デジタルデバイド問題解決への試み

  1. デジタルデバイド問題とは
  2.  デジタルデバイド(情報格差)とは本来、情報技術の利用可能性によって経済的格差が開くことをいう。しかしながら、その厳密な定義は論者によって異なり、下の例のような様々な意味で使われている。

    1. 高知銀行:インターネット(デジタル)を使いこなせるかどうかで生ずる企業格差(デバイド)
    2. 東京都情報化ビジョン研究会:IT革命の進行とともに生み出される情報通信技術の利用環境や活用能力の差が経済や生活の格差を生み出す「デジタル社会の階層分化」
    3. 同上:UNDP(国連開発計画)が発表した1999年版「人間開発報告」において提起された、インターネットへのアクセス格差等の情報リテラシー の格差が個人の所得格差を生むとする「デジタル社会の階層分化(デジタル・デバイド )」
    4. 森首相、仏大統領会談:ITを持つ国と持たざる国の格差
    5. 毎日コミュニケーションPCWebコラム:インターネットの普及によって情報入手が容易になる一方で、パソコンを持たないことで情報格差が広がり、生活そのものにも影響を及ぼし始めたこと

     合衆国ではすでに社会問題化しているが、最近になって日本でもこの問題が取り上げられるようになってきた。合衆国の場合においてはIT技術利用度の人種間格差が焦点とされているが、日本の場合はむしろ平成10年の郵政省調査にあるように障碍者や高齢者が情報機器を使いこなせないという点が重要視されている。
     更には、情報技術の利用可能性によって、社会参加の可能性が制限されてしまうという、より深刻な事態も生じてきた。例えばアリゾナ州知事選挙でインターネットでの投票を可能としたことである。これによって投票率は上がったものの、これはインターネットにアクセスできる階層にとってのみのサービス向上であり、逆にアクセスできないものにとっては不利となるというように投票機会の階層別不平等をもたらす結果になったのでは、という指摘がなされている。

     このデジタルデバイドの問題は、教育の分野においても世界的な懸念事項となっており、2000年4月に行われたG8教育大臣会合では、情報通信技術が学習機会へのアクセスを容易にするという積極的な面を評価しつつも、一方では情報技術を実際に活用できないことによる学習機会からの疎外をとりあげ、これを解決することの重要性を訴えている。

  3. デジタルデバイド解決への2手法
  4.  デジタルデバイドという問題はつまるところ情報技術と一般の各個人との距離に差異があることから生ずる問題である。従って、その解決策としては大きく分けて2つのアプローチがあり得る。

    1. すべての人が情報技術を使えるようにすること
      象徴的には、クリントン大統領が2000年春のCOMDEX(世界最大のコンピュータ見本市)の基調講演で「全ての子どもたちにパソコンを」と述べているように、若年層への教育の充実を通して解決しようというアプローチである。
    2. 情報技術をすべての人が使えるものにすること
      より低価格の、またより使いやすい情報端末を開発、普及させて、情報技術への敷居を低くしようというアプローチである。

     長期的には、前者の手法に優位性があることを否定するものではないが、本論においては生涯学習の機会提供という観点から後者のアプローチを取り上げることといたしたい。前者の解決策は、つまるところ新たな情報教育を行うことであり、これを通して生涯教育を充実させるということは、言い換えれば、生涯教育の機会を提供するために情報教育の普及が必要ということであり、教育問題の形態を変えただけということになりかねないからである。
     また、後者の手法によって情報技術へのアクセス機会が拡大すれば、行政サービスを情報技術を用いて提供し、コスト削減を図るといったことにもつながりうる。さらに、従来社会的に孤立しがちだった層にも、例えば電子メールが普及するといったことによって社会参加の機会が拡大することも考えられる。

