいて、いつもの丸いやさしい目でこっちを見ていた。
「君だったんだね。ありがとう、僕のくまさん☆」