対決!Microsoft対家電メーカ

 例えば「情報家電をめぐる日本とマイクロソフトの綱引(上)(下)」 にあるように「情報家電のOSを巡るMicrosoftと日本メーカーの対立とその行方」という論調の記事を最近よく目にする。だいたいにおいて「日本の家電業界はMicrosoftの支配から逃れられるか」というのが焦点となっている。
 しかし、それって焦点になるようなことなのだろうか。無理に今後の興味をかき立てるとするならば、逆に「Microsoftは家電を支配できる(使用に耐える)OSを作り出すことができるか」といったことがトピックとなるんじゃなかろうか。

 確かにMicrosoftは今までパソコンの世界の中に限れば、独占をほしいままにしてきた。そして今度は情報家電のOS独占(正確には家庭内ネットワークの仕様独占?)を狙っている恐れがある。家電メーカーが警戒するのはよく分かる。個別に切り崩されないためにと他の家電メーカーと共同戦線を張っておくのは妥当な戦略だろう。
 しかし、MicrosoftがOSを進化させてきた方向は家電のOS(というかインフラ)に求められるのとは全くの逆方向であった。つまり、多機能にはなるが、重く高く脆弱に、である。これは、家電OSに求められる、速く安く壊れにくいという特性とはまるで反対である。
 もっともMicrosoftはサポート体制に限定して言うならば家電OSのそれを手本としてきた。つまりパソコンOSのバグへのクレームはハードウェアメーカーに持ち込むのを当然視していた。確かに家電であればOSのバグでもクレームは全て家電メーカーにゆくのが当たり前である。ということはパソコンOSであれば、品質が悪いとMicrosoftが批判されるが、家電OSなら名指しで文句を言われることはないはず。Microsoftは是非このような立場を手に入れたいであろう。
 しかし、家電メーカーはその状況を喜んで選択しているとでも思っているのだろうか。OSのサポートをするのはメーカーの責任だから行っているに過ぎない。それだけ自社製品に責任を持つ企業が自社製品のバグやセキュリティホールに責任を感じないMicrosoftの製品を使うわけがないではないか。

 情報家電にWindowsを、とMicrosoftは思っているのかもしれない。しかし実は似たような試みをやって過去少なくとも一度失敗している。コピー機やFAXなどのOA機器をWindowsで統一しようとしたMicrosoft AtWorkである。このとき、Microsoftは見事に各メーカーにそっぽを向かれた。いやリコーだけ例外だったかな。多分パソコン市場に参入して惨敗したのがよほど悔しかったのだろう。(マイツールというパソコンがあったことはあったなあ。)

 もし、Microsoftがこの失敗から教訓を得て、全く別のOSを情報家電用に開発するのであれば、これは日本の家電業界にとって大きな脅威となるであろう。投入できる開発費だけでも脅威である。松下電器がTRONの実装に要したのが100億円。多分家電用OS開発費としては凄い金額なのだろうが、それでもMicrosoftの手元流動性の数十分の一。
(ところでTRONの仕様書、きちんとレビューを受けたのかなあ。ソフトウェア工学の観点から開発プロセスとして見ると、坂村さんが一人で作ったというのはどう考えてもまずいんだわ。仕様レベルのバグがあるような気がして仕方がない。ないとすれば、それは松下の貢献が大であろう。にもかかわらず「プロジェクトX」でTRONが紹介された時は貢献度の高い松下の名前は出てこずに「TRONを採用するというのなら、パソコンを一台一台壊して回る」と言ったNECが持ち上げられていた。)
 しかしMicrosoftが情報家電に最適のOSを開発する心配はない。「こんどのWindowsCE.NETはわずか4MBのメモリで動作する32bit、プリエンティティブマルチタスクOSで、過去の資産も全く問題なく動作し、その速度はWindows3.1より高速である」といったアナウンスすらないではないか。(ちなみにこのアナウンス内容、Windows95の事前宣伝の流用であります。実現できなかったのはご存じの通り。)

 単純な話だ。Microsoft対家電メーカの対決をあおっても無駄だ。Microsoftは情報家電に使用できるOSを開発しそうもない。従って日本の家電業界を支配することはない。これだけのことだ。
 対決があるとすれば、それはこれから家庭でパソコンの代替として「情報家電」が使われるようになるかどうか、ということになろう。攻めるのは家電メーカ。守るのがMicrosoft。つまり、MicrosoftはIntelその他と協同して「情報家電」の導入を阻止するレベルのパソコンを今後作っていけるか、が問題となる。

