「それじゃ、また後でね…。」 「おう、また後で。雪道でこけんようにな」 「うん、正信こそ…。」 そう言って清美はいつも通り、教育学部行きのバスのバス停へ向かって歩い ていった。見慣れた、神代駅前の道には雪が10cm程白い絨毯のように積も っていて、そこに新しい足跡をつけながら清美がバス停へと下っていく。それ を見届けて、僕も小雪のちらつく中を、農学部目指していつもの通学路を上り はじめた。 今は1月、冬真っ盛り。考えてみればあれから半年も経つんだ…。あいつぐ 悪魔騒ぎ、記憶の回復、ティーリッシュとの再会、困惑、感謝、再び別れ…。 それにしても、あのころはこんなに早く平穏な日常が戻ってくるとは思っても 見なかったな。これというのも、陽治や涼子先輩、そして清美のおかげに他な らないんだけど…。 あの日、ティーリッシュと別れた夜を境に、あれほどたくさん起こっていた 悪魔絡みの事件が一気に減少して、二週間ほどで全くなくなってしまった。そ してすぐに、新聞やTVからも悪魔の文字は消えていき、周りから見ればいた って平穏な日々が戻りつつあった。 僕はというと、事件が一段落した後、陽治と涼子先輩にすべての事情を話し た。自分の過去のこと、記憶が戻ったこと、旧友ティーリッシュに会ったこと、 こっちに残ると決めたこと…。二人とも驚きはしたが、いたって平静に受け止 めてくれた…。そして、周りの者とのわだかまりをとくため、一生懸命努力し てくれた。陽治は、僕を学部の飲み会や宴会に引っ張っていき、みずからが仲 介役となって、僕と周りの友達の間を取り持とうとしてくれた。涼子先輩は自 分自身のことも引き合いに出してまで、サークルの仲間の不安を取り除こうと してくれた…。 そんな二人に勇気づけられるように、少しずつだけど飲み会なりサークルな りに再び顔を出すようになっていった。そして約半年。まだまだギクシャクし てる所も多いけど、何人かの友達とは、前のように普通に話せるようになった。 それにしても、こんなにスムーズに行くとはなあ…。いつもの坂道をキュッ、 キュッと雪を踏みしめて登りながらそんなことを考えていた。なんとなく顔を 上げると、粉雪が一粒、僕の額に舞い下りた。そして、空を白く覆う雲の隙間 から顔を出した太陽が、眩しい程の光を投げかけて僕に挨拶して来た。 また、一日が始まるんだ。そう思いながら坂道を登っていった… < 完 >