オープンソースをフォークさせると

 トップページに載せている当方のメールアドレスを変更することにした。
 1999年の春に転勤が決まった時、周りの人が連絡をとりやすいようにと、覚えやすいメールアドレスを取得したのだが、年間使用料5000円はチト高い。結局転勤はチャラになったのだが、まあせっかく取得した「ちょーおぼえやすい」メールアドレスだからとホームページに貼り付けることにした。
 当初は内輪受けでもいいかと思って作ったホームページだが、おかげさまで(ほんとうにおかげさまで)今や累計アクセス数22万件。なかなかアドレスを変える踏ん切りがつかなかったために、ずっと使用料を払い続けていたのが現状である。まあこのアドレスのおかげでたまたまアクセスしてきた以前の友人からメールが来たりして、それなりのリターンはあった。でもやっぱり年間5000円(税別)は痛い。20世紀中ならともかく、今世紀に入ると高いという気がしてならない。

 ところが、覚えやすさでは劣るが、かっこよさでは圧勝のメールアドレスを貰うことが出来たので、それに付け替えることにした。
moriyama@openoffice.org
である。スパムメール以外大歓迎です。
 で、アドレスを貰ったお礼に、OpenOfficeをネタにして一文したためることにした。

 さて、このOpenOfficeというのは、オープンソースで開発が進められているオフィススイートである。IBMがLotusSuperOfficeの売り込みに力を入れなくなった今、穴だらけのMS-Officeから乗り換えるとするとこれしかないでしょ、という位置づけで注目度がさらさらに上がっている。
 でもちょっと気になることが一つ。モジュールがフォークしはじめているのである。

 もともと、OpenOfficeは、普通のパッケージソフトStarOfficeをSUNが買収し、一時公開されたソースを元に開発されているオフィススイートである。SUNがやっぱり有料ソフトにすると言ったあとも、開発自体はSUN公認ですすめられている。(このSUNの潔さ。SCOは爪の垢でも煎じて飲めよ。)
 そのため、SUN版のStarOfficeであるStarSuiteとオープンソース版のStarOfficeであるOpenOfficeに分岐することになった。気にはなる。しかし、そこはSUN。ライセンス規定はきっちりと作ったし、まあなんとかしてくれるだろう。あるいはもはや別のソフトであると割り切ってもよかろう。

 問題は、このOpenOfficeをさらに分岐させる動きがあることだ。電机本舗が商品として販売しているOpenOfficeがそれだ。確かに商品にすることは認められている。素材集をつけ、さらにはサポートもありますよ、というのであれば喜んでお金を払おうという人もいるだろう。これはLinuxのディストリビューションが商品として売られていることからも明らかである。
 しかし、ライセンス条件が厳密で、それゆえソースを公開しなければならないLinuxと違い、OpenOfficeは必ずしも公開が義務づけられてはいない。従って現在、日本語版が2つある形となっている。

 ソフトとしての完成度は、多分電机本舗版が優れているのだろう。フリー版(というか正統版)は「ワープロで禁則処理が効かない」「表計算のシート名に日本語が使えない」というかなり致命的な問題がある。これが電机本舗版では改善されているというのだ。
 ただし、というかもちろん、フリー版でもこの問題は修正中で近日正式版に反映することになるそうだ。ただしここで問題が生じる。

 禁則処理の実装が2つに分かれてしまうのだ。しかも、互換性は無いかもしれない。ファイル互換性すらないかもしれない。これが同じ名称のソフトで起こるのだ。
 そのとき電机本舗はどうするつもりなのだろう。考えられることは
 ・今までの実装を捨てて、フリー版に従う。
 ・今までの実装を取り、フリー版との互換性を捨てる。
 どちらにしても問題だ。前者の場合、自社製品の従来のユーザーにしわ寄せをすることになるし、後者の場合圧倒的多数のフリー版ユーザーに混乱を与えることになる。

 この程度のこと、商品を出す段階で気がつくべきだったのだが、見切り発車なのかなあ。
 だから思うのである。どうして電机本舗(または販売元のアート・ビビアン)は、自社で改良した製品のソースを公開しなかったのだろうか、と。ただし公開の見返りとして「電机本舗への謝辞を入れること」とつければよいではないか。インストーラーは非公開でもいいとして。

