情報処理試験:実践的論文講座

 情報処理技術者試験、10年ぶりに受かった。大胆にもITストラテジストである。
 午後Iの問題4、なんたらスクールの模範解答速報よりも、当方の回答のほうが読みが深かったので当然と言えば当然なのだが、実は午前IIが辛かった。足きりがもう少し高ければここで落ちていただろう。「死の谷」という単語をたまたま知っていたのが効いた。
 それでも、今まで合格の足を引っ張っていた午後IIの論文が、ようやく一般受けするものが書けたというのが大きいんだろう。

 ということで、試験前日の朝、回路がつながってギャクで書いた論文を大胆にも掲載する。多分それなりの要素は押さえていると見てよかろう。ひょっとして参考になるかもしれない。
 想定している問題は「ない」。いかにも受けそうな要素、をパロディ的にちりばめただけだ。

1.経営上の課題とシステム化の概念

1.1 経営上の課題
 A社はアイディアを扱う中堅企業であり、近年各企業も商品の差別化やコスト削減のために、アイディアを重視する動きが大きく、A社も売上が増加し、会社の規模も順調に拡大中である。しかしながら、規模の拡大にあわせ、経営学のセオリーに従って、組織を区分化し、ライン・アンド・スタッフ型組織への転換を推し進めてきた結果、当社内での情報の流れ、が停滞してきた。つまり、アイディアを扱う当社内において、アイディアの流通が滞るようになったのだ。これにより、従来の当社の競争力の源泉であった、垣根の低いコミュニケーションがもたらす、アイディアの多人数による育成が十分に機能しないようになり、顧客からも従来と同じ信頼を置いてもらえないようになった。

(解説)対象とする会社はどんなものでもいいので、「アイディアを扱う」とした。なんにでも使えそうだ。もちろん業容は拡大していなければ分かりやすい論は書けない。じゃあなぜ、拡大しているか?提供するサービスにマッチする顧客要望が増えたから。具体的にはキーワードとして「差別化」「コスト削減」、この辺を入れておけばいいだろう。いちおう経営学の用語も入れておいたほうがITストラテジストらしいので「ライン・アンド・スタッフ」などと分かりやすいものを入れてついでに字数を稼ぐ。最後は「顧客」の心離れという分かりやすく情緒的で、なんにでも当てはまる問題点に集約させる。

 経営陣はこれを問題視し、IT技術を利用して、社内コミュニケーションの再活性化を図れないかと諮問があった。これを受けて社内にコミュニケーションを活性化するための委員会が立ち上げられ、私はそこに参加した。

(解説)「経営陣はこれを問題視し、IT技術を利用して・・・」汎用性の高そうな言い回しだ。論文の展開上は自分の立場をこの辺で明かしておかねばならない。傍観者でも当事者でもなく好きなことがいえて、突っ込まれることのない「委員会のメンバー」あたりがいかにも適当だなあ。

1.2 システム化の概要
 社内でコミュニケーションを阻害している要因について、委員会内で意見を募ったところ組織の拡大・細分化によるものという意見がやはり大半を占めた。当初ワンフロアで、誰もが顔見知りであったのに比べ、複数フロアにまたがるのみならず、別ビルにも事業部が立ち上がり、物理的に離れてしまったこと。また、部署が分割され役割と権限が規定されると、他部署に対し自由な意見が言いにくいということも提示された。

(解説)軽く問題点の分析を入れる。実は既に言及していることなので、普通の私なら改めて書いたりしないのだが、こういう文を書くときは必要だろう。「言葉を惜しんで使う(谷崎潤一郎)」は大事だが、言葉を過剰に使って迫力を出すというやり方もある。例えば「涼宮ハルヒの憂鬱」のラストがこれだ。谷崎流の文章に直すべく添削は可能なはずだが、谷川流の完成度を超えられない。

 我々は、こういった、物理的、組織的に離れていても、自由なコミュニケーションが取れている例がないか、他社の状況や社会の事象を分析し、結果「パソコン通信」に注目した。そしてパソコン通信の中核をなす電子メールを導入して当社の状況を打破することを考えた。

