ニンジン嫌い

 旧福武書店(ベネッセ)から送ってもらっている幼児向け教材で、非常に気になっているのがある。
 動物を擬人的に使っているのは、まあいい。鳥獣戯画以来の伝統だ。でも虎とウサギが仲良く遊んでいるのは、相当違和感がある。自然界であればウサギは虎に食われてしまうはずだ。残酷シーンを回避したいのは分かるが、こうして受けた教育が遠因となって死者が出たとしてもおかしくない。

 死者の出る予兆はある。何年も前であるが、那須のサファリパークで赤ん坊がぐずるのに手を焼いたおばあさんが、後ろの車のお母さんに押し付けようと、赤ん坊を抱いたまま外に出て、ライオンだったかに襲われて死んだという事件があった。幸いなことに赤ん坊は助かったが。
 ウサギと虎が遊んでいるのをあたりまえと教育された子どもが、同じように本物の虎は怖くないと思い込んで車から降りても、その子を責められるわけが無い。

 でも、まあ、これは、ぐっとこらえて、見逃すとしても、同じシリーズで、ニンジンを嫌いという子どもが出てきたシーンには仰天。ニンジンは偏食の典型として必ずといっていいくらい出てきて、こどもが「ニンジン嫌い」と泣きわめくのは黄金のワンパターンである。しかし、ベネッセさんが擬人化してニンジン嫌いとわめかせている動物は、なんと「ウサギ」である。普通ウサギの餌というとニンジンが一番に出てこないか?ベネッセって本当に何も考えてないんだなあ。
 まあ、しまじろうは子どもが気に入っているので仕方ないとあきらめるとして、進研ゼミは間違っても受けさせないようにしよう。こんな馬鹿どもに子どもを教育されたくない。

 それにしてもなぜ、嫌いな食べ物いうとニンジンなのだろう。私は子どものときから喜んで食べていたぞ。私って変わっているのかなあ。ニンジン好きだとおかしいのかなあ。
 悩むじゃないか。事実私は子どものとき悩んだぞ。これほどまでに、ニンジン嫌いという例ばかり押し付けられると、ニンジンが嫌いでないといけないような強迫観念にとらわれるではないか。だいたいニンジンを作っている農家に失礼だろう。
 やはりこれはバランスをとって、バナナ嫌いとか、グレープフルーツ嫌いとか、そういうシーンも入れてみてほしい。バナナやグレープフルーツだと、国内で栽培している農家は無いか極端に少ないはずなので、生産者からの反発も少ないだろう。

 ただし、蕎麦あたりになると、例え生産者からの反発が無かったとしても偏食撲滅のネタにしてはならないはずだ。蕎麦アレルギーとかで食べてはいけない子どももいるからである。同様に卵白、ミルク、小麦、大豆、米あたりもまずい。アトピー性皮膚炎を助長する恐れがある。マイナーなアレルゲンまで入れると数限りない食物が対象となりそうだ。
 ここまで考えると、偏食を治す時のネタにするには、誰もが食べて大丈夫なものでなくてはならないこととなる。そうするとニンジンをネタにするのもうなずける。なにしろ抗アレルギー性を高める働きさえあるらしいのだ。

 ここまで考えて「ニンジン嫌い」とウサギを泣かせたのなら、ニンジン農家の方々も納得してくれよう。でも、表現の仕方に問題は残る。ニンジンがいかに万人に受け入れられるべき優れた食物であるかを脚注等で強調するまではしないとしても、少なくとも「ニンジン嫌い」と泣かせるべき登場人物(動物)は、ウサギでなくて虎のほうだと思うのだが。


 ニンジンが、抗アレルギー性を高める働きがあると分かって見事に落ちは決まったが、ニンジン自体がアレルゲンとなることはないのか気になって調べてみた。
 東京医大式食物抗原強弱表によると、残念ながらアレルギーを起こしにくくはあるが、最低クラスではなく、かつ「過敏性の人は要注意」という注釈がついている。
 かくして、偏食矯正の話の対象として、ニンジンは適当ではないことになってしまった。

 では何が良いかというと、やっぱり大根ですかね。でも、さすがに間が抜けてしまいそうだ。(消化がよく何を食べても当たらないので、何を演じても当たらない役者を大根役者という、というイメージにもろかぶる。)
 肉だと、最低クラス(レベル1)は「カエル肉」のみ、これなら子どもが嫌っても変ではないですね。よし、これでいこう。
 あまりにもポピュラーではないといえ肉ではレベル1はこれだけしかない。レベル2だと「うさぎ肉」が入ります。(ウサギ肉は鶏肉に混ぜて売ってもいいことになっている。)
 よかったね、虎のしまじろう。ウサギのみみりんなら安心して食えるぞ。

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