「発想法」には共通の弱点がある。「発想法」を必要とする程度には発想の乏しい人が作ったものということだ。中には「若かったときは、アイディアがいくらでも湧いてきたものだが、あれはどうしてなのだろう」という自省によって形となったものもあるかもしれないが、今のところ前書きにそういうことを書いたものは知らない。広告ネタ、目次へ
もっとも発想法一般を否定するものではない。煮詰まったときに、ちょこっとやり方を借りると、1、2分で脱出できることが多い。役には立っているのだ。きっと発想法というのはすごいものなのだろう。ただし提唱者たちの言うレベルまで使い込もうとは思わない。極めてしまうと収拾がつかなくなってしまいそうだ。拡散した思考をどうやってまとめ直すのか、そもそも最終的にまとめ直そうという意図があるのか、私には疑問である。それでも今泉さんの「マンダラート」には好意を持っている。一度扉ネタで取り上げ「揶揄させてもらいました」とメールを打った。論旨はこうだ。「マンダラート」は、政府機関でシステム最適化を行う際に機能の抽出を効率化するツールとして推奨されている。が、そこには「マンダラート」というオリジナルの名称はなく、Diamond Mandala Matrixと書き換えられている。一方マンダラート考案者の今泉さん自身はそのことを知らない。ということで「情報感度を高めるには役立たない発想法のようだ」と揶揄したのだ。マンダラートの価値を認めてのことだ。そんなにひどい言い方でもなかろう。
今泉さんから返事が来た。(自分のホームページでも触れていることなので、ここに書いても良かろう。まず知らなかった旨をきちんと認めてくれた。人格者だ)。が、同時に何故自分の考案したマンダラートが採用されつつも自分の考案と切り離して扱うのかという(あちこちへの)怒りは感じていたようだ。そりゃそうだろう。出しゃばりのプロジェクト管理コンサルタントが「Diamond Mandala Matrixは、要件定義と相性がよい」などと書いているのを読むと僕でも腹が立つ。真面目に勉強したら、誰が考えたかくらいすぐに見つけられるはずだろ。
マンダラートを使用する際、常に今泉さんのクレジットを入れろ、といわれれば反発もするが(合衆国で作られた技法は、クレジットと上納金を強要するものが多く、それがグローバルスタンダードなんだが)そんな人ではない。だからマンダラートを使う限り今泉さんの名誉は守ってほしい。といいながらも、マンダラートを無条件に肯定しないのがボク。マンダラートが機能抽出に向いていないとは思っている。マンダラートは「適度なストレスを与えることによって連想と発展的思考を刺激する」ところに特長があると感じているが、それだけでは足りないのだ。これでは見落としがない(あるいはある特定した範囲内で見落としがない)ことが確認できないからだ。いかに連想を刺激しても、気がつかないものは気がつかない。が、マンダラートの「ストレスを与える」という特長に着目すれば、もうすこしマシな機能抽出ができるかもしれないんだな。
ただし、どっちかというとハード屋の私はシステム要件の抽出でしか実践したことがない。(ユーザー要件ではない。)次々に「リスクへの対処」が迫られるようになったところで、ある程度もぐらたたきになるのは仕方がないが、先回りして漏れがないようにリスクを洗い出す方法はないか、と考えた。別にここでマンダラートを思い出したわけではない。一般にリスクってどんなものがあるかなあ、と考えただけである。普通は「コンピュータウィルス」という具体的なリスク事象をとっかかりにするところかもしれないが、そうではない。ただし無意識レベルでは考えていたみたいだ。
「リスクというと例えばコンピュータウィルスだよなあ、しかし個別に具体例をあげていっても漏れは出るなあ、どうすりゃいいだろう。リスクをもう少し抽象的なレベルで言うと、改竄とか、なりすまし、とか、そんなのが出てくるなあ。するとコンピュータウィルスは、データファイルやプログラムファイルに寄生するから改竄といえば改竄。というわけでOSレベルの改竄。改竄といえばデータレベルの改竄もあるなあ・・・」ということで、キーワードを書き留めているうち、気がつくと表の枠になっていた。
縦軸にリスクの対象としてシステムの構成要素を並べる。例えばハードウェアとしてCP、U、ディスク、回線。ソフトウェアとしてOS,DBMS、運用監視。データとして個人情報、システムログ、バックアップ。あとアプリケーション。
