口八丁の自由研究

 正直に言うと私は自由研究が苦手であった。
 ロケット工学者糸川英夫氏も言っているように、小学校の教科書は「かんがえてみよう」「やってみよう」の連続で、いわば子供にノーベル賞級の大発見をやろうと強いているようなもの。つまり夏休みの自由研究は「夏休みだからノーベル賞をとろう」と言っているようなもの。それはものすごいプレッシャーだった。
 しかしそれから解放されると、夏休みの自由研究のネタなんてなんで苦労するのだろう、と思うようになってくる。

 苦労する理由は簡単だ。昔の僕と同じく「自由研究」って大変なもの、と思わせたまま、教師がそれを是正しないからだ。それとも夏休みの前の授業で「自由研究とは」ってのを説明しているのかな。しかたないから子供たちは例によって「検索」し始める。「夏休みの自由研究とは何か?」検索結果「10円玉をピカピカにする」「氷の溶ける順序を調べる」。それをそのままやればいいのだが、中二病とやらが発症すると何か独自のことをしたくなり、先延ばしにすることになるだろう。あるいは定型化された自由研究のサンプルを後追いしたあとで「動機がない」ことに気が付く。

 学校の先生が自由研究の指導をろくにしていないだろうというのは、未だに「10円玉をピカピカにする」「氷の溶ける順序を調べる」が消えてないところからも見てとれる。10円玉に消しゴムをかけるのはともかく、しょうゆにつけると意図的に「化学反応」を起こしたことになり、貨幣損傷等取締法違反の疑いを禁じ得ない。氷が溶ける順序について、色で違うのではないか、という仮説を立てることが当然視されているが、実際は色ではなく濃度に影響されている(モル凝固点降下)ということを、一言二言教えておくべきではなかろうか。

 なので放り出された児童生徒は、常日頃全く考えたことのない実験を始め、途方に暮れることになる。「実験はネットで調べたとおり終わった。しかしレポートを書くにあたってまずは動機をどうかこう。」
 「暗殺教室」を読んで、理科にも国語力が必要、と書かれている意味がよくわからなかった人。ここです。ちょっとだけ科学的純真さのスイッチを止めてください。止める必要はないかな?純真な人ははじめからネットで検索なんかしないだろうからね。

 結構ポピュラーらしいね。卵を酢に漬けて殻を溶かす、って実験。そこそこ楽しそうだ。では動機は?
 申し訳ないですが、おかーさんにちょっと恥をかいてもらいましょう。
 ある日朝食のオムレツに卵の殻が入っていました。文句を言うと。「そんなもん胃液で溶けちゃうから大丈夫よ。」ひどいなあと思いましたが確かに卵の殻は酸性の液体に溶けるそうです。そこで胃液とほぼ同じ強さの酸性の液体であるお酢につけて本当に溶けるかどうか調べてみました。ほらほら、それっぽい動機でしょ。
 考察だって適当に書きゃあいいんですよ。殻は胃で消化されそうだと書いてもの足りなければ、殻は溶けたがそれ以上に弱そうな薄膜は溶けずに残った。何故かと考えた。そうだ胃そのものは筋肉の袋であるにもかかわらず胃液で消化されないのを不思議に思っていたのだ。胃袋の内側はちょうどこの卵の薄皮のようなものでコーティングされているに違いない。
 もちろん間違った考察です。でも、悪くないだろ。そこは「自由研究」だということに甘えていいです。

 氷の溶ける順序という安易なものだって、動機と考察によっては翌年以降学校のノウハウとして夏休みのしおりに載るようなものになります。特に中高一貫校の中学生のみなさん、チャンスです。(運動部の夏合宿でもいいんですがインパクトが。)

 高等部の高校野球地区予選の応援に行きました。熱中症予防にペットボトルのお茶を何本か凍らせていきましたが、なかなか溶けてくれません。溶け始めると今度は持って行った3本のペットボトルが同時に溶けていきます。こんなときペットボトルが順序良く溶けてくれれば楽なのに、と思いました。
 そこでペットボトルの中身によって溶ける順序が違うのでは、と考え実験してみました。
 まー、緑茶とウーロン茶とスポーツドリンクと水とジュースを2種類、アイスコーヒー、経口補給水(わっはっは、濃度が自分で調整できるぞー)あたりを並べて氷にし、溶ける順序を調べりゃあいいな。結果が出たら、早稲田実業の皆さんチャンスです。溶けやすい順に一番と真ん中と最後のペットボトルを凍らせて「甲子園」に持っていきます。暑いアルプススタンドで連続して冷たいものが飲めた、という結論にしておけば、来年から観戦の手引きとして全校配付されます。

 ありふれに、ありふれて、ありふれまくった「氷が溶ける順序」もこんなストーリーを付ければとても実用的な研究に見える。問題は結果に手心を加えすぎると、翌年、全校生徒(?)から文句が来ること。(でも、早実の生徒がやるとなったらスポンサーがつきそうな研究になるなあ。)

 後半に続く。
 私もネタがないのよ。毎回そこそこ独創的なネタをひねり出して結論まで持って行くのは私と言えど楽ではない。
(えー、そんなー、という中高生。メールくれたら助けてあげるけど。)

広告ネタ、目次
ホーム