とある駅舎のトラックボール

 今頃、モロッコでは「今年の十大ニュース」の書き換えに迫られて大変であろう。
 クラブワールドカップ、開催国代表という、添え物と思われても仕方ないラジャ・カサブランカがオセアニア王者はありうるとして、北中米カリブ海王者、そして南米王者を下して決勝進出!これが大ニュースでなくしてなんだというのだろう。イングリッド・バーグマンのファンも改めて増えるかもしれない。(もし、彼女がいなければ、カサブランカという地名を知っている人は、今の何百分の一になっていただろうか。)

 コンピュータの世界では、一時期ほどではないが変動が激しいので十大ニュースは決めにくい。それに関心が多岐にわたるしね。どこかの会社が合併しても、全く別のことに気を取られている人が大多数だろう。でも、この世界にいる人なら誰でも、これはちょっと気に留めておいてほしい。ダグラス・エンゲルバートが今年亡くなったのだ。

 ワトソン君がいなくてもコンピュータは今と同じように動いていた。レイ・オジーがいなくてもいずれグループウェアは成立していただろう。ビル・ゲイツがいなければパソコンはもっと信頼性が高いものになっていたに違いない。が、エンゲルバートがいなければ、画面にウィンドウが開き、それをマウスで操作し、なんてことになっていたかどうか、疑問である。
 この人が「コンピュータはやがてこのように操作でき、このような処理を可能とするものに進化する」という夢を見せてくれたために、コンピュータは迷わずこちらの方向にも進歩してくれたのである。

 ポインティングデバイスとしてのマウスはいくつもの改良を経たとはいえ、基本的にはエンゲルバートの考案したままである。しかしながらポインティングデバイスとしてはマウス以外にもいくつか発明された。

 ノートパソコンに搭載されることが多いのが、タッチパッドという奴である。コストが安く、薄く作れるからということらしい。ところが、ピアニストやギタリストは、ノートパソコンにこれがついていればイライラするのではなかろうか。掌が自然とキーボードの面と平行になるよう訓練されているので、親指の腹がタッチパッドに当たりまくって誤動作するに違いない。なぜか楽器店のノートPCではこれがOFFになっておらず「こいつらホントに弾けるんかいな?」と疑うことしきりである。

 というわけで当方は「トラックボール」を愛用している。していた、と言ったほうがイイのかな?七陽商事が最初に正式輸入したケンジントン・エキスパートマウス12台のうちの1台を使っていたが今年ついに磨耗し切りボールを残して(捨てられなかった)廃棄。
 しかし、トラックポイントはギタリストの手癖に逆行し、マウスもスクロールのホイールが人差し指に過大な負担を与える。やっぱりトラックボールがいいよお。

 年末なので買おう。

 ん?私らしくなく発見がないって?
 踏ん切りがついたのは、「そうだ、京都行こう」と、とある駅舎の旅行オフィスに寄ったとき。応対してくれた女性がどうやら実習中なんだな。検索の練習につきあった代わりに「OJTだから一言いいかな?」と指導役の方に許可を取って発言。
「マウスの使い方が悪くてうるさい。」
 ポインターをマウスで長い距離動かす場合、何回か手繰るような動きになる。それは仕方ないとしてもこのお姉ちゃん、空中に浮かせてマウスを戻した後、手を広げて「落とす」んだな。このときガチャっと音がする。(しかもレノボのマウス!)しばらく手の動きを見て、これは直らないクセだなと思ったわけ。
 なかなか魅力的な人だったので、一応フォロー「私が彼氏だったら、じゃあ君にあったマウスを探しに行こうか、とデートの口実にするところなんだが・・・(あなたも彼氏に)相談してみたら?」トラックボールがいいのでは、という回答は彼氏のために言わずにおいた。

 そこで終わればそれだけなのだが、翌週になって気がついた。旅行代理店はもっとトラックボールを積極的に導入すべきではなかろうか。というのは、仕事がらパソコンを船、列車、飛行機と乗り物の中で使う必要が出てくる。つまり机が揺れるところで、だ。
 するとマウスの信頼性はがくんと落ちる。トラックボールが圧倒的に有利だ。だから彼女がトラックボールを使うようになれば、それがきっかけになって会社全体としても多少なりとも業務改善につながるのではないかと思ったわけだ。もちろん旅行先に持っていくのはノートパソコンで、その場合はタッチパッドを使うのだろうが、あれを満足して使っている人間がいったいどれだけいるのだろうか、というのもある。

 そうでなくても今後、トラックボールは伸びてくると思うよ。高齢化社会の進展とともにね。ボールから手を離せばポインターはピクリとも動かない。ダブルクリックが安心してできるというものだ。
 というわけで、一歩進みたい人はトラックボールに換えましょう。

 しかし同じものを買い換えるというのも・・・確かにあれに代わる機種はないのだが、そろそろモデルチェンジしてくれないかなあ。

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