 この勝負、今のところMicrosoftが圧倒的に優勢である。Microsoftがいかにネットワークに弱くとも、家電メーカーよりはましである。「インターネットに接続する家電」は実績ゼロなのだ。試みも無いわけではなかったが、ネットワークに関するセンスの悪さを露呈しただけで失敗している。「インターネットでチン」がいかに浅い発想であったかは、佐藤イツキさんが、ほとんど最後の仕事で証明したとおりだ。
 しかも、Microsoftには強力な援軍もある。SONYをはじめとする日本の家電メーカーだ。もともとWindowsパソコンであるVAIOはますますテレビに近づいている。テレビを含めた情報家電(家庭内ネットワーク)の中心に座ることを目指しているかのように、だ。
 さらにこの援軍、パソコンでテレビを代替しようとさえしている。自社の得意分野へのMicrosoft参入を手助けしてあげているのだ。

 ちなみに冒頭であげた「情報家電をめぐる日本とマイクロソフトの綱引」では、SONY社長の「パソコンは、低速なインターネット時代にはチャンピオンだった。しかしブロードバンドでは、テレビが家庭の(家庭内ネットワークの)中心となっていく」という宣言が紹介されている。しかしSONYが実際にすすめてきたのはパソコン(VAIO)によるテレビのリプレースなのだ。
 これに対してMicrosoft会長が「ブロードバンド時代にも、パソコンは家庭内で中心的な位置を占めるはずだ」主張するのは筋が通っている。というのはセットトップボックスを付け加えることにより、テレビをインターネットクライアントとしようとしたWebTVが失敗したという実績があるからだ。この辺の認識でもMicrosoftに分がある。

 なわけで、家電メーカーは本気でやる気があるのか?やる気があるとして企画する能力があるのか?が問題となる。無いとすれば、それはもう「情報家電をめぐる日本とマイクロソフトの綱引」にもなるまい。
 家電メーカーの危機意識は分からなくもない。しかしそれは、TVやVTR、ステレオや電話機もパソコンの機能に取り込まれてしまう、という種類のものであるべきだろう。しかし、それって自社内の製品構成の変化という自社内に閉じた問題でないかい?

 家電メーカーの危機意識が別にあるとすれば、次のようなことだろう。
 回線コストの高い今までであれば、家電のネットワーク対応版は、所詮は趣味の延長とであるからパソコンの機能拡張で対応していたので問題なかったが、ブロードバンド(ようするに回線コストの低下)とやらで、戦略を変えなくてはならない。そのとき使用するOSを信頼できない会社のOEMに頼ったままでいいのか?
 要するにこれが「情報家電をめぐる日本とマイクロソフトの綱引」をもたらしたものであろう。

 しかし、家電各社の本音は「MicrosoftにOSを委託する」ではなかろうか。で、良い契約条件を引き出すために「自分で開発します」と牽制しているにすぎないのでは。というのは、家電用OSの候補にLinuxを入れているからだ。
 Linuxのような、割り込みの苦手な(そしてサイズの大きい)OSで家電の制御をするというのは、どう考えても無理がある。とすれば、Linuxと言い出したのは、あえてMicrosoftの一番嫌いな名前を出したかったからと考えるのが妥当ではなかろうか。


 NHK日曜19:20からの番組「見れば納得」で、「おジャ魔女どれみ#」のテーマソング(おジャ魔女はここにいる)が数多く使われていることを発見。これがNHKへの貢献と認められて、紅白歌合戦にMAHO堂が登場するか?
 なわけないか。せいぜい、紅組の応援に劇団飛行船扮する着ぐるみのおジャ魔女が登場する程度だろうなあ。(ないない)でも劇団飛行船のミュージカル「おジャ魔女どれみどっかーん」なかなか良かったぞ。それにしても良い曲をたくさん持っているアニメだなあ。

 「おジャ魔女どれみ」の挿入歌としては、すいーとそんぐABCよりも、ルピナスの子守歌の方が、歴史的には良い曲かもしれん。なにしろ日本には「暗くならない子守歌」が殆ど無い。「ゆりかごの歌」くらいなものである。ここに「ルピナスの子守歌」が加わってくれると心強い。

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