電子マネー
目次
1.はじめに
2.インターネットのインフラとしての問題
3.電子決済手段とその問題点
3−1.プリペイドカード型
3−2.クレジットカード型
3−3.預金通貨利用型
3−4.現金通貨模倣型
4.電子取引を利用した新しい銀行サービス
4−1.仮想商店の活性化
4−2.海外進出企業のデータ交換サポート
4−3.海外サーバーによる企業内貿易の導入
1.はじめに
「事務の歴史は転記の歴史」と言われるように、我々は長い間右の数字を左に書き写すという事務作業をこなしてきた。そしてこの間、左の数字を右に書き写すようにすれば効率がよくなる、といった改善をいろいろと続けてきたわけである。
ここにコンピュータという便利な機械が出現した。これは一台のコンピュータの内部であれば右の数字を左に写し、更には足しあわせるといった仕事を信じられないほど速く、正確に行うことができる機械であった。これによって、最初の入力のとき、例えば性別をコード化するといった手間は必要となるが、一度入力されたデータはデータベースに記憶され、好きなときに好きな形で取り出して利用できるようになった。
しかし、違うコンピュータの間では、再度の入力が必要な場合もあるという欠点もある。であるから、つい最近まで、そして今でも、あるコンピュータが出力した帳票を別のコンピュータのキーボードを叩いて入力するといった作業が行われてきたのである。これは無駄だからなんとかならないか、というわけで、複数のコンピュータを接続して相互にデータをやり取りすることが考えられた。
これを実現した最初の方法は複数のコンピュータを一つの大きなコンピュータに接続し、その範囲で予め取り決められた形式のデータをやり取りするという形であった。これは実に安全で生産性の高い手法である。決められたデータが決められたロジックで処理され、接続した覚えの無い参加者が勝手にデータを書き換えたりすることもありえない。データがどこかで消失してもトレースが可能である。この仕組みが銀行業務に応用され、全銀システム、日銀ネットといった国内勘定決済のネットワークが作られていた。ここで例えば一日の送金超過額の限度を設定するといったようなルールが設定されて円滑な運用が実現してきたのである。
また、国際的にはSWIFTといった地球規模のネットワークが作られて情報の交換に役立ってきた。しかし、直接決済ができる機能は持っていない。
SF作家たちはこのような大型ネットワークが生み出されているさまを見て、やがては巨大なマザーコンピュータが世界のネットワークを支配するようになるのではという夢/危惧を抱いてきたのである。しかし、現実はそうならなかった。世界を取り巻くネットワークは何時の間にか作られていたが、それは中心を持たない分散化されたネットワークであった。いわゆるインターネットである。そしてこの世界的コンピュータネットワークで、従来の電文処理や、決済が、もっと広い参加者を得て、可能になるのではないかという発想が生まれた。それが現在世間を騒がせている話題の電子取引である。
最初に私の考えを述べておくと、電子通貨等の決済手段については様々な試みが次々となされており、注目を集めているが、現状参加者を銀行に限ったSWIFTですらできていないような世界規模のオンライン決済処理を不特定多数の参加者に対して行うというのは所詮は無理な相談である。しかし、インターネットが大きな可能性を含んだインフラであることは疑いなく、現在のところはマーケティングや企業のグローバル化の手段とみなすのが有望と考えられる。銀行は、この部分でのコンサルティング業務を通じて外国為替部門から参加するのがもっとも現実的な戦略であるといえよう。
本論では、最初にインターネットの問題点について軽く触れ、続いて現在ホットな話題となっている電子決済の形式とその問題点について述べる。最後に銀行にとって現段階で有効と思われる戦略をいくつかあげておこう。
2.インターネットのインフラとしての問題
