米どころ、兵庫

 うちの嫁さんは、辛口のお酒が好きらしい。
 なのになぜワインや日本酒を買ってくるのだろう。
(糖分が多いのでどうしたって甘い。)
 そこで一般に辛口と言われる「住吉」を買って来たら「あまー」と嫌な顔をされた。
 要するに嫁はんの言う「辛口」は口腔への刺激ではなくて、スパイシー、とか苦味、というものらしい。
 じゃあどういうのがいいのか、と問うと「せめて菊姫」だったので、買ってきた。しかしどこでそんな銘柄覚えたのだろう。

 なんのこたあない。近所のスーパーに売っておった。この辺は新興住宅地ではあるが、ニョーボは40年前から住んでいるので、やたら詳しかったりする。「このスーパーはもともと酒屋さんで・・・。」なるほど、それで仕入れルートがあるのか。早速開栓。こりゃうまいわ。

 菊姫は石川県白山市の酒造メーカーだそうだ。あたしの買ったのは純米。米は山田錦。
 なのだがなのだが、ハテ、コメの産地は兵庫県になっている。なんで米どころのはずの石川でいちいちあっちの米を移入する。

 5秒も経たないうちに長年の疑問が氷解した。(結構複雑なこともひらめきで処理できるのは珍しいのかな?)日本地理で<兵庫:酒造、農閑期に優秀な技術を持った杜氏が出稼ぎに出てくるから>という定番の暗記事項があったが、これって変ではないか?なんでいつもは米を作っている農民が、出稼ぎに来ると優秀な杜氏、ようするに酒造りの技術者にいきなり変身できるのだ。
 つまりこういうことだろう。出稼ぎ農民は「自ら育てた酒づくり用の米を持って」灘の酒蔵に出稼ぎに来るのだ。そこで酒を造る。当然飲む。すると「今年の酒は旨くできた/今年は酸味が強いなあ」といったことが、杜氏としてだけでなく「原料の生産者としても」自覚できる。すると今度の米作りでは、どうやればうまい酒になるか、というフィードバックが水田にまで立ち戻ってのレベルでできる。ならば酒に適した米作りの技術が、他の地域にはない深さで発達してくるはずだ。だから灘の酒は旨い。

 なんのこたあない。ワイン造りの名門シャトーなら「良いワインを作るのであれば、ブドウから育てるのは当たり前」と言うだろうね。日本酒でもそういうことをしていたというわけか。  そうして作られたうまい米を菊姫も使っている、と。

 だれか菊姫に知り合いがいたら聞いといて。

広告ネタ、目次
ホーム