アイディアとマーケティングの微妙な関係

 発想法セミナー、なんてものに参加した。
 以前、《「発想法」には共通の弱点がある。「発想法」を必要とする程度には発想の乏しい人が作ったものということだ。》と言った私が何で?理由は簡単。首尾一貫させるため。
 アイディア提案募集があるらしい。《提案というものは構造的に採用されることはない。》と断じた私であるが、出さないわけには行かない。ホームページに思い付きを書く、というのはある程度リスキーなことで、「こんなこと思いついたのなら、まず組織内で生かすことを考えるべきだろう」と文句を言われる可能性がゼロではない。だから正式に出せと言われた時はきちんと出す。従来は、アイディアを出す係の人がいて、当方はその係ではないから、出すとまず文句を言われたものだが、今回はその係の人が本気でアイディアを募集しているらしい。ならば、出しておきたいものだ。それにやっぱり自分の会社で実現してほしいのだ。自分の意見を採用してくれた会社が、Oracle(データベースレプリケーション:これはたまたまタイミングが合っただけかも)IBM(第一興商との提携)とかSONY(アペリオス)とか全日空(旗艦店改善)だなんて、悲しくはないけども寂しいじゃないか。
 残念なのは、発想力がピークを過ぎてかなり経つことである。10年前ならいくらでも湧いて出たのだが。

 しかし突っ込みを入れる力はそんなに落ちていないようで、今回は発想法セミナーの講師のお言葉に反応してしまった。うん、いろいろ聞いてみるもんだ。今まで知らなかったことが見えてくる。

 きわめて印象に残ったのが、聴講者に2〜3分考えさせようとして講師が出した課題。
「ラーメン屋の出店をする際に何を考えるか」。

 何か考えることがあるのだろうか、と不審に思いながらも「ラーメン屋を出すなら、既存のラーメン屋の買収だなあ、どうやって売却情報を集めようか」などと当たり前のことを思っていたら、講師の出した例は、別の意味で当たり前のことであった。
 味をどうするかとか、場所をどこにするか、ターゲットを誰にするかである。
 確かに考えることはあるみたいだ。でもこれってビジネスアイディアの発想セミナーでしょ。今講師が言ったのって「マーケティング」の手法じゃない?「マーケティング」って発想法だっけ?すくなくともマーケティングのカテゴリ分って、発想法ではないよねえ。

 よく考えるとラーメン屋を作るということ自体陳腐な発想で、この人がここで述べようとしたことは陳腐な発想を差別化してビジネスに載せるために「マーケティング」を援用する、ことみたいだ。ラーメン屋を作る、ことがそれ自体、新鮮なアイディアと認められるものであるときは、「ディズニーランド前に、外国人向けのラーメン屋台を作る、今まで誰もやろうとしなかったが食費と時間を節約しようとする人のニーズはあるはずだ」ということで、既に講師が考える課題として出した程度のことは考慮済みだと思う。

 この講師の方、別のところで昔アイディアを求めてマーケティングを勉強したと言っていたが、なるほどと納得した。アイディアをビジネスとしてなりたたせるための方策としてはマーケティングが必要で、その意味ではアイディアの代替物として使用できる可能性も高い。つまり錯覚もしやすい。講師の名誉のために言っておくが「発想法を求めてマーケティングを勉強したが、間違いだった」ということは言っていた。ただし、マーケティングとアイディアが異なるものだということは錯覚したままらしい。

 アイディアとマーケティングを渾然一体として捉える傾向を持つ人がいるということ、ので、場合によっては分離して説明しないと分からないのだな、ということは当方にとってちょっとした発見であった。

 ただしマーケティングの観点を入れると発想が自由になるということにも気が付いた。需要があるという現実味を加えることによって、突拍子もない考え、ちょーっと難のある考えでも、実現に向けた説得力が増すのである。結果として自由なアイディアが出しやすい。
 例えばマーケットの対象を絞ることによって、技術的に問題と分かっていることをいなすことができる。
 よく知られているのがこういう例だ。アマチュアがガレージでつくった機器がある。当然ミッションクリティカルな業務には使えない。でも、ゲーム機としてならなんとかなる。そういう限定された使い方でノウハウが蓄積され、コストダウンが図られ、やがてそれなりに使えるようになった。
 パソコンって、そうやって発達してきたものだよねえ。最初からミッションクリティカルな業務に使える機器を作れ!という要求を満たすことを義務付けられていれば、できていただろうか。端末の多いオフコンにしかならなかったんじゃないの?少なくともこんなに安くはならなかっただろう。つまり各家庭でインターネットを利用、という時代は到来してない。
 ただし、はじめから業務での使用を目指して作ったなら、もう少しマシなOSが動いていたんじゃないかなあ・・・という気持ちはあるけども。少なくともAT互換機においては。そこだけは残念。

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