 こんなことをすればたしかに電机本舗商品の売り上げへには悪影響をおよぼすだろう。でも長い目で見てメリットも大きいのではないかい。
 まずは電机本舗の商品がOpenOfficeの日本語版のスタンダードと認められる可能性が高いこと。
 フリー版ユーザーに対してもサポートだけ売るというスタイルがとりやすいこと。

 だいたい売り上げへの影響も大したことあるまい。大量導入するようなユーザーはSUNのStarSuiteを買うだろうし(1ライセンスあたり2000円くらいになる)、Linuxディストリビューションだってフリーでダウンロードできるにもかかわらず、パッケージが売れているではないの。

 むしろフォークさせたことで電机本舗はサポート負担で苦労するのではないかな。これは想像だが、かなり強引な実装をしているような気がする。OpenOfficeのヨーロッパ語版のフレームワークを壊すくらいのね。(ちゃちゃっと直せる程度のものであれば、フリー版でも直っているはずだ。)そうすると今後、導入済みユーザーのために強引に直したプログラムを保守してゆく必要がある。

 MS-Officeがいくら何でも何だ、ということが一般ユーザーにぼちぼち分かってきた昨今、OpenOfficeが脚光を浴びるのはほぼ確実である。しかし電机本舗がOpenOfficeのパイオニアとしてのアドバンデージを発揮できるのだろうか。
 普通なら次のように判断されるだろう。OpenOfficeのフリー版は 1.0.3まで行ったが、電机本舗版は未だに 1.0.1。すでに開発体力はないようにさえ見える。とすると「こんなところにサポートを任せるのは不安だな。従業員も5名だし」と判断されるのが関の山である。今まで企業としてOpenOfficeをサポートしてきた実績のある、たった一つの会社という名誉と実績が、まるで意味を持たないんだなあ。

 リリース1.1 (当初間違えて1.3と書いてました。ごめんなさい)が正式に発表されると電机本舗版OpenOfficeのアドバンテージがほぼ無くなると思われる、では彼らは何をやるべきであろうか。考えられることはこんなところだろう。
 大口ユーザーに1.1を配り、インストールの面倒をみる。(北海道伊達市で一括導入されたらしい。)
 ファイルの互換性が無かった場合、変換プログラムを提供する。
 開発コミュニティに思いっきりすり寄る。
 しかし、そのときにはコミュニティに感謝されることはないのだよなあ。最初に禁則処理対応のソースを提供しておけば、こんなことには。

 電机本舗は自社版OpenOfficeを当然Webページでもダウンロード可能にしていない。しかし一時雑誌付録のCD-ROMでJ1版(商品はJ10版でそれまでの中間開発物という中途半端きわまったもの)を配布してはいた。
 で、当方が父親のパソコンにインストールしているOpenOfficeのバージョンが、実はこれである。
 よーするにOpenOfficeをMS-Officeのファイルビューアーとして考えれば何も考えず電机本舗版を使えるのだ。もちろんマクロウィルスが怖いからMS-Officeはインストールしていない。
 やがて電机本舗はMS-Officeの不完全なビューアーを一部配付した会社としてしか、当方の記憶には残らないだろう。まあ、オープンソースを無理に商品化しようとして失敗した例として何度か取り上げるかもしれないが。

 電机本舗にも言い分はあるかもしれん。OpenOfficeのミラーサイトを運営 することによって、OpenOfficeの普及に努めているということは、彼らの名誉のために付け加えておこう。しかし、ここもバーション1.0.1。
 これは発売元のアート・ビビアンが悪かったりして。そのへんは分かりません。でもここも非常勤スタッフを含んで6名の会社。小さな会社だからどうという言い方はしたくないが、これではフォローのしようがないぞ。なんとかしてくれえ。
 最初にソースを公開して、サポートに専念すると公言しておけば、OpenOfficeの普及も早まって、ビジネスチャンスが増えていたはずなのに、と思うんだが。世の中そんなに甘くないのかなあ。


 さて、なんで、冒頭に述べたようなかっこいいメールアドレスがもらえたかというと、ここからオブザーバー登録をしたからであります。C言語の書けない私が参加するのも多少良心がとがめるのですが、日本のユーザーの多さをアピールするくらいの役には立てそうですので。(そういうアピールも必要なんだそうです。)
 な、わけで(私が言うのも何ですが)みなさまどしどし参加しましょう。
コンピュータネタ、目次
ホーム