実証、プリペイド型電子マネーの弱点

 1996年に電子マネーについて業界団体への論文を書いて主張したのは次の3つ(言い回しは現代風にしてます)。
  1. カードをタッチして支払う方法は、いわば財布ごと渡してお金をとってもらうようなものであり、セキュリティの観点から使われない。
  2. 暗号通貨は使っている通貨単位つまり1円玉相当の暗号通貨が他のどの暗号通貨とも異なると検証する計算が膨大なので現実的ではない。
  3. 小切手の電子化こそが選ばれるべき道。
 間違っていたことは素直に認めなければならないようで、1番目については誰も気にせず、2番目についてはビットコインという例えば100万円玉のみを発行し、かつ誰がいついくら入手したか/使ったかの履歴を共有し、インチキしたらすぐばれる、という大技で克服した。3番目は「バーコード決済」という形になってしまった。あれ?最後の主張は正しかったみたい。論文提出前に部長まで回覧したのになあ。何もなかったのだよ。うちの銀行では。
(ビットコインの使った大技。ブロックチェーンを簡単に説明するとこういうことです。)

 POSによるレジの自動化が進み、支払いもレジ係ではなく機械で収納、というのが普及したので、確かに1番の問題点は目立たなくなってきた。が、問題点が露見した例が一週間の間に2度あったので記録の意味も込めて皆さんに開示。
 一つ目は、Fマート(名前は似ているけどKマートではありません)。在宅勤務とはいえ朝のリズムづくり重要、ということでカフェラテを買いに行ったのだが、ん?レシートを見ると値段が違う。どうやらレジの店員さん、アイスラテのバーコードを読み取ったらしい。多分ミスだろう。その証拠に出されたカップはホット用である。他のものも一緒に買っていたので一瞬分からなかったが「財布を渡して、代金相当分を先方にとってもらっている」というPASMO払いの超基本的リスクを知っている私はかろうじて気が付いた。
 指摘された店員さんはパニックである。PASMO払いを取り消して、ってどうやればいいんだっけ?オーラをまき散らした。でも少しは知恵が回ったようだ。差額の30円、現金で返してくれた。あとでどうするかは知らないが、幸い「キャッシュレス2%還元」なので還元額もホットとアイスで変化なし、つじつまは合わせられる。

 しかし近所のFマート、ラテの味が東京に比べてよろしくない。と気分を変えてシーナ=イーストンのヒット曲9to5も真っ青な長時間営業っぽい名前のコンビニに行ってみた。
 同じようにカップが出されたので、セルフで給油、じゃなかったドリップしたあとふたを閉めようとして「合わない」。レシートをよく見ると「L(arge)」あたしは「レギュラー」と言ったのだけどなあ。申し出ると店員さん、レジ相手に格闘している。返金額を計算するのに電卓を出してきたので嫌な予感はしたのだ。「36円です」と返してくれたので、ちょっとだけ怒った。
「あなたは私に税金だけ払わせるつもりか?」
「ハイ」
 この返事で切れた。しかしぐっと抑えて申し上げた。
「あなたはこのラテをぶっかけられても文句が言えないことを言ったんだよ」
 よくわかってないようだったので、渋々ながらこっち側に回ってきてもらい、メニューを指さして説明した。
ラテのラージは税抜き186円、税込み200円。レギュラーは税抜き139円、税込み150円。であなたの返してきた36円はラージの税抜きとレギュラーの税込みの差額なわけ。ラージの税込み200円とレギュラーの税込み150円の差を返すべきなのにそうではない。それで税金だけ払わせる気か?と尋ねるとあなたはハイと答えた。怒られて当然でしょ。」
 数秒後にようやく合点がいったらしく、再びレジでごそごそ。ついでにカップを出してきて「こちらに移し替えてもらえますか?カップの数で管理していますので。」
 みなさん、さすがにこれはthe last strawですよね。
「散々待たせて冷めたところでさらに移し替えてくれ?だったら改めてこちらに注ぐよ。いいね。」
 今度も返事は「ハイ」でした。後は頑張ってください。

 9to5も真っ青なコンビニ(イメージカラーは青ではない)では、Fマートの経験があったので「2%還元」のポスターがあったけども現金払いにしたのよね。だからまだあれで済んだ。これがプリペイドカードだったらどうなったことか。しかも今回は差額が50円だから「還元額が1円変わる」。そういえばセブンイレブンはシステム化が進んでいると昔から言われているので(ほめる文脈でなら実名出してもいいでしょ)差額を現金で渡してつじつまを合わせる、がシステム的に許されないのじゃないかと思う。「プリペイドカードにお金を戻す」(青いコンビニで入金してもらったことがあるので技術的には可能)というオペレーションが必要になった可能性大。しかし 200 - 150 = 50円の計算も暗算でできない店員さんに使いこなせると思うほうがおかしかろう。

 というわけで、私のほとんど四半世紀前の懸念は正しかった。社内システムの先進性で有名なかのコンビニには連絡しておこう。もちろん最先端の戦略情報システムを他社に先駆けて構築し、名をあげたところだから事象と対処法については十分な対応がなされていると思う。マニュアルの充実ぶりも定評がある。優れているだけに逆に盲点となっているのかもしれない。店員さんはともかく店長さんは実は感謝してくれるんじゃないかな。あのまま私が36円だけ受け取って帰っていたら、レジのお金が 50 - 36 = 14円合わないと頭を抱えることになったであろう。これでPASMO決済していたら納税額が合わない!で税務署を巻き込むよ。あれ?本社のためにもなったのかな?

 でもなあ、ビットコインで1ビットコイン以下の決済をする際は、取引所内で完結するわけであって、取引所が決済機能を提供してことになる以上、銀行並みの規制を受けないとおかしいわけであって、でも事故が起こってからも、全然規制の手が入らないわけであって、つまり対応できないってことで、ずるずる来てるからなあ。

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