海外に住んでいると日本の情報に飢える、日本語の情報に飢える。コンピュータネタ、目次へ
それをある程度満たしてくれたのが「短波放送」でありました。友達が一時帰国の際、ソニーのスカイセンサー5900とBCLのガイドブックを購入して帰り、仲間内では大流行になりました。やがて私のコートのポケットにはラジオペンチと電線が常備されるようになり、誰かの家に行くと短波の入るラジオを探し、勝手にアンテナを取り付け、日本語放送を受信していたものです。
普通なら嫌がられる行為ですが、当然のことながらどの家でも歓迎され、次にその家に行くとチューニングダイヤルがセロテープで固定されたりしていたものです。やがて仲間内で放送部を乗っ取り、昼休みの校内放送で前の晩録音したBBC日本語放送を流してみました。今でも断言できますが、世界で最も私語の少ない小中学校の昼食時間であったと思います。だれもが放送に集中し、一言もしゃべりません。(あ、私がいたのは日本人学校です。小中学校同じ校舎です。)
そのうち先生が訊いてきました「この放送は今やってるの?」「いえ、昨日の録音です」「今のニュース流せない?」「BBCは12時ですし、DWは12時15分からですから、どうしても途中からになります」。やがて時間割は変更となり、昼休みの開始は5分早まることになりました。今ではインターネットで楽々日本語のニュースにアクセスできるのだろうなあ、いい時代になったなあ。20年ぶりに母校の噂を聞いて思いました。パソコンが学校に寄付されたのがきっかけになって、はじめる人が増えているそうです。きっと20年前の我々のように、インターネットの設定をすべく走り回っている連中がいるに違いありません。でも、プロバイダのイントロパックが足りなくて困っているそうです。(かき集めてうちの会社の海外拠点宛てに送りましょう、と提案したことはいうまでもない。)
よく考えれば、僕らが短波放送の番組表/周波数表や、短波ラジオそのものの入手に苦労したように後輩たちも苦労していることでしょう。
パソコン自体は世界標準AT互換機を使えばよいわけですからそんなに大変でもないのでしょうが、でもソフトの入手は大変です。まず、入手できるかどうかからして。日本語化されたソフトというのからしてなかなか手に入らないのです。一太郎を誰かが買ってきて、でも1枚のメディアから複数のパソコンにインストールして回ることはライセンス上無理です。そこで、ライセンスだけ郵便で売ってくれと言いたいところですが、ソフトメーカーに個人で交渉することはちょっと無理。しかも支払い手段は「ドイツマルク」。そんなわけで頼れるオンラインソフトがとても貴重。クレジットカードで決済が出来たりすると更にね。
だから私は海外に赴任するという奴がいたとき「Win/Vだけは持って行け」と言いました。英語版Windows3.1の上で制限付きながら日本語が使える。あとはTwin BrigdeないしKomeiで英語版アプリケーションを無理矢理日本語化して使う。
海外の友人が日本語でWebブラウジングをし、メールを打ちたがっていると聞いたときには、KanjiKitだけでも送ってやれ、とアドバイスしたこともあります。これは、英語版Windowsの上で英語版ソフトを動かしても日本語を通してくれる、というふれこみのソフトでありました。でも、それも随分と改善しました。Windows2000は基本的に世界単一バイナリ、英語版CD-ROMに日本語フォントも入っているそうではないですか。となるとWebブラウザとメールソフトがOSにバンドルされているということのありがたさが分かるのですね。これでセキュリティホールをちゃんとふさいでくれれば特に文句はありません。
そのほか海外でも入手が容易で(というかそんなに困難ではなく)日本語がしっかり通る、というOSというと、候補としてはLinux。そしてSolaris8でしょう。Solaris8はそもそも日本語版が無く、国際化版を入手してインストールすれば日本語OSにもなる。もちろんソフトは一通りついている。はー、苦労に苦労を重ね、ようやっと自宅のPCをWindowsNTとのDualBootにできました。内部IDEからはWindowsNTが、外部SCSIからはSolaris8が立ち上がり、切替はBIOSで行うという堅実なのかアクロバテッィクなのか分からない仕組みですなあ。しかし、LinuxにしてもSolarisにしてもインストール成功は集められる情報の量が鍵になる。となると、ラジオで短波放送を受信するのとは訳が違います。誰か「海外在住者のためのPC-UNIX入門」を書きませんか?僕はそこまで詳しくないのだ。もっとも海外駐在員はどんどん減っているそうだからなあ。もちろん20年前には在留邦人のための日本語放送受信ガイドを私が書きました。短波ラジオを売っている店がどこにあるか、とか、どの周波数が受信しやすいか、とか、ノイズが多い場合はどの銘柄の電池を使えばよいか、まで載っている地域に密着したパンフレットでした。
日本語環境が海外でも揃うようになってきたという流れをさかのぼれば、AT互換機で日本語が走るDOS/Vに行き着く。漢字表示装置をパソコン上に持たずとも、たまたま漢字の形をした図形を表示すれば日本語が表示できるというコロンブスの卵。この発想には感心する。しかしそれを世に出すには相当の苦労があったというのも事実。
そんなわけで、私は会社の倉庫にDOS/Vマシンが眠っているのを見つけて感動してしまった。
私はDOS/V機という言い回しが嫌いだ。きちんとAT互換機と言いましょうと、いつもはそう言っている。でもDOS/Vをひっそりと世に出した隠れ蓑、企業用ラップトップ端末エミュレーター専用機であるこいつだけは、DOS/V機と呼ぶ。
試しにverコマンドを打つと「DOS/V Ver4.0」と返してきた。私はわりと涙もろいなと実感した。