放置システム、23年後の復讐

 日経ITPro、タダで雑誌記事の一部を読ませてもらっていて申し訳ない。きっとWebの記事が充実したおかげで、売り上げが減り、単価の安い記者しか雇えないのだね。こんな想像力のない記事が出たのはそのせい。だから文句を言われても仕方ないというのがそちらの気持ちかもしれない。
 しかし、そちらにも責任がある。これでも昔は日経コンピュータとか日経パソコンを金出して買っていたのだ。が、おもしろい記事は「新雑誌創刊」でそっちに行き、跡地は広告で埋められる。どんどんつまらなくなりやがて購読を止める。消費者として仕方のない行動だと思う。

 そのかわり私もタダで文章を書いて埋め合わせをしている。参考にしてくれてかまわない。だから文句をつけることを許してほしい。俎上にあげるのは日興シティの誤発注、情報システムとは無関係である。

 記事のネタは《日興シティグループ証券の従業員が、日本製紙グループ本社の株を「2株」で買い注文を出すべきところを「2000株」と間違った》事件。記者は《情報システムの不備や障害とは無関係だった。》と判断しているが、障害ではないにしろ、まず間違いなく「システムの不備」の問題である。
 具体的には「単位株制度」導入時にシステム対応を行わず、運用で(株数/株価の読替で)対処していたことが問題であると思われる。日興がシステムを軽視せず、きちんと投資を行っていれば防げた障害なのだ。日経コンピュータは業界誌なのだから、その辺は読者層に合わせた主張を行ってもいいだろう。

 単位株制度導入時のシステム対応を行っていないという根拠はこれだ。《誤った申請を出した従業員は、株式の売買単位を1株単位ではなく1000株単位に、1株の値段を50万2000円ではなく502円と勘違いしていたため、 2000株の買い注文を作成してしまった。注文内容や本人の資金を確認した法規監理部も売買単位と単価の間違いに気付かず、トレーダに売買指示を出したことになる。》(別の報道では、法規管理部も同じ思いこみをしていたとある。)つまり、1株と1000株の差、これに連動しての株価の1000倍の差は、各従業員が読み替えて頭の中で換算していることになる。
 「単位株制度」というのは1982年の商法改正で導入されたもので、プチ総会屋さんの行動を制限するために、額面5万円単位でしか株の売買をできなくした制度である。従ってそれまで多かった「額面50円」の株式は、1単位「5万円」、ちょうど1000倍の単位で売買されていたのだ。つまり「1単位」買おうとすると「1000株」、株価が「502円」とすれば、「50万2000円」払わなければならないことになる。ね、日興社員の勘違い、計算が合うでしょ。
 つまりかの従業員は、「株を2単位」買おうとした、で額面を50円と思いこんでいたので2000株買うものだと頭の中で計算した。50万2000円は「1単位」の株価が表示されたものなので気にも留めなかった。チェックした法規管理部門も同様。不自然な動きではない。

 日興が怠ったと思われる単位株制度のシステム対応、実に大変であったと思われる。だって株価や株数の項目の桁数が3つづつ変わるんだよ。ファイルやデータベース全部に波及するはず。ひょっとして2000年問題対応より大変かもしれない。(単位株適用フラグを1バイト分作って、後はインターフェースで、とやったのかもしれないが。)
 追いつかないので、とりあえず読替で対処した。が、そのままずるずると来て・・・、というのが今回の事件でないかな。
 ただし、現在「単位株制度」というのは廃止され「単元株」に移行している。単位株は額面50円の場合、一律に1000株が1「単位」だったのだが、単元株は1「単元」とする株数が各社自由に変えられる。未だに1982年(23年前!)の「単位株」に対応していないシステムが、2001年の「単元株」に移行したはずがない。「単位株」は一律だったから読替で何とかなったとしても、各社毎の「単元株」を読替で対処するのは至難の業であるはずだ。どーやってんだ、あの会社。

 日興の広報は「責任は社員個人と法規管理部」にあるといっているが、実際の責任は長きに渡ってシステム投資を怠ってきた経営陣にあるはずだ。それを指摘できないというのは組織に改善能力が無くなっている証拠。
 結論:日興は怖いのでやめよう。特にコンピュータを使った注文は。
 もう一つの結論:ソフトウェア開発会社にとってビジネスチャンスだ。さあシステム更改を提案に行こう。


(2006年1月15日加筆)
 1月14日の読売新聞を見ていると池尾先生が「証券会社で誤発注が頻発するのは、忙しくて疲れているからだ。人員体制の見直しを」などというコメントを寄せていた。
 ゼミの同窓会出席は遠慮していたが、1回くらい顔を出すべきかな。こんどは「システムトラブルが頻発するのは、忙しくて疲れているからだ。人員体制の見直しを」とコメントしてもらうのだ。
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