それが「仕様」と言われる理由

 季節的なものもあり、情報処理試験の勉強をしている。
 特に役に立つと言うことはないのだろうなあ、とのんべんだらりと問題集なんぞを眺めているが、たまにおもしろい項目を見つけることがある。今日はそんなおはなし。

 なになに、1995年に旧通産省が告示した「コンピュータウィルス対策基準」によると、コンピュータウィルスとは

第三者のプログラムやデータベースに対して意図的に何らかの被害をおよぼすように作られたプログラムであり、次の機能を一つ以上有するもの。
(1)自己伝染機能
自らの機能によって他のプログラムに自らをコピーし又はシステム機能を利用して自らを他のシステムにコピーすることにより、他のシステムに伝染する機能。
(2)潜伏機能
発病するまでの特定時刻、一定時間、処理回数等の条件を記憶させて、発病するまで症状を出さない機能。
(3)発病機能
プログラム、データ等のファイルの破壊を行う、設計者の意図しない動作をする等の機能。
 興味深いのは、三番目の機能。「設計者の意図しない動作をする」や「ファイルの破壊を行う」というのを素直に解釈すれば、要するに「バグがある」「ファイルを破壊する」ということである。従って、もしファイルを破壊するバグを抱えたプログラムが、「第三者のプログラムやデータベースに対して意図的に何らかの被害をおよぼすように作られた」ものであれば、それはコンピュータウィルスと認定されるということである。当然、処罰も受ける。

 何かピンと来ませんか?例えば、インターネットエクスプローラー。これは独禁法訴訟によるとNetscape Navigatorを商品として立ち行かなくするという被害をおよぼすために作られたものであって、かつファイルを破壊しうる不具合も抱えている。つまりウィルスと認定される可能性がある。
 従って、独禁法訴訟を抱えているうちは、インターネットエクスプローラーがバグでファイルを破壊したとしても、「それは仕様です(つまり意図した動作です)」と言い張り、予防線を張らなければならなかったわけだ。
 「バクではなくて仕様です」というマイクロソフトサポートセンターのあの有名なセリフにはきちんとした根拠があったわけである。こういわなければ、犯罪と断定されるかもしれなかったのだ。マイクロソフトとしてもやむにやまれぬ事情があったわけだ。

 いい悪いは別として、合衆国国家独占資本主義により独禁法訴訟はうやむやとなったため、マイクロソフトは不具合を認め、パッチをリリースするようになった。(しかし合衆国にうやむやという解決策があるとは知らなかった。英語に「遺憾である」という表現があるのもクリントンが連発するまで知らなかったようなものか。)

 ただし、MS-ExcelやMS-Wordがウィルスかというとこれは違うだろう。元々Macintosh用として存在していたが故に、Lotus1-2-3やWordPerfectに被害をおよぼすために作られたソフトと判断することは難しい。
 しかしながら、過去のOSとの互換性を落として作られた(少なくとも約束の互換性を守れなかった)プログラムであるMS-Windows自体はバグ含んでいる以上、バグだけなら酷ではあるがファイルを破壊するバグを持っている以上、ウィルスと認定されるべきであ。

 以前「MS-Windowsはウィルスか否か」という議論があったそうだ。たしか「ウィルスではあるがそれにしてはバグが多い」という結論が導かれたらしい。うまい表現であるが不正確である。バグがあるからこそウィルスなのだ。しかも特に拡大解釈をせずとも、旧通産省の定義を素直に当てはめればそうなのだ。
 少なくともインターネットエクスプローラーにせよMS-Windowsにせよ、ウィルスの疑いを禁じ得ない。どんなにマイクロソフト贔屓に考えたとしても「疑いを禁じ得ない」レベルではある。

 従って、旧通産省はマイクロソフトを呼びつけて「ウィルスの疑いのあるプログラムを作らないように」と厳重注意したとしても、それは正当な理由あってのことである。むしろやるべきであろう。(いきなり上層部軒並み逮捕、というのは少々かわいそうかも。)
 また、ウィルスとの疑いがあるのであれば、当然駆除ツールの提供を求められることもあろう。

 あ、そうそう、競合他社の製品を駆逐するために発表したベータ版で、規定の日付がくるとコンピュータ自体が立ち上がらなくなる仕掛けをしている奴。これもウィルスと認定されるかもしれません。意図しない動作をしたり、ファイルを破壊するのはベータ版だからしかたないとしても、潜伏機能はありますから。

 情報処理技術者試験の勉強は、まあホームページのネタくらいの役には立つようだ。資格を取ったからといって、特にどうということがないのが残念だが。

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