インターネットとは元々合衆国国防総省の軍事用ネットワークである。中心を持たないネットワーク、拡張性に富んだネットワークという特徴はここから生まれた。つまり有事の際ネットワークのどこかが攻撃されて通信不能に陥っても、ネットワークのともかくも無事な部分をネットワークの中継点たるコンピュータが探して、なんとか通信できる技術が要求されてきたのである。米ソ冷戦の終了を受けて、このネットワークが学術機関、政府機関以外の民間にも解放され、インターネットの基礎となったわけである。攻撃目標となるネットの核となる部分を持たずとも各部分部分がお互いを認識しあって通信できる仕組みもこの軍事上の目的を追求した結果生み出されたものである。
しかしながら、軍事的な安全性を優先したために、つまり信頼できない品質の回線を前提としたために、データが確実に届くか、あるいは確実に決められた時刻までに届くかという点において、曖昧な点が残ったのも事実である。ましてや現在のインターネットはしっかりとした管理者のいないままに増殖しているのだ。どこかに必ず調子の悪いサーバーがいるし、それを各サーバーが認識できるとは限らない。
合衆国ゴア副大統領の提唱していた「情報スーパーハイウェイ」構想も、恐らくは信頼性の低いインターネットの代わりにビジネスユースに足る回線を全米に引くことを考えたものである。この概念は、よくビデオ・オン・デマンドやインターネットそのものと誤解されることが多いが、実際には各企業が共同で使えるデータ回線を政府が提供しようという構想である。莫大な予算がかかることや、クリントン政権の支持率の低下により休眠中の感のある同構想であるが、インターネットに接続されているコンピュータの数が増えすぎて割り当てるアドレスが不足してきたなどの問題の解決策として、もう一度形を変えて浮上する可能性も高い。事実クリントン大統領も次世代インターネットの構築を今回の大統領選の公約にあげている。
3.電子決済手段とその問題点
電子決済の実験は、いくつか行われているが、それらは大きく4つに分けることができる。一つは、プリペイドカード、もう一つはクレジットカードをネットワークで使用可能としたもの、三つ目は預金通貨を利用し、その引き落とし権を電子的に譲渡するもの、最後は現金通貨を模したものである。最後の現金通貨を模したものは、ハードウェアとソフトウェアで実現するものとソフトウェアのみで実現するものの2つに分かれる。
これらには近年発達した暗号化技術によってセキュリティの問題を解決したものが多く、いくつかはやがて実用化するであろうと思わせるだけの説得力を持っている。しかし、広く普及するのは十年以上たってのことであろう。いずれも現在の技術の粋を集めたものであるが故に、人々に当たり前のものと受け入れられるようになるまでにはそのくらいの周知期間が必要となりそうである。そしてそのころにはインターネットなどに使われているネットワーク技術も変化し、より信頼性の高いものとなっているだろう。
3−1.プリペイドカード型
プリペイドカードについては今更説明するまでもないであろう。最近の実験例ではVISAがアトランタオリンピックで行ったものが有名である。これは汎用の使い捨てプリペイドカードを自動販売機で販売するというものであった。一部では、残高再補充可能なものも販売された。
日本でもテレホンカード、JR東日本のイオカードなどでなじみが深い形態であるが現在では特定の用途にしか使えないことがネックである。現行では常に偽造の危険にさらされており、パチンコのプリペイドカードでは大問題になった。そのために、だいたい1000円が1枚のカードの限度額になってしまった。これでは汎用的な支払手段であるとはいえない。VISAがアトランタオリンピックに実験期間を限ったのも、カードを解析し、偽造する時間を与えないためではないかと勘ぐってしまう。結局ただのプリペイドカードに電子マネーという名称を付けてイメージアップを図っただけと考えるのが妥当とさえいえよう。
3−2.クレジットカード型
クレジットカードをネットワーク上で使う電子決済は既にクローズドなネットワークでは実用化されている。もともとクレジットカードを利用可能な各商店では専用の端末機がある。そこでカード番号と利用高を打ち込むことにより売上代金を請求するわけである。現在いろいろと考えられているのは、専用の端末機がなくとも、各家庭から、パソコンを通じて、クレジットカードでの代金支払いができないかというものである。
