いわゆるDOS/Vパソコンの自作(最近は、自作パソコンをDOS/Vパソコンと言うらしい)記事はメーカー品にない個性的なものを作る、というのが主流となってきており、その中でも「音を出さないPC」の記事が多くなってきた。コンピュータネタ、目次へ
空冷ファンの出す音を周波数特性まで図ったりして徹底的にがんばってはいるが、中途半端な感がぬぐえない。過去、最も音を出さなかったPCは何か考えた形跡が無いからだ。史上最も音をださなかったPCは恐らくHewlett PackerdのHP-200LXである、まずはそこに立ちかえろう。
こいつは殆ど無音である。ファンは無い。ハードディスクは無い。キーボードはカチリとも言わない。せいぜい、フラッシュメモリカードがものによってはジーというかすかな音を出すだけである。どうすればこれに匹敵するものができるだろう。できなくはない。クルーソーのマザーボードが無いのは残念だが、CPUはVIA製をクロックを下げて使いファンを省く。ハードディスクは搭載せず、フラッシュメモリカードをIDEハードディスクに見せかけるICF-01とかのアダプタを使用する。電源は、外付けのACアダプタを流用する(4個ぐらい必要になるが)。ノートパソコン用なら残存交流成分も規格内に収まるであろう。小型のものはスイッチング電源なのでトランスの振動も無いはず。
キーボードには丸めることさえできるフニャフニャのを使えば打鍵音もしないだろう。
CD-ROMは使わない。文句を言う人がいれば地球環境のためだ、ということにしてもらおう。このような手法をとると消費電力もぐっと押さえられそうだ。Hewlett PackerdのOmniBook300が昔はこんな感じだった。Windows3.1の時代、メモリは当時でも少ない2MB。しかしOSとMS-Word,MS-ExcelをROMに持っており当時電池駆動4時間を実現していたらしい。このコンセプト。現代の技術で作り直せばめちゃめちゃ受けるのではないかなあ(私は買う)。
ここまでくると無音化の一番の障害となるのはマウスかもしれない。光学式にすればボールの回転に伴う音は消えるが、クリック音が残ってしまう。キーボードのクリック音なくてもよい人が多いのにマウスのクリック音にこだわる人は多いのだろうか、音がしないというのにはお目にかかったことがない。昔のミツミのワイヤレスマウスが一番音がしなかったかなあ。でも、そこまでするか?こうなるとむしろ情緒的な問題だろう。無音では困るのだ。静けさを表現するためには音が必要なのである。「静けさや 岩に染み入る蝉の声」の世界である。したがって無音のPCは日本人の美学からみて作ってはならないのである。
今度は論理的にも無音PCを作ることは意味がないと論証してみよう。
「題名のない音楽会」という番組に「おそらく番組の中で最高のゲスト」という紹介で現代音楽の作曲家ジョン=ケージ氏が登場したことがある。この人偶然性の音楽、とりわけ4分33秒という全編音なしの曲を作ったことで有名なのだが、興味深いことを言っていた。
かつて無音室に入ったことがあった。でも無音にも関わらず2つの音が聞こえた。高い音は神経の作動音で、低い音は血液の流動音だそうな。このときケージは「無音」という状態のないことを知り、全編音なし、しかし音は聞こえる、という4分33秒の着想を得たそうな。
かくしてPC無音化は、それ自体無意味であるわけだ。だから静音PCの追究は意味があっても、無音PCは意味がない。証明終わり。静音PCを追究するなら、折角アルミのケースが流行っているんだ、その上に銅板を重ねて振動を消す、という記事が出てもよさそうなんだが。アルミと銅を貼り合わせると振動を打ち消し合って音が小さくなるそうな。(DIYショップで、試しに銅板とアルミ板を重ねて叩くとその通りだった。)これは電気洗濯機を静音化するために使われているらしい。そのうち星野金属がそういうケースを出すかなあ。高くなりそうだなあ。でもアルミに銅メッキでも同じような効果があるのであれば、採用されてもおかしくない。ついでに銅は電気抵抗が少ないから、ケースにアースをとった場合動作が安定する、というメリットも無理に付け加えよう。
ケージの「無音というのはあり得ない」という発見。別のところで悩みの種となった。同じように完全な闇というのはあり得ないのではないかな。視神経の出すノイズが、必ず何らかの光を人間に見せてしまうのではなかろうか。従って完全に光のない色、すなわち「黒」というのは知覚できない。
ところが、またもやディズニーマジックに驚かされた。ディズニーワールドMGMスタジオのタワー・オブ・テラー、うう、真っ暗で真っ黒だ。視神経のノイズがモアレのように見えると想像していたがそれすら見えない。いや必ずどこかに光があって「黒」を見せているはずだ。大体さっきの明るいところから動いてきて、その間に遮光板はなかったから光は漏れてきているはず。いったいどうやっているのだろうか。この疑問は数年後、インクメーカーの人と話をしていて解決した(と思っている)。その人の仰るにはインクで一番難しいのは赤と黒。黒の理想はビロードの黒。光を吸収するかららしい。
なるほど、かのホテルでは周りに黒色のビロードを貼り詰めていたのか。それで「黒」を見せたのだな、と納得。
ちなみに、そのインク会社の人の名刺をもらって、印刷に使われている黒インクにいたく感心した。よく見ると細かい気泡の跡が残っている。なるほど、これで光を吸収してより黒く見せているのだな。言っていることとやっていることが実に細かいレベルで一致しているすばらしい会社だと思った。