「うう、体中ガタガタや…。本間疲れたなぁ。スキーってこんなにしんどいもん やったっけ?」 オレは、うっすらと曇っている窓から、夕日に映える白銀の山々を見ながら つぶやいた。 「うん、オレも足とかあちこちはれてる…。でも、楽しかったぁ。真之とこうや ってどっか行くのって、ほんま久しぶりやったし。」 「そういやそうやなぁ、中卒以来進路もバラバラやったもんなぁ。こうして出か けるのって…たしか5年ぶりやな。」 オレは、右隣に座っている貴志の方に向き直った。貴志のいつも微笑を浮か べたように見える穏やかな横顔に、ちょっと寂しげな表情がかいま見えた。 「貴志、どうかしたか?」 問いかけると、貴志はびくっとしたように顔を上げてこっちを見た。 「えっ…、いや、大丈夫。ただ、ようやく久しぶりに真之に会えたのに、こうし て一緒に遊びに出かけたのに、もう終わりなんだなぁって…。また明日からい つものように仕事なんだなぁって思うとちょっとね。」 貴志は苦笑いしながらそう答え、またうつむき加減になった。そういえば、 仕事が今ひとつ面白くない、というか人間関係で今ひとつ上手くいってないっ て言ってたな…。 オレと貴志は、今スキーツアーから帰る夜行バスに乗っている。オレと貴志 は小学校以来のつきあいで、高校はバラバラになり、その先も、オレは大学、 貴志は専門学校という風に全く別々だったが、 定期的に連絡を取りあって時々 は会っている。とは言っても、高校のころ、お互い彼女ができたあたりからし ばらくはろくに連絡も取ってなかったのだけど…。ま、今は2人ともフリーな ので5年ぶりにこうして2人で出かけてきたのだ。 「なぁ、オレ達、ずっと…」 貴志が何かを言いかけた、その時だった。 キィーーッ ドン 「うわっ」、「いたっ」 突然ガラスを引っかいたような音が鼓膜に噛み付いた来る。と同時に体が左 前方に放り出され、前の席と窓ガラスに頭から突っ込んだ。 その次の瞬間、体が窓ガラスにぴったりとくっ付いている事に気づいた。ま た、右からは貴志がオレにのしかかるかのように押してきている。何がどうな ってるのか分からぬままふと窓の外が目に入った。そこには、さっきまで見て いた雪の衣をまとった山々の姿はなく、ごつごつした岩肌と、だんだん近づい てくる谷底らしきものがあるだけだった…。 次の章へ(執筆中)登場人物紹介 大宮 真之 主人公。 21歳、大学3回生 中神 貴志 真之の親友。21歳、社会人1年目第零章〜事故〜