ヤッホー、ネットワークコンピュータ

 「500ドルパソコン」ようするにオラクルが提唱したネットワークコンピュータだが、きわめて短命なセールストークに終わった。但し実物も船井電機が作っていたようで、なんかの展示会で見た覚えはある。(船井電機とマブチモーターは10年前、国内のコストダウン成功の双璧だったなあ。)
 失敗の原因は、パソコン(ここではAT互換機)がどんどん安くなってきたために普通のパソコンが500ドルとなってしまい、ネットワークコンピュータのコスト的優位が無くなってしまったからということだそうだ。それに、当時は「ブロードバンド」というものもなかったし。

 ところが、パソコンで一番高いパーツがMicrosoftのOSになったと言われ、かつブロードバンドが普及したとなると、Linuxなど無料のOSを採用し、ブロードバンド接続を前提としたネットワークコンピュータのアイディアを再び引っ張り出してくる人がそろそろ現れてもおかしくはない。
 というか、ソフトバンクがヤフーBBの加入者を、あれほどまでにして増やしたいのであれば、ネットワークコンピュータを配った方が効率的なんじゃないかと思った。
 少なくとも返品率は減るぞ。セールスも楽だ。「電子メールとインターネットが出来るパソコンを無料で差し上げます」とがなれば足を止める人も多かろう。
 というわけで、ネットワークコンピュータの無料配布、出来るかどうか考えてみよう。

 「がんばれゲイツ君」からの聞きかじった数字で計算してみる。ソフトバンクがヤフーBBのADSL販促キャンペーンにかける予算があと2000億円。目標加入者数は特に発表されていないようだがADSL加入者の過半数を狙うとすると(ADSLの方式で独自方式を強引に進めNTTにたてついた以上、過半数のシェアをとらねば認めてもらえないというYahooBBの事情があるそうだ)、という前提で計算してみた。
 2003年3月末のADSL加入者数は700万で、ここ一年の月ごとの増加数はだいたい一定、しいていうと増えていることから考えて、来年度末の加入者数は1500万と推計。で現在のYahooBB加入者数はよくわからんが100万人キャンペーンをやっとるので、100万とみて、2003年度末に過半数をとるとするとあと650万契約が必要。予算2000億の半分を販促費・管理費にかけたとして、ばらまく機械に充てられる予算は契約一件あたり15000円となる。
 うち、7000円がルーター代とみると、端末にかけることができるのは8000円。

 ところが思い切り安い値段でパソコンを作っても部品代だけで3万円はゆく。しかもディスプレイは含まれない。
 パソコンでなくとも、知育玩具に毛が生えた程度で十分なのだが、パソコン型にこだわるならば例えバンダイに協力を依頼したとしても原価がこれでは作れまい。携帯電話程度のディスプレイを持ったものを作るのが精一杯だろう。ならば、ディスプレイはTVを流用することにして、本体からも極力部品を外そう。イメージとしてはセガのキッズコンピュータPicoというのが落ち着き先になるか?なんかWebTVみたいだなあ。

 出来なくはなさそうだ。ともかく本気で650万契約をとろうとすると端末無料配布しないと多分追いつかない。650万契約というのが、どれくらいのものか他の数値と比較してみよう。2002年1年間の国内パソコン出荷台数が1154万台。つまりYahooBBは一年で売れるパソコンの台数の半分以上にあたる数の契約をとらなければならない。しかも1154万台という数値には企業向け販売も含まれているのだ。
 さらにADSLの見込み客をストックベースで見てみる。パソコンの世帯への普及率が郵政省によると50%。総世帯数は総務省の統計だと5000万だから、2500万。このうち700万世帯が導入済みであるから、残るは1800万世帯。つまりYahooBBはADSL未導入世帯の1/3以上と契約しなければならないことになる。
 しかも650万契約はこう見えても甘めの目標なのだ。Yahooが650万契約という驚異的なシェアを獲得したとしても、国内全体のADSL新規契約は2003年度末までで800万にとどまっていると仮定している。つまりYahooBB以外のプロバイダが全体で150万契約しか増やさないということを前提としているのだ。当然YahooBBががんばった分全体の新規契約数は増えることになろう。この条件で、YahooBBが過半数のシェアを占めるには、、、100万契約しか今まで取れなかったところが650万契約とるのであるから、単純計算で550万契約余分に増えるはず。つまり2003年度末のADSL導入世帯数は2050万。過半数のためには925万契約。で、さらに・・・この数列、収束しそうだが公式を忘れた。  どうやら新規に1200万契約必要になりそうだ。このとき、現在のパソコン導入世帯の96%にADSLが導入されることになる。サービス地域外を含めてだ。

