脱モバイル宣言

 10年以上前から、携帯電脳を持ち歩いていた。早朝、会社の喫茶室で夫婦でHP-LXを取り出し、赤外線ファイル転送をしていた姿は、あまりにも有名で、ほとんど伝説と化している。
 そのHP-100LXに始まり、使用マシンはThinkPad220、PC-110、モバイルギア、WorkPadC3、Sigmarion2と連なっている。とりあえずSigmarion2だけは現役。他は酷使の末だいたいスクラップになった。

 何に使っていたか、というと大半がNifty-Serveのログ読み、レス書き。もちろんPIMとしても使ったし、あとはホームページの原稿を書いたり、Webブラウジングをオフラインでやったり。あまりゲームが好きな人間ではないのでそんなものだ。
 以前はNifty-Serveにつなげるように、どこに行ってもまずはグレ電を探すくせがついており、わずかな時間でモデムを繋いで発言をアップする達人でもあった。ホームに既に乗るべき新幹線が滑り込んでいても、グレ電からNiftyのホストに繋いで、発言をアップして、きちんとログアウトしてから乗車するというあきれた人間であった。

 Niftyのログを持ち出して読むために、フリーソフトをいくつか書いたのはホームページでも紹介しているとおり。
 2ちゃんねる嫌いの私であるが、Nifty-Serveの電子会議室は大好きである。まあ、2チャンネルという名前がまずイヤなんだよなあ。2チャンネルで連想するのは、NHK教育テレビ(大阪ではそう)。ひょっとして2チャンネルがテレビ放送に割り当てられているのを始めた人は知らなかったのだろうか?可能性はある。「ニュースの女」とかいうTVドラマも、舞台のTV局は「チャンネル2」であった。
 つまり関東の人間は2チャンネルは使われていないと認識しているのだろうか。なお「プロレス スターウォーズ」という漫画では、架空のTV局を7チャネルとしていた。みなさん見習いましょう。

 それだけ熱心であったが、いつの間にか携帯電脳を持ち歩くのを止めてしまった。一つはハードの問題である。HP-100LXより使いやすいPCが無いのだ。電池が一週間持ち、小さく軽く、キーボードがついていて、操作がしやすい。これに比べると、PC-110やSigmarion2でも重い、でかい、電池が持たない。

 ソフトの問題もある。MS-DOSは携帯電脳では使いやすいOSであった。必要とするマシンパワーが低くてもよいので、きびきび動く。GUIなんてものがないので画面の小さい携帯PCには適当。またDOSのソフトなら、キーボードのみで操作できるので使いやすい。
 そういったソフトは時代の流れで消えてしまった。やはり2000年問題がとどめとなったのだろう。

 制度的な問題もある。以前は、会社に携帯電脳を持ち込んでも誰も何も言わなかったが、最近はセキュリティの問題もあって、その辺がうるさくなっており、持ち歩きにくいのだ。
 まあ確かに、携帯PCで仕事すると称して、会社の資料を持出したはいいがPCごと盗まれた、などということも起こりうるので、規則としては理解できる。PalmやWindowsCEは「電子手帳だ」と言い張れるとしても、例えばLinuxザウルスだったらワークステーションと認定されるはず。ならセキュリティ規則上持ち込むことは許されない。

 ただし、その方向でセキュリティ対策を推し進めてゆくと、携帯電話の持込を規制しなければならなくなるのも時間の問題だ。今や携帯電話はリアルタイムで音声も送れるマルチメディアインターネットクライアントである。Javaの実行環境を持った時点ですでにパソコンであると言ってもよい。
 かといって「持ち込み禁止の携帯電話機種」リストなんぞを作ると混乱するだろうなあ。社内は統制できたとしても、外部からこられたお客さんの分までケアするとなると・・・。ところで撮影禁止の工場、入り口でカメラ付きケータイはチェックされるのだろうか。チェックしたとして、実効性はあるのだろうか。

 また携帯電脳を使わなくなった別の要因として「紙」の良さを再認識したこともある。何しろメモをとるのは紙の方が速い。長文を打つのはキーボードの方が速くなるとしても、データの使い回しをあきらめれば、レイアウトをイメージしてから書き始める必要がなく、また仮名漢字変換のまどろっこしさがないだけ、やはり紙とペンの方が速いのだ。
 それに軽いし、電池の持ちを心配する必要もない。情報の一覧性については紙の圧勝である。
 なわけで、ためしにシステム手帳を昨年末に買ってみた。BindexのA5(かなりでかい)。  リフィル(中に納める紙)は、見開き2ページが1日分(左が白紙、右がスケジュールとToDoリスト&メモ)というのをメインで使っている。
 これが実に具合がよい。長時間会議で無い限りスペースが足りなくなることはない。毎日新しい見開きページを開けるので、三日坊主の当方もなかなか飽きない。(会議の時は会議用リフィルに書けば何の問題もない。)

 そして気がつくと携帯電脳を開けることがほとんど無くなっていたのだ。

 自宅にも会社にもインターネット接続環境とPCがあり、特に出張もない身としてはいわゆるモバイル環境を持ち運ぶ必要は特にない。確かに通勤時間の有効活用のために「読み物(Niftyのログとか、Webページとか)」を持ち運ぶこともあるが、ThinkPad220からSigmarion2に至るまで、文字の読み易さがHP-100LXにとてもかなわないのだ。だいたい日が照ると字が見えなくなる。つまり持ち歩いたとしても、屋外では使えない。すなわち史跡に行っても案内版の内容をメモすることには使えない。帰りのバスの時刻をメモするのにも使えない。

 以前述べたように私はモバイルという言葉が嫌いだった。でも何かには使えると思っていたし、普及するといいなとは思っていた。少なくとも私はNifty-Serveのログを持ち運ぶためのフリーソフトを3本書いたし、これまた自作ソフトでPointCastの配信ニュースをデスクトップからノートPCに毎日のように転送していた。多少はモバイルとかいうやつに貢献したのだ。
 でも、今から特に何かをやろうかなという気はなくなったなあ、という感じである。モバイルは面白くなくなってきたし、特にPCを持ち運ぶ必要もないからである。少なくとも重さを気にして、大きさを気にして、電池の持ちを気にして、出先での故障を心配して、そこまでして持ち運ぶ気はない。
 もっとも、この文章は帰りの電車の中、シグマリオン2で書いているのではあるが。

 そういえばシグマリオン2を購入したレポートさえ書いていなかったなあ。普通新しいハードを買うとホームページのネタにするのだが、自分の意識の中ではまだ評価中のステータスらしい。

コンピュータネタ、目次
ホーム