  5. インフラとしての情報端末
  6.  情報端末の形態としてはビデオテックスに注目したい。ビデオテックスとは遠隔地の中央コンピュータから静止画像を利用者端末に伝送して表示する,双方向文字・図形通信システムの総称であって、日本ではキャプテンシステムがこれにあたる。
     情報端末を普及させようとする際には、WWWブラウザを代表とするインターネットクライアントの導入が試みられることが多いが、これは現状、それほどの成果をあげていない。「インターネットの里」としてパソコンを無料配布した富山県山田村にしても、利用法の普及については村外からのボランティアに頼ったところが多い。これは人口2000人の規模であるからこそ可能なことであり、より大規模な自治体であれば組織だったサポートが必要となりコストは増大する一方となるだろう。また、未だ村営住宅への入居申し込みや、施設の利用予約といった行政サービスとWWWがリンクされているわけではないことから誰にでも使えるという実用ベースにはなっていないことが推測できる。

     このことより、柔軟性は高いが利用に熟練の必要なパソコン+WWWブラウザを中心とするよりも、メニューが定型化されてはいるが操作が簡単なビデオテックスを中心に考察することが望ましいと考えられる。そして、海外には大きな成功例が存在するのだ。

     この例とはフランスにて1980年代に無料リースの形で450万台配布されたミニテルである。これは元々フレンチテレコムが電話帳の制作費を節約するために開発した電話番号オンライン検索システムの端末として作られたものである。やがてその利便性と使いやすさが評価されて列車の切符やホテルの予約、個人売買など約8000種以上のサービスが受けられるまでに成長した。回線速度は比較的速い受信でも2400bpsと、ISDN回線の250分の1という遅さであるが、いまだ現役で使われているばかりかIBMも新世代ミニテルの開発をフレンチテレコムと共同で発表するなど新たな注目を集めている。

     これに対し日本での「キャプテン」は、成功を収めたとは言いがたい。これは高額な端末料、情報料が災いしたと思われる。しかしながら、近年になって新しい形のビデオテックスが爆発的に普及しており、わずか一年で日本最大のインターネットプロバイダとなるまでに成長した。それがNTTDoCoMoのi-modeである。
     これを考えると、ビデオテックスが普及した国という日本の側面も浮かび上がってくるといえよう。
     ただし、形態はビデオテックスをとるとしても、提供サービスについてはその枠にとらわれることなく、電子メールなどの利用もi-modeと同様、積極的に採用してゆくことが望ましい。

  7. 情報端末のモデル
    1. 端末コスト:独居老人宅には無料で配布できる程度に押さえることを目標とする。こうなれば老人福祉向上施策としての効果も期待でき、例えば松下電器が開発した独居老人支援のロボット接続なども視野に入れることも可能である。
    2. 課金形態:接続時間に対して料金を支払うというものではなく、転送した情報量に対して料金を支払うという形態が望ましい。つまりパケット通信を採用するということである。
       これは、不慣れな利用者が操作にとまどって説明書を調べたりする時間に課金されないようにと考えてのことである。またパケット交換は、途中で通信が切断されても、再接続が容易であり、利用者にとっては事実上つなぎっぱなしのイメージで使うことができる。
    3. 回線形態:設定コスト削減のためにはワイヤレスが望ましい。個別に回線を引く必要が無く、また電源コードさえつなげば使えるという利便性を求めてである。ただし、ペースメーカーを使用している利用者のことを考えて、アンテナを離れたところに設置できるようにするなどの工夫が必要であろう。
    4. 端末の物理形態:高齢者の使用を考え、モノクロでも解像度が低くとも画面は大きいものをよしとする。操作は基本的に十字キーとボタン2つというテレビゲームのコントローラで可能なレベルのものを目指す。

     以上を完全に満たすものは存在しないが、技術的には十分可能である。イメージ的にはNTTDoCoMoのエクシーレに近い。これは1.の価格は2万5千円程度。2.課金形態はパケット交換で64文字0.2円(月額基本料900円)。3.回線形態はワイヤレスである。また電子メール、WWWの利用も可能である。ただし、提供サービスメニューのモデルと考えうるi-modeには対応していない。i-modeは基本的に十字キーと選択ボタンで操作できるデザインとなっているため、これでi-modeが使えれば理想に最も近い端末となる。(i-modeそのものはやや変則であるがパケット交換を利用している。)
     しかし、これはモバイル用として作られたたがゆえの欠点もある。非常に小さく、誰にでも見やすい画面というわけではないのだ。従って筐体としてはノートパソコン型知育玩具程度のものが必要となろう。これはSEGA