実際上、いくらかの手間をかければこれは可能である。FAXや郵便で各商店に予めクレジットカードの番号を通達しておくのだ。またパソコン通信ならばクローズドなネットワークであるから、オンラインショッピングによるクレジットカード引き落としは行うことができる。
ところがここでネックとなるのは「どこにもサインをする部分がない」ことだ。クレジットカードはもともと支払いの際にサインをすることによって支払い意志を証明するものであった。番号を告げるだけで支払いができるなどとは規約上明文化されていない。合衆国のシステムでは、引き落としの前に、カード会社から明細が送られてきて、加入者はその金額の小切手をカード会社向けに送り返してから引き落としがされるという手順になっているため、最終的に支払者自身でチェックができるが、小切手が個人レベルで普及していない日本にはそれすらもないのである。将来的に問題となることは十分に考えられる。今でも番号だけで買い物ができることを十分周知させていないことは問題だと個人的には思っている。クレジットカード番号をインターネットで送ることの危険性すら、十分に認知されていないのではないだろうか。
3−3.預金通貨利用型
預金通貨利用型のものは、振り込み処理をネットワークで行うものと、小切手を電子的に発行するものに大きく分けられる。振込や振替をネットワーク端末から行うことはファームバンキングという形でやはりクローズドなネットワークでは実用化されている。オープンなネットではとりあえず、同一名義人の口座間の振替について、インターネットから指図ができないかという実験が日本でも始まるようだ。同一名義人に限定すれば問題が起こっても回復不能ということはないので順序としては妥当であろう。小切手を普通預金に入金して、手形を当座預金に入金するといったお客様には便利かもしれない。しかし、そういうニーズのあるお客様なら、ファームバンキングがセールスされているであろう。
このインターネットで振替、振込を受け付ける銀行というのは合衆国ではすでに誕生している。セキュリティ・ファースト・ネットワーク・バンクで、これはインターネット上でのみ業務を行い、預金保険機構の保護を受けている。貸出業務を行なっていないので、厳密にはノンバンクなのであるが、国土の広い合衆国では手近に銀行があるとは限らないので、こういう金融サービス機関にも成り立つ余地があるのだろう。96年5月の株式公開時には全米で2700人のお客様がいたらしい。(参考文献1、p.103)
小切手を電子的に発行することは、合衆国のFSTCという団体で研究が進められている。セキュリティは暗号化技術により達成するものとし、決済は小切手の内容や支払明細を暗号化して電子メールとして送受信する事によって実現する。しかし、電子メールの内容は公開鍵で誰にでも解読する事が出来るようになっている。個人毎に暗号が一つしかなく、その解読用の鍵が公的に入手できるので偽造、変造の可能性も出てくる。このままでさらに暗号を多用してセキュリティを完璧にしようとすると、いったい小切手の本当の金額が自分に通知された金額と同一なのかどうか受取人にすら判断が付かなくなることもありうる。
私は電子小切手帳ともいえる制度を作り、小切手一件ごとにシリアルナンバーと暗号鍵を発行して、振り出しから決済までの間に暗号解析が間に合わないようにすれば問題が薄れると考えている。この場合は公開鍵に当たるものを登録機関に予め登録する代わりに、暗号化された小切手と同時に、但し別ルートで支払を受ける者に送付するのだ。
いずれにせよいくつかの工夫加えられて、実用的なものとなるのも遠くはなかろう。ただし、使用するネットワークで時間内に確実にデータが到着するという保証は必要となる。しかし、現在のインターネットにそれを要求するのは酷であろう。小切手一件ごとに暗号鍵を変えた電子小切手帳なら、正本と副本を別に送付するという荷為替小切手のような手法も使えよう。これなら悪意ある人間に片方を捕まえられても、正当な支払者へのトレースが可能である。
電子通貨の中ではこの種のものがもっとも実用に近いと思われる。
