ヒマ!は正義

 システム開発の大規模プロジェクトに身を置いていると、無駄が気になって仕方がない。
 勤務管理やID管理といったルーチンの管理業務については、当方が次から次へと自動化ツールを提供しているのだが、なぜかみなさん使わない。

 確かにこの業界、
「目に見えるものは信用できない」
という不思議な慣習があるらしい。
 だから私が作ったツール群は、社内では私の顔を知らない人が使いはじめ、そこそこ広がっているらしい。
 そういえばこんなことがあった。システム開発の提案を持ってきたところが「プロジェクトのサブリーダーとして考えておりますのは、以前○○に勤めていた30代の女性で、△△の経験が・・・」と説明してくれた。つい「ああ、私の嫁さんとおんなじような感じですね」と口を挟んでしまった。なかなかの高スペックと皆さんも思ってみなさん「いい人を割り当ててくれたな」と思っていたらしい。が、良く考えるとその程度の人はその辺にごろごろしている。
 「コンピュータのソフトウェア」などという見えないものを相手にしていると、それを作る人間が見えてしまうと逆に落ち着かないのかもしれない。見えないものは見えない人が作っている方が安心するのかもしれない。

 にしても、なんであんなに手のかかることを延々やっておるのだ、プロジェクトで忙しいはずなのに、とイライラしていたが、つい最近、理由が分かった。全体的に押しているプロジェクトでも、個々は暇なのだ。

 つまり大規模なもんだから、自分ところではどうしようもない原因でスケジュールが押すことがある。具体的には流れるデータの供給元で遅れが生ずる場合だ。この場合、データを受けるところでは「待つ」しかない。かといってスケジュールに遅れが生じているわけだから体面上、ヒマそうにしているわけにはいかない。では何をするか、開発以外の通常業務を殊更にゆっくり行うのである。ツールによる合理化なんてやっていたらヒマなのがばれてしまうではないか。
 さらに大規模プロジェクトなもんだから、部分部分で進捗にムラが出る。先ほどのように遅れているところはあるが、順調なところもある。同じ会計システムでも、予算管理サブシステムはデータ提供元が遅れているが、決算サブシステムは順調という場合だ。全体テストは全部がそろってからでないとできない、ので順調な決算サブシステムは予算管理サブシステムが追い付くのを待たなければならない。
 追いつくのを待つと云っても、その間何もしないわけにはいかない。システム開発には通常外注の人がいるが「遅れているところが追い付くまで契約解除」なんてこともできない。やはり今まで開発してきたのと同じ人を下流工程でも確保したいじゃないの。
 というわけで「過剰品質で実は不要かもしれない」ドキュメント整理なんぞをやってもらうことになる。そしてコストをかけて行った以上、プラスの評価をしなければならない。すると他のサブシステムでも「やったほうがいいのでは」になり、さらに開発は重くなる。
 これが正しい流れ、合理化なんかやってもらっては困るのだ。

 というわけで、大規模開発は自然に重くなることになる。しかもそれが企業文化として定着する。
(その状態で「データ提供ができるようになりました。あとよろしく」が来ると、相当の地獄を見るのは言わずもがなだが触れておかないとみんな怒るだろうなあ。)
 改善策は特にないが「本来はヒマ」を自覚させて(それはありうるものだと開発管理の中で認めてやって)、そのうえでヒマの有効な潰し方を呈示する必要がある。
 つまりプロジェクト本来の業務と区分けした「ヒマつぶし」の仕事を公認してスケジュールを埋めてしまうのだ。今までやってきたことをさらに短時間でやるにはどうすればいいか、の資料を作らせてミーティングで意見を交換するとか。(成果は外注先の皆さんも持って帰ってくださいである。)リリース後に予想される問題解決の提案書を(あるいは言い訳書)を作っておくとか。(リスクを予測するいい訓練になる。)人海戦術のテスト(データ大量入力とか)に応援できる体制を作り、応援をきっちり評価する、など。

 本来、ヒマなのは評価されるべきなのだ。時間いっぱい努力している人間を評価するのは分かるが、そういうのにより重い職務を任せると、確実にパンクする。でも評価すると職位はあげないといけないし・・・これはシステム開発に限らないが組織がやがて忙しさのあまりパンクすることになるのはこういう構造にもとづいたものだろう。どこに問題があるかわかるね。もっとも仕事ができるのでいろいろ押し付けられて忙しい/仕事を任せられないので何もすることがなくてヒマ、というものはある。これを間違ってしまうと、、、間違っているような配役はあるなあ。仕事を他人に押し付けて自分はきっちりやっているように見せかけるのがうまいので評価されてような人が少なからずいる。新たな問題が発生すると何もできずにひたすら先送りするのはそういうことだろう。
 ヒマということは順調or能力があるということ。これをきちんと評価して待遇にはねさせれば開発が重くなって生産性が下がることはある程度避けられる。

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