インテル推奨近未来PC

 久しぶりに「DOS/Vマガジン(2003.4.1号)」なんツーものを買った。(よほど退屈していたらしい)
 見開きの「Sylicon EYEs」という記事。笑いはしなかったが「なんとしょーもない」という感想。ただし「しょーもなー」と読み飛ばしていては、全然発展がないので少々コメント。結論はしょーもないが、取り上げている話題は十分考えるに足る。

 この記事が今回着目しているのは、インテルの提唱する「DeskTop Platform Vision Guide」。これは、IntelがPCデザインのガイドラインをPCメーカーに提示する際に、従来の電気的・物理的な設計だけでなく、ユーザーの使い方に合わせた領域まで踏み込むというもの。
 それによると、今まで日本のPCメーカーが考え、その製品に搭載し、高付加価値を実現していた「テレビチューナーを内蔵し、MPEG-2に変換してDVDに書き込む機能」や「小型のカメラを付けてビジュアルチャット」といった機能を、これからはインテルが各PCメーカーに提示するようになるということらしい。

 筆者の危機意識はよくわかる。インテルがこういうことをすると、OEMに甘んじていた各PCメーカーも高付加価値のPCを生産することができるようになるので、今まで高付加価値PCを生産していた日本のメーカーが独自の製品を出してゆく誘因が無くなる。
 結果としてPCのデザインをインテル1社が考えるようになり、PCが面白くなくなる。ということらしい。
 で、結論は「できるだけ早期にインテルがこのプランをあきらめることを望みたい」。

 PCが完全に家電化してしまうのだと考えれば、PCにおもしろみが無くなってもそれは仕方がないだろう、という低レベルの反論をとりあえずしておいて、少しばかり考える。インテルがこのプランを撤回することがあるのだろうか。
 もっと正確に言うと、インテルがこのプランを作ろうとした動機は、PCがつまらなくなるかもしれない、程度の理由でなくなるほど弱いものなのだろうか。もちろん、そんなはずはない。

 PCがここまで普及した契機がインターネットであるとしよう。しかし、今やインターネットクライアントはインテルプロセッサを必要としていない。メールだけなら携帯電話でも使えるし、Webを見るのが主目的ならば低価格プロセッサDuronを使ったものの方が売れ筋だ。高価なPentium4なんぞ使うことはない。税の確定申告だって同じだ。安い奴で十分だ。

 で、このレポート「DeskTop Platform Vision Guide」をかじると、、、どうやらPCを複合家電として位置づけて、そーゆーものを皆さん作るといいよ、ということを述べているようだ。例えばジュークボックスやステレオとして、あるいは写真のアルバムとして、自動化でデータを取り込んでくれるビジネスパソコンとして。PCがみんなこういうものになれば、高速CPUが大量に売れる。となれば、インテルは利益率の高いCPUを売ることができる。
 利益率の高いCPUをいかに大量に売るか、その手段をインテルがこのようなものだと考えついた以上、このプランをあきらめることはあり得ない。もし理由もなくあきらめたら、幹部は株主に訴えられかねない。

 従って、インテルにこのプランをあきらめてもらうためには「このプランはうまくいかないよ」ということをインテルに分かるように説明することが必要となる。見開きのページをもらっているほどのライターの代わりに、その辺を考えてみよう。

 インテルがこの「DeskTop Platform Vision Guide」を提示して高付加価値PCを作ってもらいたがっているPCメーカーは、どうやらシンプルなPCを安く供給しているOEMメーカーらしい。で、先ほどのコラムの筆者は、こういったOEMメーカーがインテルのプランに乗ることにより、日本のメーカーが作っているような高付加価値PCを簡単に作れるようになると考えているらしい。おそらくインテルも同様の仮定を持っているのだろう。

 この仮定を突き崩せば、インテルはこのプランをあきらめてくれるはずである。つまりインテルがガイドラインを作っても、OEMメーカーはそういったPCを作らないであろう、と論証すればよいのだ。
 簡単だ。今までVAIO(デスクトップ)というお手本があったにもかかわらず、VAIOモドキを作れなかったOEMメーカーが、インテルのガイドラインくらいで作れるようになるわけがないと言えばよい。
 「DeskTop Platform Vision Guide」で提示されたPCの姿もPC単体としてみればとっくに実現された新鮮味のないものである。ただし、ここで想定されているネットワークのサービスがないから、将来像に思えるだけなのだ。

 確かに、486からPentiumに移行した際、つまりベースクロックが33MHzから66MHz以上にあがった際、高周波を扱うマザーボードの設計に必要な高度なノウハウをOEMメーカーはそれをどこかから入手しなければならない。このとき、彼らにとって、インテルのガイドラインが役立ったのだ。
 ところが、今回のガイドラインを見ると、音楽リッピング用PCを作るには、インテルの速いCPUと大容量のHDD、それにDDR-SDRAMを載せて、ブロードバンドに接続、もちろんCD-RW/DVDドライブを付けて、後は「Music cataloging software」をプレインストール、というコトが書かれているだけである。
 多分会員企業にはもう少し詳細なガイドラインが提示されているのだろう。でも、だからといって、何か作るようになるのか?今まで作ってこなかった企業が。

 そして、さらに言うと「Music cataloging softwareだって?そんなソフト、誰が書くのだ」。
 かくして、インテルがこの「DeskTop Platform Vision Guide」をあくまで推し進めた場合、結局売り上げを伸ばすのは、プレインストールされるソフトを書いてOEMメーカーに供給するソフト会社ということになる。PRO-Gあたりががんばりそうだが、結局、見栄えはいいが意味もなく大量のCPUパワーを必要とするソフト会社が、インテルのお眼鏡にかなって、インテルの推薦を受けることになろう。
 つまりマイクロソフトがまた儲かる、ということである。

 うーん。確かにこれではつまらない。インテルがこのプランをあきらめてくれないかなあ。

コンピュータネタ、目次
ホーム