3−4.現金通貨模倣型
現金通貨を模した電子通貨は、電子データのやりとりによって、通貨の支払いを代替しようとするものである。これはソフトウェアのみによって実現されるものと、ハードウェアとソフトウェアをセットして実現されるものの二つに大別される。
ソフトウェアのみによって実現されるものは汎用のネットワークによってデータをやりとりできるため、たとえばインターネット上に開設された仮想商店への代金支払いに使われることを目指し、ハードウェア込みのものは、建物を持つ現実の商店での買い物に向くと考えられている。
ソフトウェアのみで実現されるもののセキュリティは、本質的に通常の通貨を電子通貨に交換した本人の使える電子通貨の額は、交換した額を超える事はありえないという仕組みによって保証されている。つまり、電子通貨の発行主体は実在の通貨を交換する度に、通貨にユニークな番号を付け、交換した本人とひもつける。そして、電子通貨が他の人の手に渡ると、受け取った人間はそれを発行主体に還元して通常の通貨に交換する。ここではじめに電子通貨に交換した人間が、交換した以上に使っていれば、不正は交換した本人に関するものであると分かる。受け取ったものが再び電子通貨が欲しいときにはユニークな番号を持った電子通貨を新たに発行してもらうという形を取る。電子通貨が価値の交換に使われるのは発行後一回きりである。
しかしこのままでは、ある特定の個人がいつ、どこで、誰に、いくら払ったか、発行主体にすべて分かってしまい、大変なプライバシーの侵害となる。そこで暗号化技術を駆使して、キャッシュの持つ匿名性を電子通貨にも持たせることはできないかというのが、現在研究されているテーマである。しかし、匿名性を付与すればするほど、また偽造の可能性も増えるのだ。あるいは、暗号解読の計算時間が途方もなく長くなり、実用性を失うかである。
ハードウェアとソフトウェアで実現されるもののセキュリティは、無理に解読しようとすれば壊れてしまうような仕組みをハード自身に作り込むことによって確保されている。しかし電子財布と呼んでよい程度のハードウェアの中に暗号を使ったセキュリティ技術までを持ち込む事は物理的に難しい。私自身、昨年、ノートパソコン(レジスターを想定)及びノートパソコンとデータのやりとりが可能なクレジットカード大の超小型コンピュータ(電子財布を想定)に暗号化機能を搭載して、セキュリティが保てないか検討した。先ほどの電子小切手の改良案のように、公開鍵を超小型コンピュータからノートパソコンに送るという形式で暗号化するというアイディアだったが、電池の持ちを気にする必要のないくらいの小型CPUでは、実用的な速度での暗号化、解読の計算は無理と判断せざるを得なかった。電子通貨を納めた電子財布が1ポンド以上の重さを持ち2時間ごとに充電せねばならないというのでは非現実きわまりない。
この種の電子通貨の特徴は、通貨のやりとりの度に発行主体へ通知する必要がないのでプライバシーが守りやすいことであろう。イングランドのスウィンドンで実験が行われているモンデックスの場合は、個人間のお金の受け渡しも、それこそ路上で、電子マネーで可能である。
これらの現金通貨を模した電子通貨は金地金への交換を保証された通貨から信用通貨への移行を思い起こさせる。当時も地金価値の裏付けのない通貨が本当に流通するのかどうか疑いの目でみられたが、現在では少なくとも先進国の通貨については交換性に疑問を差し挟む人はいない。しかし、電子通貨は触れることができないという不安を、未来永劫ぬぐい去ることができず、完璧な偽造ができるという可能性を捨て切れない。なにしろソフトウェアにより実現される電子通貨は、当然の事とはいえバックアップをとってそれを使う事も出来る。モンデックスのようにハードウェア込みで作られたものは偽造ができないとされているが、それでも、壊れてしまえばどうしようもない。壊れれば銀行に持っていくように指示はされているが、いくらの残高があったかを証明する手だては何もない。
たしかに、ソフトウェアだけで実現される通貨を発行した銀行も合衆国には出現している。日本にもそれが使えるインターネット上のWWWサイトはある。しかし、サイトの主が契約の際に銀行から提示された条件は、下記の通りものすごいものだ。
