受験生の心得

 NHKの「テストの花道」に代表される受験生向けの心構え教示、というのは一定の人気がある。コンディション調整とか電車が遅れたらどうするか、とか。下見の仕方とか。確かに役に立ちそうなことだ。
 ところが大きな問題が漏れているように思われる。
 ずっと地方で暮らしてきた高校生が、受験のため、いきなり東京に出てきた時の対策である。
 東京一極集中が進んでいるのは全体的にみられることだが、大学においては、とりわけ私立大学においては圧倒的に東京に集まっている。少なくとも選択肢が多い。
 早慶上理、G-MARCH、成成明学、日東駒専いずれも東京である。関西地区は関関同立、産近甲龍とあるが数で対抗できまい。いわんや大学らしい大学が国立を含め2つしかない私の出身地何ぞと比べるとまるで違う。
 これは首都圏の受験生にとっての圧倒的アドバンテージ、地方出身者にとっては戦う前から不利である。
 受験に行くときのこと考えてみてよ。満員電車に複雑な鉄道網(特に地下鉄)。聖イグナチオ教会がなければ、四ツ谷駅前大学でさえ、まっすぐ行くのは難しい。地下鉄と聞いている電車が地上に出るだけで面食らう人もいるだろう。交通の便の良いところに宿泊すると、目的の電車に乗るだけで大変だ。改札にたどりつくまでで神経を使うこと使うこと。新宿駅の事よ。逆方向に歩いてくる人にぶつからないだけでも一苦労。京王線に乗るんだけど、どーやったらこのホーム越えられるの?あれ?京王新線ってのがあって行先は同じだよ。どっちが正しいんだろ。

 鬼門となりそうなのが「渋谷駅」。東急東横線に渋谷駅で乗り換えて・・・計画を立てる段階で選びがちな経路ではないですか。ところが例えば銀座線から東横線に、迷わず乗り換えられますか?ビリギャルには難しそうだ。(以前は楽だった。)あの駅、意図的に乗り換えにくく作りましたから。建築家の自己満足のコンコースを中心に、各社が自分ところの商業施設に誘導することを考えて不自然に伸ばした出入り口。東横線を降りて、伝統の待ち合わせ場所「ハチ公前」にまっすぐ行ける人は、そのう、初めから待ち合わせなんかする必要ないんですよ。井の頭線乗り換えの合理的な経路。未だに分からない。

 この辺のことをしっかりと解説して対応策を取る、受験指南書・・・ないだろうなあ。必要性に気が付いたときには、もう受験も終わりかけだから、買う人はおるまい。だから予め知っとくといいよ。新宿から日吉に行くときは、新宿三丁目まで歩いてでも地下鉄南北線に乗るほうがよい。でも理解してもらうためには「相互乗り入れ」を説明する必要があるかもしれない。地下鉄に乗っているとそのまま東横線を走っています、というのがピンとこないかも。逆方向はさらに大変だな。同じホームで待っていても行先が、、、それは上野東京ラインでも同じか。早稲田はできるだけ近いとこまで鉄道で行くこと。下手に歩くとガラの悪いところを通過することになる。新宿二丁目をそうとは知らず歩いた若き日の私は、身の危険を感じた。(同窓会ではじめて「かっこいいなとおもってたよ」なんて言わないでくれ。その時に言ってくれ。)

 東京の人ごみと複雑さ、妙にデカい建物。やたらキラキラの看板群。わざと騒音を出しながら走る車。こういうのに面食らうだろうことも言うまでもない。ワタシそうだったし。これでも結構大きな都市の出身だよ。鉄道属性もあったので、何線に乗るかは迷わなかったし。が、東京に転勤して来たころは待ち合わせには常に遅れたなあ。所要時間が予想よりずっとかかるのよ。当時は「駅すぱあと」なかったし。
 この完全アウェイ感に打ち勝たないと実力の半分程度しか出せないだろう、ということで地方出身の受験生ははじめから不利な状況に陥っているわけだ。

 もっとも小さなアウェー感は、今でも資格試験などで感じることが多い。情報処理試験、関東のりっちゃんで受けた。東が西武で西東武には動じなかったが、やはりアウェー。でもそういうときは「チェーン店」に一度寄って呼吸を整えることにしている。昔よく使ったのが「ドトールコーヒー」。どこでも同じ味のエスプレッソをすすりながら、どこでも同じような調度の店内にいると、自宅の近所にいるような気がして心が落ち着く。うちの娘はこれがスターバックスのようだ。よく勉強に使っていたので、平常心を取り戻しながら、直前の暗記物ができる、と二度おいしい場所だ。下の子は中学受験の時「コンビニによってジュースを買う」を習慣にしていたが、これもホーム感を勝ち取るにはよかったのだろう。栄養学的にどうかは別として、お気に入りのファーストフードチェーンで朝ごはん、も悪くないかもしれない。

 しかし、そういうチェーン店すらないド田舎のみなさんはどうすればよいのかしら。スナバコーヒーしかない県民は、東京に出てきても拠点とできる店がない。さらに県内格差、チェーン店からすら見捨てられた田舎の人間にとってアウェー感はセンター試験を受験する際から発生するから、より深刻かも。昔に比べると受験会場となるところはずいぶん増えたとおもうが、例えばうちの田舎、県全体でたった2カ所である。しかも敷地が隣り合っているから実質一か所。汽車でやってこなければならない人たちは、早くも「ここはどこ?」たどり着くのに精いっぱい、ではなかろうか。

 この辺の気持ち、テレビ局や出版社が集中している東京の人間には理解できないのだろうな。だから仮にそういうアウェイ感克服のガイドになる番組や本の企画が持ち込まれても「採用の必要なし」と判断するのかもしれない。
 まてよ、放送局集中、ですよね。そうか!地方の方もテレビ画面で東京になじんでいるのだ。ならばお気に入りの番組に取り上げられた場所に行って、そこを「ホーム」にしてしまえばよい。
 ラブライバーであれば、まずは「神田明神」にお参りする。明治大学はそこの高いビルだよ。成蹊大学なんてホームそのものだろう。「とある科学の〜」は中央大の近くカナ?ちょっと離れるが千葉大学は「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」の舞台、千葉商業高校のすぐ近くだぞ。早稲田志望の人は「バンドリ!」みとこうね。もろ都電早稲田駅です。

 ちなみに私が100万都市の外れで資格試験受けた時は、周りにドトールも、コンビニすらもなしという僻地であった。いつもの調子を整える場所がない。最後の手段でダイドーの缶コーヒーを探したが自販機がない。どうしよう。そういえばニョーボのご先祖様がこの辺に住んでいたはずで・・・。御加護はあったようです。

 地方の進学校。こういうケアが必要だと思いますがやってますか?合格体験文集もいいですが、「ホームをそこに作ってしまう」精神ケアのノウハウは中央の放送局、出版社が作ってくれないがゆえに必要と思います。ムリヤリ縁を手繰ってでもホーム感を作る。
 キャンパスに同じ出身地の人の記念碑がある、これでも何もないよりはまし。心の支えになる。デリケートな受験生にはちょっとだけであってもありがたいものではないでしょうか。
 祖先がそこに住んでいたかもしれない、結構ありそうです。東大は旧前田藩邸。上智のある紀尾井町は紀州、尾張、井伊(なぜか人名)の藩邸。参勤交代でそこそこ多くの人が行ったのですから、そこに住んでた人に先祖が一人二人混じっているのが、むしろ大多数でしょう。

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