(解説)斬新なアイディアをこういうときに出してはいけない。カビが生えていない程度にありふれた例を出すのが多分よい。多忙な採点者の業務を妨害するほど斬新なアイディアを出すわけにはいかんだろ。もっともこの例は古すぎ。いまどき電子メールの導入だって!?ただし「パソコン通信」の時代まで遡るとそれなりに新鮮かもしれない(これがあとで効いてくる)。パロディにしてはなかなか。

2.社内コミュニケーション向上のためのシステム

2.1 電子メールによるコミュニケーション向上策
 社内の自由なコミュニケーションを阻害している要因を電子メールの導入により克服するという基本方針はあるが、実現にあたっては、次の3点に問題がないことを確認する必要がある。
(1)コミュニケーションツールとして想定されるパソコンへの各社員のリテラシー。
(2)現状の事務手続きである報告書・回議書によるコミュニケーションとの共存。
(3)社内パソコン通信構築のインフラストラクチャーのコストを含めた実現性。

(解説)要するに問題点を想定しただけである。もちろん解決できる問題しか出さない。問題点は3つに箇条書きするのがなんとなく収まりがいいと思った。

 (1)については、社内でも各部署にワープロが複数台置かれていること、社内文書のワープロ化も始まっていることより問題がないと考えた。しかし社内のワープロ研修会を立ち上げ、スキルの向上機会の提供を図ることとした。なぜなら現在の各社員のワープロのスキルは、各個人が独自に修得したというものが多く、全員がワープロを抵抗なく使うというレベルには達していないからである。

(解説)問題点を提示し、実は問題点ではなかったことを力説、でも何か活動はやる、という典型的言い訳産業である。多用が推奨されている「なぜなら」という接続詞もわざとらしくて気に入っている。

 (2)については、電子メールで送信することによって、社内稟議・報告を終わらせたいという考えが出てきて、社内の意思決定ルートが曖昧になる可能性があった。これについては、社内企画部門と相談し、いわゆる報・連・相のツールが電子メールであるという切り口での社内手続きの整備を依頼した。

(解説)これは、電子メールの導入が進んだ社会での発想だった。パソコン通信の時代ではない。ちょっと失敗したかなあ。要するに言いたいことは、見つけた問題で解決できないことがあれば、適当な方針をつけて他人に振ること。これをしっかり書いておかないと未解決のまま残る。だったら減点だ。

 (3)のインフラ構築については、社内にパソコン通信の機能を限定したパソコン通信ホストを立ち上げることも考案されたが、外部パソコン業者と契約し、サービスを間借りすることとした。パソコン通信業者との接続を専用線とすれば、社内ホストを構築するときに比べ総コストが低いことが分かったからである。ただし小規模な事業所については電話回線を使用したほうが安くなる場合もあり、一律専用線とはしていない。

(解説)「パソコン通信」としたのが、ここで効いている。つまり今風に言うと「ASPのサービスを使う」ということだ。論文用のソリューションとしてASPを持ってくるのはお勧めである。つまり「ヨソの体験談」が入手しやすいからだ。情報処理試験を受けるからといって、必ずしも該当の経験があるわけではない。どこかから拝借してこないといけない。これぞASPならでわのメリット。言うまでもないが論文上はASPにしたもっともな理由が別に要る。理由のその1、当然のことながら、コスト削減。今回は別の事業所、というのも書いてしまったので「一律専用線とはしていない」などといかにもリアリティのありそうなこと、その実は言い切りを避けて逃げ道を作る、をつけてみた。

 また、外部パソコン通信業者のサービスを利用した場合、既存のワープロに付属しているパソコン通信機能を利用できることがわかり、初期コストの大幅な削減と導入時期の早期化も見込むことが出来る。

(解説)ASPのメリットもう1つ、忘れてたわ。導入の早期化、ですね。既存資産を活用できる、などというのも入れてみました。

2.2 実現の課題と工夫した点
 外部パソコン通信業者の利用と既存ワープロの使用によって、低コストかつ短期間での導入が見込めると共に、部署ごとの段階的な導入も可能であることが判明した。そこで、委員会で討議し、社内の2部門で先行導入し試行結果を全体導入計画にフィードバックすることとした。先行導入部署の選定に当たっては必要性の高い部署であると共に、個人的にパソコン通信を利用したことがあり、リテラシーの高い社員がいることを条件とした。