横軸はリスクの種類。停止、改竄、紛失、詐称、といったもの。
で、表の中を埋めてゆく。結構しんどい。OSの停止って分かります?ハングアップと思うでしょう。しかしそれでは「破壊・故障」と区別が付かない。僕が書いたのは「サポート切れ」。OSの「破壊・故障」が「ハングアップ」。具体的な事象をどこのカテゴリに入れるか悩んだときは、書きながら意味を再定義。
停止とは供給停止のことである。分かりやすいのはインフラの供給停止。例えば停電。するとリスク対処は自家発電装置。UPSの設置。
あと、キャパ不足(正常稼働だが要求された機能を満たせない)、破壊・故障(悪意のない機能停止)、妨害(悪意を持っての機能停止)、改竄(悪意を持っての提供物毀損、ただし導入後)、紛失(悪意のない提供物毀損、但し導入後)、詐称(故意の提供物毀損、これは導入時)、錯誤(悪意のない提供物毀損、これも導入時)。趣味の世界になっているが、作ってみると面白いよ。作成ルールとして極力「該当なし」とは書かないこと。その代わり能動形と受動形の使い分けは方便として認める。慣れてくると結構見つかります。「CPU」の「詐称」なんて無さそうでしょう。でもあるんだ。CPUリマーク。リスク対処は「純正品の使用」。
ここまでやっても、全部のリスクを洗い出したとは言えない。しかし「これこれの範囲を調査したところ、洗い出せるリスクはこれだけです」とは言える。漏れがないかのレビューも出来る。できあがりが表なのでそのまま説明や設計に使える。
しかし作成するとき脳にストレスはかかります。というわけでこの表に「ストレスマトリックス」という名前を付けました。漏れなく洗い出す方法として「ストレスマトリックス法」というのを提唱してもいいなあ、などと思っているうち、「作成時にストレスをかける表」であるマンダラートを思い出した次第。ストレスマトリックス法は発想法ではないからマンダラートとは関係がないのです。が、意味的にマンダラートを包含してしまう可能性がある。「ストレスマトリックス法の一つとしてマンダラートがある」などと言いたくない。というわけでこの名称ボツ。
マンダラートは連想を放射状に広げて行くという特性もありますが、これなら罫線を使わないマインドマップの方が優れていると思います。一覧性があるし、横のつながりを書き込める。最近原典が翻訳されたので読むとマインドマップの優れている理由が分かりました。考案者はトニー=ブゾンで、この人は発想法を必要とする種類の人みたいですが(著書の論理構成を見ると分かる)、兄がいたんですね。この人は発想法に頼らなくても済みそうな人。
多分、弟は兄の頭のいいのに憧れて、どうやったら兄みたいになれるか、兄を観察して、いろいろ勉強して、マインドマップを編み出した。で、兄のところに持って行く。兄は自分でも使ってみて「ん、いいんじゃなあい。でもこうしたらもっといいよ」とアドバイスしたに違いない。つまり発想法を必要としない程度に発想が豊かな人が手を入れたから良いものになったと。(多分兄弟仲はいいんだろう。)
もっとも、おかげで「発想法」でなく「発想を記述する技法」と言った方が適当かもしれないものになった。発想の速度と広がりに記述をついて行かせるには、こういう「速記法」がないと間に合わない。
だから、マインドマップは作った人にしか意味が分からない。やはり人に伝えるときは文章にしないと。というわけで、私は「見開きの片側が白紙(マインドマップを描く)、片側が罫線(伝えるための文章を書く)」というノートを探しに行った。なかった。やはり私のマインドマップ解釈は間違っていたようだ。(とりあえずドット罫を使っている。いいのがあれば教えて。)で、このマインドマップ、形は違うが、色は1色だが、どっかで作っているのを見たなあ。。。父親が僕に社会科を教えてくれたときにこんな順序で描いてくれた。効果の程は言うだけ野暮。
自分の子に、こんな風に教えたいのだが「社会科」は「生活科」に統合されて、世間の常識を教える科目になっている。当分そんな機会は巡ってこないみたいだ。自分が父親から教わったことを早く自分の子どもにも伝えたい。
「地球の上に自然がある。そこには山があり川がある。暑いところも寒いところもある。雨の多いところも降らないところもある。
地球の上に人間が住む。自然の中で生きていこうとする。平野があれば畑を作り、海が近ければ魚を捕る。そういう自然の中で人間が生きてきた物語を地理という。
人間が生きてきた物語を地球の上に描くときにはまず地図を使う。だから地図の勉強から始めよう。」