海外に流出した雇用を合衆国内に戻そうとするトランプさん。石油を輸入せずに国産とすれば国内の採掘業が栄えて雇用が増えることに注目しているはずだ。あるいは国外メーカーのみならず国内ビッグ3に対しても「自動車は国内で」と一人行政指導をしているに違いない。もちろんトランプタワーは100%アメリカ人の手によって建てられたものだろう。コンピュータネタ、目次へ
しかし鉱工建設業だけに焦点を絞っていてよいのであろうか。断じて否。現代の高度に発達した資本主義社会においてもっとも多くの雇用を提供するのは第三次産業である。ここにメスを入れないわけにはいくまい。確かにアメリカ人が髪を切るのはアメリカ国内の理髪店。黙っていてもアメリカ人が切ってくれるわけであって、アメリカの雇用というのが当然だろう。こういう直観的な事例に基づくと第三次産業において雇用の海外流出はさほど問題とならないように思われる。しかしながら実際には多数の雇用が移民労働者の美容師を除いても外国人に奪われているという事実が存在するのだ。
分かりやすいのは「コールセンター」である。英語を学んだインド人がアメリカ風の通称名をつけて地球の裏側からアメリカ人の質問に答えている。通信技術の発達によってこのような「離れ」業ができるようになったのであるが、その分の雇用は確実に流出しているわけだ。
したがってトランプ氏としては自ら掲げる国策に則るならこの雇用を合衆国内に取り戻さなければならない。幸いこれは短期に実現可能なのだ。公衆回線での通話が話している人にそれとはわからないまま、専用線で海外につなぐのを制限すればよい。この程度の事なら予算措置が不要であるから、大統領令で済んでしまう。情報流出対策にもなるので一石二鳥だ。しかし合衆国の外にいる我々としても、サービス業において合衆国の雇用を積極的に増やすことが求められることとなろう。そしてそれは可能なのだ。これによってアメリカ合衆国、そして100%支持してくれるという約束をもらった日本を支援することができるのだ。具体的には今、主に中国に発注しているオフショア開発を、アメリカ合衆国に発注するというのはどうだろう。これが国内の雇用を減らすのであれば調整が必要だが、もともと中国宛に発注していたものが合衆国に切り替わるだけだ。容易なことである。また漢字だけを共有している中国(彼らはずいぶん字体を崩し、部首まで失くしてしまったものもあるが)よりも、価値観を共有し、多くの日本人が(少なくとも中国語よりは)使える英語を話すアメリカ人に仕事を依頼する方が物事はスムーズに回るはずだ。コンピュータ言語と英語の親和性は極めてよいから、この分野に限れば一般的なSEでも相当程度委託先と英語でやり取りができるのである。
また時差も無視できない。中国と日本よりも合衆国と日本の方がコアタイムの重なりが少ない。これは地球が一周する間により多くの仕事ができることを意味する。日本からの指示を受けて合衆国が開発する。毎日最終で、確認する事項、問題点についてまとめて日本に送信する。日本では朝一番にそれを見て解決、新たな指示を送れば合衆国で出勤してきたプログラマが殆ど時間のロスなしで開発を継続できる。期間の短縮が武器となるソフトウェア開発では多少人件費が上がるとしても、この特性がそれを十分に緩和してくれるアドバンテージとなりうる。
立上時の費用も、日本得意の在宅勤務技術を適用してはじめから「オフショアでは在宅勤務」として進めればそれほどかかるまい。インフラの完備した合衆国なら、回線は各個人の保有しているものを期待することも可能だからだ。更には停電でファイルが飛びました!のリスクも少なかろう。(不動産業が専門のトランプ氏としてはオフィスビルの手当から始めてほしいのかもしれないが、自宅勤務で分散しているほうがテロのリスクが少ないから、という言い訳を受け入れてくれたまえ。)また合衆国でだからこそ、開発をした方が望ましいこともある。例えばソフトウェア投資の大きな金融分野で、新しいことは常にといっていいほど合衆国からやってくるからだ。ようするに「規制/自由化」だ。合衆国の規制に対応するソフトはやはり合衆国に生まれ、合衆国で育った人に対応してもらう方が早く正確に適応できることに異論はなかろう。同種の対応をやっている同業他社からの情報も入りやすかろう。なのでこのような制度対応に対してはヘッドオフィス機能もかなりな程度合衆国に移すことも視野に入れるべきだ。これこそ「合衆国への投資拡大」といえるのではなかろうか。
自動車をはじめとする製造業の雇用拡大に目が行っている間に「ソフトウェア産業での投資/雇用拡大をやります!」と手をあげることは大統領の覚えめでたいという意味でもやる意義があるだろう。「合衆国でオフショア開発」今は冗談に聞こえるかもしれないが、いずれしかるべき筋から要請が来ることは十分に考えられる。そのときに「できますよ。しかしこれだけかかります。(だから補助金や税の優遇措置出してくれ)」「制度対応については検討するが、現地のシステム開発会社との情報共有を保証してくれ」「合衆国に発注した業務は確実に合衆国内で開発され、雇用が流出しないよう規制してくれねば本末転倒だ」「あと出しで輸出規制に抵触する、とか知的所有権が、なんて言い出すなよ」と即座に返答できるようにしておくことは大事なんじゃないかなと思っている。すぐに交渉に入れなければ、無理やりにでもやらされる羽目になりかねないからね。
さいわい多くの会社は合衆国企業と協力して、の開発経験があるはずなのだ。OS、あるいはデータベースやストレージの会社を相手にしていろいろ苦労した経験はある程度の規模の会社にはあるだろう。まずはそれを社内共有して実際に対処した例とともにまとめてゆくことが大切だろう。