(解説)段階的な導入、というのが書きやすいですね。何か問題が発生しないと論文が続かないが、全社導入後だと大混乱にもつながりかねず「失敗しました」のイメージになるから。トピックによっては、論文執筆時の本案件のステータスは先行導入完了/全社展開前とできるだろうし、すると「今後の課題」がものすごく書きやすくなります。全社展開の計画にすればいいんだから。先行導入部署の選定の留意事項、これはこんなもんでしょう。

 その結果、次の2つの問題が判明した。
(1)自由なコミュニケーションを促進するツールとして導入したにもかかわらず、文章が必要以上に長くなったり、逆に簡潔すぎたりして意味が取れなくなったという例が頻発した。
(2)私用のパソコン通信サービスを社内から使用する例が出た。

(解説)ここは適当に想像で。いずれにせよ解決策を考えてから問題点を出す。

 これについて我々委員会は次のような対策を指示した。
 (1)については、電子メール文書を書く際のマナーや形式について、前述のワープロ講座で教えるようにした。

(解説)委員会のメリットは大きい。「指示した」で対策が終わる。ITストラテジストは自分では手を汚してはいけないらしく、こういう終わらせ方がコツらしい。(と通信教育教材でも書いていた。)試験本番では、思いっきり手を突っ込んだことを書いてしまったが。

 (2)については、パソコン通信業者と相談し、当社限定のサービスのみにアクセスできるコースの提案を受けた。自由なコミュニケーションという当初の目的のためには、ある程度私用のパソコン通信を認めてもよいのではという意見もあったが、「社内機器からの私用アクセスは、社内資料の外部転送につながる可能性もある」という懸念が示され、専用回線でアクセスした場合、当社限定のサービスしか利用できない、という制限を設けることとした。

(解説)ASPのメリットは続く。問題が起こったとき解決策も提案してくれることにすればよい。実際はそんな親切なプロバイダはいないとしてもだ。適当に「セキュリティ」などというタイムリーな意見を混ぜて、リアリティを出してみたつもりですがいかがでしょうか。この辺は私も随分ノリノリで書いてました。

 これ以外に大きな問題点がなかったため、順次社内各部署に展開し、全社導入を完了した。

(解説)そろそろ文字数が一杯になってきたので、さらっと書いてしまいました。しかし専用線を使わない事業所での私用アクセス禁止は未解決でしたな。(さっき気がついた。)

3.評価と今後の課題

3.1 本件の評価
 全社展開後、当初意図した社内コミュニケーション促進ツールとしての機能は果たされたと考えられ、導入は成功であったと思われる。導入直後は、飲み会の打ち合わせに使われる頻度が高く「飲みニケーション促進ツール」とからかわれることもあったが、そこで培われた人脈上を、今度は様々のアイディアや助言が流れるようになり、以前のような活気ある雰囲気が全社的に戻ってきた。

(解説)もちろん、成功!といわないといけない。つい冗談を入れてしまうのは私の体質。逆手にとってメリットにしてしまうのは我ながら手馴れているなあ。こんなことだから信用されないのである。

3.2 今後の課題
 電子メールの導入は、当初意図した効果をあげたものの、個人的な人脈上をアイディアが流れているのみで、直接新しいルートを開拓する機能がない。そこでパソコン通信のもう1つの主要機能である電子会議室の導入を検討する予定である。

(解説)ASPだと、今後の展開に別サービスの導入、を入れて締めくくることが出来る。またもやメリット発見。

 また、電子メールで積極的な提案を行って社の業績に寄与しても、それが個人の評価と結びつけて考えられにくいという問題もある。それについては適正な評価手法を関係各部と協議し制定してゆきたいと考えている。

−以上−

(解説)はい、よんだとおりです。最後はとにかくわかりやすく。収まりが良すぎてつまらないくらいです。
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