1.ソフトウエアの問題について責任は持たない。
2.預金保険機構の対象外。
3.訴訟を起こす権利を放棄する。(訴えられても文句は言わない。)
(96年1月31日、サンのプライベートショウにおける伊藤穣一氏の公演による。)
このようにさまざまな問題がありはするが電子通貨をはじめとする電子決済の可能性は大きい。標準規格を作り出せれば何もしなくても入ってくるロイヤリティも魅力だ。さらに電子取引が普及するに当たっては何らかの形で必要なものでもある。だから決して見逃すわけにはいかないが、それにとらわれているのも得策ではない。したがって現実的には、電子取引の決済以外の部分でお客様にサービスを提供し、地歩を固めるというのが現実的な戦略であると思われる。以降はそういったアイディアを紹介してゆこう。
4.電子取引を利用した新しい銀行サービス
私の考えるインターネットのようなオープンなネットワークを利用した新サービスのアィデアは単純な手法に基づいている。多くのインターネット上のWWWサイトやデータ交換に銀行の外国為替を中心としたサービスをセットする事により、その有効性を増そうというのがその骨子である。
着眼しているものは3つある。一つはWWW上の仮想商店街の活性化であり、一つはインターネット回線を通じた海外進出企業のデータ交換サポートであり、最後は海外のサーバーを使う事による企業内海外取引の導入である。いずれもインターネットの低コストによって可能となる企業発展に助力するものである。
4−1.仮想商店の活性化
インターネット上のWWWで商品を販売しているサイトは96年の1月には日本国内でも3000個所を超えた。インターネットプロバイダのサーバーに安いコストで間借りすれば全世界に向けて商品を売れる可能性ができるというのは確かに魅力である。しかし、必ずしも成功しているとは言い難い。代金支払の面倒くささもあるが、まだまだめったな事で人々はWWWからものを買おうとはしないのだ。たとえば世界で最も有名なWWWサイトのひとつであるロックバンド、ローリングストーンズのホームページには毎日10万人の人が訪れる。しかし、そこで販売しているCDの注文はわずか3件しかない。(参考文献5、p.31)。近くのCDショップに行けば買えるものをわざわざインターネットで注文する人は少ないだけかもしれない。しかし30年のキャリアを持つロックバンドの全CDを普通のレコード店が置いているわけではない。事実、新宿最大のCD販売店に見当たらないタイトルを5〜6軒探してようやく見つけた経験が私にはある。
日本にはインターネットでしか購入できないパソコンのアウトレット商品を販売している例があるが、これはうまいアイディアだと思う。こういうインターネットでしか手に入らないもの、しかも購入者がインターネットを利用している可能性が高いものならば、流行る事もあろう。
しかし、このような商品は数が少ない。そこで考え付いたのは、日本には普通輸入されていない商品をインターネットアクセスサービス付きで販売するという事だ。具体的には次のようにする。
銀行の海外支店網を活用して、日本に売り込みたがっている商品を持つ企業を探し、その企業のホームページを日本語で作成するサービスを行う。そのような企業を集めてひとつの仮想商店街を設ける。そしてインターネット端末を現実の専門店街の一角に置かせてもらうのだ。サービス員を付けて、購入したいというお客様がいれば輸入代行サービスを行う。収益はその場合の海外送金手数料であげることができる。
もちろん商品が好評なら直接日本に進出という事もありうる。その時はまた新しくお手伝いが出来るだろう。更には、この端末を電子マネーの実験をやっている専門店街に置かせてもらえればさらによい。将来、実用化されたときの大きな実績と数多くのお客様を得る事につながると期待できる。
4−2.海外進出企業のデータ交換サポート
