「システム」コンティンジェンシープラン

 不測の事態が起こってもいかにして業務を継続するか。
 こういうのをコンティンジェンシープランという。
 システムを作ったり運用したりする人間にこれを考えさせると、復旧手順とかについて悩みだす。
 しかるに、これを呼ぶのに「システム」って付けて「システムコンティンジェンシープラン」なんて言ってしまうと、ら誤解する人多いのよねえ。システムが落ちても業務を続けるやり方を提案するのがシステムコンティンジェンシープランだ、なんて思われたりする。無理です、こんなこと。

 考えやすい例を挙げよう。タイムカードで出退勤記録をつけていたとする。ある日タイムレコーダーが壊れました。みなさんどうします?タイムレコーダーが直るまでの間、出退勤表を作って、そこに時刻を書き込み、課長が確認印を押す、とかそんな事務手続きを考えるでしょう。それがコンティンジェンシープランなのです。タイムレコードのメーカーは修理に全力を挙げるのは当然ですが、事務手続きを作るわけではない。なぜなら「ビジネスプロセスのデザインは使用者のもの」だからです。

 なわけで、システム担当としては「システムが動かなくなったときのコンティンジェンシープラン」を作れといわれても何も出来ません。せいぜい「全部手処理で人が足りない、何人か応援をよこしてくれ」という要望に応じる程度です。だからコンティンジェンシープランを作れといわれると名簿と組織図を引っ張り出して「定例業務を止めると」何日間何人出せるか考えるのが正しい。

 ジョブのどこが止まったらどうやって復旧するか、は元々汎用機のバッチ屋さんなのでこれはいろいろ検討しました。問題は僕が作ると美しくなりすぎて直せないことです。でも今までやってないことでこれは考えないと、と思うのもあります。
 「停電だ!自家発電装置ならコンピュータの半分しか動かない、だから優先順位をつけてどの機械をを止めるか」は考えた。しかし、それらを再度動かすときに「どうすれば齟齬なく立ち上がるかの手順」は自分の担当中には検討していない。さらに稼動しているサーバーでもどのジョブを自動起動しないよう止めておくか、も検討しないといけないなあ。問い合わせ先のサーバーが落ちていたら、実行したジョブがことごとくWaitして、多分どっかでデッドロックが発生して、結局何も動かなくなる。

 あと、開発時にデータ検証用に作ったMS-Excelその他のツール、これを手動で動かしてデータを作成する、はあってもいいかもしれない。何?MS-Excelで出来るなら高い金払ってシステム構築する必要なかったんじゃないかって?短絡的なお方だねえ。
 どうしても構築費用を抑えたかのなら、すみません。人員を20倍くらいに増やしてもらえますか?さきほどのMS-Excleのツール手動実行で確かに結果は出ますけど、安定的な運用というのを考えてないので。データのコンバートとか、入力前の目チェックとか、件数が増えたときの分割実行とか、ミスったときのやり直しとかで人がいくらいても足りません。あ、手動実行のときは周囲に確認しながらやらないととんでもないことになるのである程度スキルのある人間が必要です。育てろといわれると・・・経験者で半年、多少コンピュータをかじった程度の人でも1年で使えるようになれば御の字です。

 というわけで、当たり前のこととはいえ「システムコンテンジェンシープラン」という言い回しには冷たかったのだが、ITベンダーとしてコンチプラン込みで提供しなければならない事例があることに気がついた。

 業務パッケージソフトを扱っているベンダーは、コンチプランを同時に提供する義務があるやもしれない。パッケージソフト導入が経済的で合理的だ、ってことで売り込み、パッケージが対応していない部分については、社内の業務処理の方を変えさせたりした経緯があるならば「パッケージが動かなかったときは、このように業務を回してください」というガイドを同時に提供するのが当然。
 少なくとも「ポイントポイントで作る手書き帳票をパッケージに合わせてこーゆーフォーマットにしておいてくれると、システム回復時に手入力しての業務再開がスムーズです」くらいは欲しいよなあ。

 というわけで、業務パッケージの売込みを受けている会社の皆さん。コンチプランの提供も同時に(当然追加料金なしで)要求しましょう。システムが止まった場合、どうやれば業務パッケージが想定している事務手続きと齟齬なく手作業で事務を行えるか。また、どういう帳票を作っておけば、システムが復旧したときに問題なくデータを書き戻せるか。
 この辺が分かってないと、危なっかしくてとても業務パッケージに事務を合わせるなんて出来ないのは当たり前。
 ベンダーも大変だな。とりあえずSAPあたりにその辺聞いてみて・・・多分なしのつぶてだからサポート費用値切れるかもよ。で試しに自社で導入して、そんときに「コンテンジェンシープラン」という業務マニュアルを作って、んでもってお客さんに売り込みに行こう。

 説得力できるよ。

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 実はですねえ。この文書き始める前は「コンテンジェンシープランをシステム部門に要求するのは間違っている」という論調で終わる予定だったのよ。が、実は自分の主張を信用していない私は「本当にこれでいいのか?例外はないのか」と考えた。すると「業務パッケージの導入」という、ビジネスプロセスをシステムの都合で変えてしまう事象があることに気がついた。これについてはコンチプランをシステム構築側が提供しなければならない。
 一挙に論理展開が広がったでしょ。この「当初とは思わぬ方向に結論が行く」というのが自分の思考を対象化する文章作成の醍醐味である。
 この手の発想が苦手なのは例えば新聞記者。だって複数の人が同じコラムを分担して書いて一続きにするんだよ。方針に無いことに気がついたとしても書いてはいけない。だから彼らはそのうちに発想が貧困になる。これは構造的問題〜職業病だから仕方がない。だから外部に書き手を求めるときも自分たちと同じような貧困な発想の人間を引っ張ってくる。毎日新聞、ひどいねえ。これは皆さん同意してくれるよね。読んでいて「なるほど、そう問題を捉えているのか、で本質をどこに求める?解決策にどう展開させる?」と期待したところで・・・え、言いっぱなしで終わり?

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