政府がオープンソースを導入すると

 11月16日付けの朝日新聞夕刊の一面に「電子政府、脱ウィンドウズへー公開型OSを想定」というのがあった。

《政府は、インターネットを通じて申請や検索ができる「電子政府」の安全性を高めるため、政府内ネットワークのコンピューターで採用する基本ソフト(OS)の見直しに乗り出す。設計内容が公開され、独自に安全策を講じられる「オープンソース」と呼ばれるOSの採用を想定。現在は政府内コンピュータのOSの大半を占めるウィンドウズから切り替えが進む可能性が高い。》

 もっとも内容は「総務省は来年度にも、学者や業界関係者らで構成する調査研究会を作り、各国政府のオープンソースOSの導入状況を調査。日本で導入する際の課題を探る。」程度らしい。見出しは少し興奮してか先走りすぎ。

 でもこんな記事は読む方も興奮する。かくしてさらに先走って日本で導入する際の課題を考えてしまいました。
 1.どこまでを基準としてオープンソースを導入するか。(OSだけでいいのか)
 2.オープンソースが使えるレベルまでに発達する目処がついているのか。
 が問題になりそうです。

1.どこまでをオープンソースとするか、は結構根の深い問題となります。
 OSをオープンソースにしようということのようですが、それだけにとどまるとは考えにくいです。まず「かな漢字変換はどうするのだ」。OSの一部と解釈できますが、オープンということでWnn4で行きますか?はっきり言ってATOKより生産性が下がります。ではかな漢字変換だけは政府の出資でオープンソースで開発しましょうということになるかもしれない・・・おーこれでJustSystemは潰れるなあ。
 サーバーOSはLinuxでいいとしてもクライアントは?Windowsにします?独自に安全策を講じることが出来ませんからLinuxにしますかね。(B-TRONは仕様は公開されているけどオープンソースではない。。。んだよね。)
 「独自に安全策を講じることが出来る」からオープンソースというのであれば、範囲がOSだけに限定されるのは変です。オフィスソフトもドキュメントを勝手に製造元に送信しては困るので、独自に安全策を講じなければなりません。ブラウザ/メーラーもしかり。少なくともMicrosoft製品は使えません。

 かくして「独自に安全策を講じることが出来るので」オープンソフトを採用するという方針となった以上、政府へのソフトウェア納入基準は、オープンソースとまでは行かずとも最低「ソースへのアクセス権、改変権が政府にある」ということになります。これがカスタムアプリケーションであるなら問題はないでしょうが、安全のためであれば商用ミドルウェアですらソースへのアクセス権、改変権を提供するようにと強制しなければならない。たとえ相手がOracleでも。
 これはソースコードを財産とする現行の商用ソフトのビジネスモデルを破壊することにつながりかねません。(まあパッケージソフトで食っているプログラマは少ないのだろうけども。)

 2のオープンソースが使い物になるか、というのは失礼な言い方である。オープンソースに多大なエネルギーをかけている人に怒られても仕方がない。でも私も小物とはいえフリーソフトをソース付きで公開しているのだ。怒るのはちょっと待ってくれ。
 オープンソースの採用をOS以外にも拡大することを考えたとして、政府が使いたいと思っているソフトがどこかにあるとは限らない。またたとえ政府といえど、こういうプログラムが必要だから作れといえば誰かが作るという保証はない。
 むしろ政府が管理に使うようなプログラムは出来ないでしょう。ハッカーがそんな物を作るわけがない。(第一テスト環境がない)

 それでも英語圏であれば、誰かが作っているかもしれない。でも狭い日本語圏では辛いのではないか。そこで仕方ない、英国政府が使っているのを日本語化しよう、ということになるかもしれない。が、政府が予算をつぎ込んで日本語化し、業務に合わせてカスタマイズしたものを、さあGPLに基づいて日本政府がオープンソースで公開するかが極めて疑問である。
 「これは機密とすべきプログラムだから」と公開しないものがあるんじゃないだろうか。こんなのが一つでもあれば大変なことになります。日本政府は三権分立があろうとなかろうと「GPLのライセンス規定にとらわれる必要はない」と宣言しなければなりません。ひょっとして日本におけるオープンソースムーブメントはこれでとどめを刺されます。

 また、オープンソースを日本国内で発展させるためには、日本のプログラマを「オープンソース活動が出来る程度に」暇にしてやらねばなりません。身の回りを見渡す限りでは「そんなの無理でしょう」。が、少なくとも英語プログラムの日本語化が出来る人間を政策的に優遇せねばないません。

 オープンソースを電子政府に採用するためには、日本政府が制度と人の観点からオープンソースを公式に推進せねばならないわけです。そしてオープンソース以外の既存ビジネスモデルの見直しを強制するということです。このとき総論賛成各論反対はだめよ、ということ。

 というわけで、現状ではお先真っ暗ということになりました。まあWindowsで構築するよりましですが、変にオープンソースの採用を決めてしまうとオープンソースムーブメントと、日本のソフトウェア産業をあらかた潰してしまう可能性があるということ。政府がオープンソースと言い出した場合、オープンソースを採用するのは政府だけにはとどまらないからね。

 でも、総務省が作るというオープンソースを電子政府が採用することを検討する調査会。下働きでいいから参加したいわん。(資質は十分だと思うのだが)どこに立候補すればよいのでしょう。誰か知っていたら教えてちょうだい。

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