インターネットといえばWWWが真っ先に思い付くが、それも世界に広がった電子データ交換網としての役割があって実現できる機能である。そして、このデータ交換網が極めて安価に使えるため、社内のデータをインターネットを通してやり取りする事も考えられる。インターネット技術を応用して、いわゆるイントラネットと呼ばれる社内ネットワークを作る事が可能であるが、日本と海外現地法人、海外支店のイントラネットをインターネット経由で接続すれば、ともかく安全性と安定性に未解決の部分はあるが世界にまたがった自社ネットを敷設したのと等価になる。これは情報スーパーハイウェイで実現が見込まれていた事であるが現在のインターネットでもそれなりの事は出来るのだ。少なくとも郵便と国際電話で情報をやり取りするのに比べればはるかに便利でコストもさほど高くない。
但し、セキュリティ確保のためにシステム的な作り込みや電話やFAXとの併用のノウハウが必要でありメリットは分かっていても導入に踏み切れない企業も多かろう。
銀行はこのようなお客様に対し、関連ソフト会社を通じたコンサルティング業務を行うとともに、外国為替の取り扱いのサービスを提供する事が出来る。先ほど述べた預金通貨利用型の振込、振替サービスは同一名義人ならば比較的簡単であると同じように、インターネットを通じた同一会社の為替送金処理等も比較的問題が少ない。元々はニーズの限定されたサービスではあるが、このようにすれば利用範囲が広がる。更には、送金データとともに摘要のデータも送ってもらえれば売掛金の消し込みサービスなども提供する事の出来るいわば金融EDIも見据えたサービスを実施する事にも繋がりうる。
4−3.海外サーバーによる企業内海外取引の導入
このサービスは現行の法体系では追従しきれない部分をもつためややデリケートなものとなる。インターネットは電子データを極めて安価に、国境を越えて移動させる事が可能であるがゆえに、国外で取引のブッキングをしてもそれほどのコストがかからない。つまり海外のコストの安いところにサーバーのみを持つ現地法人を作り、そこを通してコストダウンを図ることも出来ないわけではない。移転価格による利益操作をサポートするわけにはいかないが、例えば海外サーバーにコンピュータ処理をアウトソーシングした形にして節税を図る事は不可能ではない。また現地法人が買い付けをした方が安く上がるという優遇策をもった国も少なくはなかろう。
実際、取り扱い商品である資金を電子データとして極めて低コストに移動できる銀行では、似たような事が既に起こっているのだ。例えばシティバンクはバックオフィス業務をニューヨーク州よりサウスダコタ州に移転させた。この場合、取引はどちらの州法の制限を受けるか微妙な問題である。さらにこのバックオフィス業務が国外の更にコストの安いところに移転した場合はどうなるか。
もちろんケースバイケースであるが、この辺の地域や国家による特性を生かして収益を上げるというノウハウの蓄積は他産業よりも勝っていようし、そういう企業が現れた場合、マネーロンダリングや脱税をしてしまうことにならないようにその入出金をしっかり見とどけておくことも銀行の責務であろう。
実は銀行ははるか昔から電子取引を行ってきたのだ。内国為替は電子データの形をとっているし、ユーロマネーの取引は海外の預金の請求権の移転という電子データのやり取りで行われてきた。これは銀行の取り扱ってきたマネーという商品が電子取引でやり取りされる電子データであったからだ。これはマネーサプライというものが実体を持った銀行券ではなく金融セクターの債務というかたちで定義される事に典型的に示されている。
この間に蓄積された膨大なノウハウを生かし、パイオニアの失敗や成功をきっちりとみすえてゆけば、今後少しづつ実現してゆくであろう電子取引の社会においても、銀行が中心的役割を果たしてゆけるであろうし、またそれが社会的にも望ましいものだと思われる。
参考文献
1.中村隆夫他「デジタル・キャッシュ」ダイヤモンド社、1996
2.内村広志「図説 金融情報システム」財形詳報社、1991
3.山川裕「エレクトロニックコマース革命」日経BP社、1996
4.ドン・タプスコット「デジタルエコノミー」野村総合研究所、1996
5.Seth Godin, Presenting Digital Cash, Sams.net, 1995
ホームページへ