 こうなればどう考えても今までパソコンを買っていない世帯にADSL契約を売りつけなければ目標は達成できない。ならばインターネット端末を一緒に配るくらいの思い切った手をとらざるを得ない。

 しかし、実際問題としてそんなことできるだろうか。計算し直すと一契約あたりハードに回せる金額は8300円になってしまった。これではどうしようもないと煮詰まってしまったところ、プロバイダーが専用の接続端末を安く売り出したという前例があったのを思い出した。
 合衆国のプロバイダー、ネットプライアンス社がアイ・オープナーという専用の接続端末をわずか99ドルで売り出したのだ。しかもSVGA液晶ディスプレイ付き。小型でデザインもなかなかいい。しかし問題はこれを改造してLinuxとかで動かした奴がいたこと。このためにハードを原価割れで安く売り、接続料で儲けるというビジネスモデルが行き詰まってしまったそうな。

 ただしYahooBBの場合はハードを別売する必要はなく(逆にしない方がいい)、ルーターと同様に契約解除なら返してくれと言ってしまえばいいわけで、そうすればハードだけ購入してあとは知らん顔というお客さんを食い止めることはできる。ネットプライアンス社もハードだけ買ってゆく人がいるのを前提にとりあえず199ドルに値上げしたそうだが、もし仮にこれが製造原価としても、同じものを今作って原価8300円というのは不可能だろう。やはりだめか。
 しかし8300円・・・ルータの仕入れ値に毛が生えた程度だ。つまり「ADSL契約者にルータ無料配布」をやると否応なくこの程度のコストはかかる。いかにも多いと思われていた「販促費2000億円」だが、実は論理的に導き出された必要コストだったのだ。  ところが専用端末を実際に作る必要はなく、またコストもカットでき、かつお客さんにも(とりあえず)喜ばれる方法に気がついた。まずはYahooBBが専用端末ばらまきのビジネスプランを堂々と発表すること。ビジネスプランの 内容は「専用端末を作って契約者に無料配布し、一千万契約を目指す。この顧客をベースにしてASPを含む次世代のネットサービス拡充を図る」くらいでいい。
 それを聴いたゲイツ君は、それだけのPC需要を掘り起こせるならと言ってくるぞ。「余っているXboxを提供するから、それを専用端末として配ってくれ」。ここからは孫さんの交渉力次第だ。「ついでにMS-OFFICEも提供してくれ」なんてどうだ?
 かくして一般家庭にMS-OFFICEの動くXboxが無料で配布されることになるのであった。
 ゲイツ君も到底PCを買ってくれないような世帯にマイクロソフトのOSとマイクロソフトのアプリケーションが導入できて満足だろう。

 ということは、YahooBBが最初に提供するネットワークサービスは当然「ウィルスチェック」で決まり。さあ、TrendMicro、Symantec、McCafeeの争いが始まるぞ!

結論:ソフトバンクのADSLシェア過半数作戦は失敗する。
教訓:当初ADSLサービスを始めたとき、申込者をきっちりサポートしとけば、こんなコトにはなるまいに。
提案:早めにNTTに謝って、接続方式変えちゃったら?


2003.5.31追加
 情報通信審議会で、YahooBBのADSL方式は、制限のないクラスAに分類されたそうですね。会員数も270万人は突破しているとか。
 強引な会員獲得を行い、会員数をバックにごり押しするという戦略はひとまず成功のようです。これで町も静かに・・・なってきたような気がするのは気のせい?
 しかしインターネットの世界で「ごり押し」という手法が通用するとは思わなかった。ごり押しすると、コミュニティに総スカンを喰らう(極端にはDDos攻撃)というのがパターンだったような気がするのだが。
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