プロジェクト「中学基本英単語で難関大学入試長文を読む」

 大学受験生は大変である。
 特に規則性もなく存在している「英単語」というのを山ほど覚えなくてはならない。

 しかも「記憶」が「条件反射」のレベルになるまでだ。文中の単語をいちいち原型に直して記憶を探るのではとても時間的に追いつかない。
 更に悪いことに、non-nativeにとっては事実上、いくら覚えてもおっつかない。大学入試問題に出てくるようなレベルの英文、特に長文を完璧に理解しようとすれば3000語4000語でも足りない。

 そこで完璧な単語力はあきらめて「文脈から類推し」という流派が出てくるのはアタリマエのことである。しかしなかなか主流にならない。理由は少なくとも2つある。
 まずは「実感」。単語暗記する作業は、覚えたのが役に立つかどうかは置いておいて「今日はいくつ覚えた」「単語集を何周した」という実績は積み上がってゆく。学習としては単純な部類であるため、計画も立てやすく、壁にぶち当たることもない。これに対して「文脈から類推」には手応え、というより「本番でうまくゆくかどうか」の不安が常に付きまとう。
 そして、これと関連するのだが、もう一つの理由は「文脈から類推する」は、できそうな気がしたとしても具体的なメソッドがない。だからどうしても不安になるのだ。

 そこで、やってみた。いわゆる難関大学の英語長文問題を対象に、中学基本英単語だけで文意をとることに挑戦したのである。ここでやりがちなのは「中学基本英単語だけしか知らないことにして」読んでみました、である。単語自体は知っているわけだから、無意識的に解釈した語意を踏み台にしていないという保証がとれない。これでは説得力がない。
 そこで実際に長文を読み込んで、中学基本英単語とそれ以外を色分けしてルーズリーフに印刷し「見える化」する。その上で「ここでbutがくるから、逆の意味を書いていると推測できるので、この単語はこーゆーことを言っているはずだ」をいちいち書き込んでいったのである。
 この無謀な挑戦は成功した。薬学部とはいえ高度な英語長文を出すことで有名な慶応大学の2014年の問題、3つともきれいに解釈できてしまった。

 これは想像以上だ。具体的なメソッドが分かれば、参考にする受験生も少なくないに違いない。というわけで3つの大問のうち殊更に気に入った問1について、解説動画を作ってYouTubeにアップすることにした。

 録音にはそこそこ力を入れた。といってもマイク立てて、まではやってない。実売2万円ちょっとのICレコーダーを三脚に乗せて、程度である。はじめは部屋の中で行い、ノイズを入れたくないのでクーラー止めていたが、季節的限界にすぐさまぶち当たった。
 そこで今度は季節を逆手に取って「屋外ロケ」。蝉の声の聞こえる中、レコーディングを実施したが飛び回る蚊に閉口。
 早々に退散し、結局はクーラー付けた屋内に戻ってAudacityのノイズ軽減機能で乗り切った。それと三脚に直接レコーダーを乗せたというのが良くなかったのかな。台が揺れているような低周波が観測されたので60Hzくらいで切った。

 声も問題。滑舌のことはおいといて(そのうち別にまとめる)、一度仰向けに寝て原稿の朗読をやって、つまり発声練習をやってからマイクに向かうとドスの利いた声が出ることが判明(腹式呼吸に体がなれるのだろう)。リップノイズ防止にはアップルジュースが効くという俗説があるのでやってみた。効果は不明。
 ちょっとショックだったのは英語の発音の悪さ。元帰国子女ということもありそこそこ自信があったんだが、日本語に混ぜるとアジア系らしい「べちゃっとした」発音になってしまう。ベストヒットUSAの小林さんって偉い。英語を日本語に溶け込ませながらきれいに発音している。

 問題文を1文ごとに構造がよく分かるように平面展開(やり方はここ)したあと、それをMicrosoft Excelワークシートに展開して、語を指し示しながらどうやって知らない単語の意味を類推するかの解説を加えた。中学基本英単語とそうでない語の区別はこいつのオマケ機能で色分け。今回英文を展開したワークシート事態にもマクロが忍ばせてある。訳語が一瞬で表示されたり、選択しているセルが一瞬で左上隅に移動したりするのがそれ。

 というわけで慶応大学薬学部の2014年の入試問題大問1を題材にやってみたよぉ。

 なぜ、この文章が気に入ったかは、見れば納得してくれると思う。
 2014年の大問3つ、全部解いてみて、このやり方、慣れればそう大変でもないとわかってきたのだが、それも含めて
難関大学の英語長文問題を中学基本単語だけで読み解く前代未聞のプロジェクト、白昼堂々遂に完結!
と高らかに宣言しておく。

 私が今回作ったようなビデオ教材の形式、オンライン授業でもっと作られてもいいような気がするのだが、いかがだろうか。いかにも「パソコンの特性を生かした」ものに見えると思うのだけれども。
 最後になるにつれて速度が上がっているが、あとから何度でも見直せるYouTube動画ということで勘弁してほしい。この文章の持つテンションに自分が止まれなくなってしまったのだ。
 実際にオンライン授業するとなると、さすがにゆっくりやらないとまずいだろう。もっとも文の平面展開から実施せねばならないから、嫌でもゆっくりにはなるのだが。
(教員免許、とっときゃよかったな。もっとわかりやすく皆さんの役に立てる。)

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