一時期、富士通が低価格路線でAT互換機を売りまくっていた。思い切った値付けとバンドルソフトてんこ盛りでシェアをとるというのは分かるが、シェアを取った後どうするかという戦略が見えてこずあちこちで叩かれた。だいたいAT互換機など誰でも組み立てることができる。シェアを買ってもすぐに買い戻されるではないか。コンピュータネタ、目次へ
結果的にこの戦略は大失敗であった。そのとき一番安く調達できる部品を集めて安く作るという手法は、なるほど富士通の情報網を駆使しただけあって、他社の追随を許さない低コストを実現したのだろうが、どうしても部品の信頼性が低く、また同一型番でもマザーボードが違うことすらあるという事情から周辺機器メーカーが動作保証をしてくれなくなり、更にはマザーボードが入っていなかったという噂すら広まるほど手を抜いて作ったらしいというイメージを拡散させた。
私などは未だにFMVというブランドに不信感を抱いている。初代FMVを愛用した人間ですらそうなのだ。あれはいい機械だったと思うがなあ。まあ初期状態でプリントができない、FDDが3モードで使えないという問題はあったが。(初心者にConfig.sysを編集させるな!ある日帰宅したらニョーボがべそをかいていた。「config.sysを書き換えたら動かなくなっちゃった。マニュアルの通りやったのに。」ドライバを入れていなかったので〜当時はFDからマニュアルでコピー〜ドライバを見つけることができず起動時に止まったらしい。仕方なく英語DOSで立ち上げ、キーボードを手探りしながらEDLINでconfig.sysを書き直した。今や上級システムアドミニストレーターのニョーボであれだからマニュアルにはこう書いておくべきだったろう。「3モードFDDは付いていますが使用できません」「印刷はできますがオプションになります」) そんなわけでFMVは2度と買うまいと心に決めていたのだが、ニョーボのお父さんがパソコンを始める時に買うのには反対できなかった。受けたいという通信教育がFMVを標準としているからだ。別にWindowsが動けば何でもかまわないのだが「キーボードが写真と違う」くらいのことでとまどうのも何なので、FMVにした。
すばらしいことに問題ない程度にきちんと動いた。そして相も変わらずバンドルソフトてんこ盛りである。特筆すべきことにニョーボのお父さんは毎日パソコンに向かっている。どうやらバンドルされた将棋ゲームがおもしろいらしい。ここでようやくFMVの戦略がなんとなく分かった。つまり、パソコンユーザーの底辺を広げることが第一目標。底辺を広げる戦術は一つに低価格路線、もう一つが買った人間がパソコンを何かに使えるようソフトをふんだんにプレインストールするというもの。通常は底辺の拡大の手段に価格しか考えないところを、「折角買ったからには何かに使えるようにする」ことを考えているのは評価してよいと思う。
そして、シェアをぐんと伸ばておけば、一度FMVを買った人間は次のパソコンも富士通製を選ぶだろうと考えたわけだろう。確かにその程度のブランド力はあるかもしれない。そう考えるならば、富士通の戦略、そんなに悪くはなさそうだ。
ところが、富士通は単純なことを忘れていたようだ。「そんな戦略誰でも真似できる。」それは赤字覚悟の低価格路線は富士通の資本力が必要かもしれない。しかしゲームパックとメニュー(ランチャー)を除いて自社製品がない。ゲームパックとメニューだけならいくらでも代補が効く。ここは是非富士通でなければバンドルできないソフトをつけてほしかった。例えば「スペルマスターかきたおし(あなたをやさしくしごいちゃう)」とか。
あるいは、あらゆるジャンルのプレインストールソフトのおかげで「自分はパソコンでこれ以外のソフトを使わない」ということを購入者が自覚してくださり、次のパソコンはうっとうしいプレインストールなしのものを選ぶようになったということがあるかもしれない。でも富士通はまだ良かった。システムインテグレーターもやっているから端末としてパソコンを売りこめる。Gatewayとかはそれもなかったわけだから。
もっと喜ぶべきことは、Gatewayが日本から撤退しても、アフターサービスを除いて困る人はおるまいが、もし富士通がパソコンから撤退すると、端末の面倒を富士通に見てもらえないので困る人がたくさん(企業ユーザーに)でる。そういう店ではありふれたAT互換機とはいえ、富士通機は他メーカーによって代替出来ない。
とはいっても現場の富士通の人は大変だろう。安定性の悪いWindowsを端末に使い、OAでも使いたいからと、MS-Word,MS-Excelまでサポートさせられる。なら、端末はUNIXベースで動かして、StarSuiteを無料/サポートなしで入れて、としたくなるだろうなあ。
そうか、SUNがStarSuiteを無料で配るのは意味のあることだったのだ。ちゃんと利益を生む。デスクトップ端末としてUNIXがWindowsに取って代われないのはMS-OFFICEに代わるものがないからで、MS-OFFICEをOEM供給すればサポート費用がかかる。ならば、無料につきサポート不要のOFFICEがあればデスクトップ端末用OSとして、システムインテグレーターはUNIXを喜んで使うだろう。