いっきゅうとんちばなし

 私の昔のスピーチからもう一題。

 誰でも知っている一休とんち話に「ついたての虎を捕らえてみよ」というのがあります。一休さんがついたての前で網を広げ、さあ虎を追い出してください、というやつです。人の心の盲点をついた話で、題を出す側は「とらえる」という行為の中に「虎を追い出す」というのも入っていると思いこんでいるが、実際そんなことはないよということです。更にはその意識していなかったことが、ついたての虎を捕らえるという行為全体のうちでもっとも困難だったということです。
 現実には起こりそうもない話だと思っており、だからこそとんちなのですが、よく見るとそこかしこで繰り広げられる光景であることに気がつきました。
 「システムを作ってくれ」「はい分かりました、要件を出してください」。
 システムを作ってもらいたい側としては、コンピュータという言葉に魔力があるせいか、業務要件なんてあまりに当たり前なのか、特に何も言わずとも分かってくれるだろうという気がするもののようです。ところが、作る側としてはそうではない。

 作る側としては、今あなたの頭の中にあるシステムへの期待、というかイメージをきっちりと言葉という形で対象化してもらいたいわけです。
 そのあと、我々はそれをプログラミング言語というあいまいさのない言葉に更に対象化してゆかなければならないのですから。
 本当は網を作る方が大変かもしれませんがね。どの程度の大きさの虎が出てくるのか、どれくらい暴れるのか、ひょっとしたら子供を産むのか、ああ分からない。

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