弟に愛を込めて

 「がんばれ!!ゲイツ君」で有名な外崎さんが最近アップされた「めざせビジュアル系クラシッカー」で《なんか後ろからハリセンで頭を叩かれたような気がしたのですが、多分気のせいでしょう。》とありました。気のせいではありません。わが弟になんてことを言う。そんなわけで、外崎さんの言っていることには100%賛同しておりますが、無理やり反論をくっつけます。

 私のホームページを読んでいる方で外崎さんのページを読んでいない方は稀だと思われるので内容の紹介はさくっと省略します。はしからはしまでおっしゃるとおりだと思います。でもやっぱりブーニンだけは弁護したい。
 とはいえ、思います。ブーニンはどこがいいのだろう。ミスタッチは多いです。英雄ポロネーズなんてもう止めて、と言いたくなります。最悪は日本で弾いたバッハ、イタリア協奏曲。あのわざとらしい演奏はなんなのでしょう。ルックスも決して良くはありません。むしろ醜男の部類に入るでしょう。民族の違いを超えてよく似ていて、一部では兄弟と呼ばれている私が言うのだから間違いない。(一時期ブーニンの形態模写という芸をやって一部でうけていた。)

 でも無理に誉めましょう。なんと言ってもショパンコンクール優勝者です。でもショパンコンクール優勝者ってなんとなく影が薄いんだよなあ。ポリーニ、アルゲリッチがいますが、80年優勝のダン=タイソンよりも予選落ちのポゴレリチの評価が高いし、アシュケナージも2位だったし。
 私が、ブーニンのピアノ協奏曲1番を聞いて感心してしまったのは、第一楽章をもったいないほどさらりと弾いているところです。どうしたってショパンらしい繊細なフレーズを思い込みたっぷりに弾きたい。でもブーニンはさらさらさらと弾いている。この結果、ショパンピアノ協奏曲第一楽章は「ピアノの細かいフレーズと、オーケストラの大雑把な伴奏」という対比がしっかりしたものとなりました。ショパン自身大作は苦手、それをえいや!で解釈しなおしたところがすごい!

 ブーニンの歴史に残る演奏が一つあるとすれば、ショパンコンクールのウィナーズアンコールでしょう。なんとハイドンを弾きました。ショパンコンクールでショパン以外が弾かれたのは空前絶後。ブーニンとは結構反骨精神旺盛なやつなのかもしれない。
 でも、どうせなら軍隊ポロネーズを速く、そらぞらしく弾いていただきたかった。もちろん前口上付で「さあみなさん、これが最後です。ポロネーズA-Dur,A-Dur!」。ワイダの映画「灰とダイヤモンド」偽りの戦勝パーティの再現です。しかたない。弟がだめだったから娘にやっていただこう。今のところルックスはいいほうだと思うのですが。(ためしに娘の写真を載せてみたが、ニョーボに反対されたのでカット。)

 ワイダ、映画としての完成度が下がるのを承知で、軍隊ポロネーズを延々と流した。軍隊ポロネーズほど悲しい曲はないからだ。あれがポーランド人のショパンにかける心なんだろうなあ。そういえば地下水道でもショパンを使っている。「革命」の冒頭。それを制止され、ラ=クンパルシダを弾かされていたが、やがて静かにバラード4番を弾き始める。
 そうか、ショパンのバラードは祖国ポーランドへのバラードなんだな。


(2001.02.28補足)
 ここで終わっては外崎さんに申し訳ないので、外崎さん推薦のツィンメルマンのショパン、ピアノ協奏曲1&2番を買ってまいりました。なにしろ、文脈を無視してまで取り上げられた男性西洋人の演奏家であります。なお、当方、ショパンピアノ協奏曲は以前より好きで、アルゲリッチ×2、ルービンシュタイン、ブーニン、ポリーニ、リパッティ、クライバーンと有名どころは取り揃えております。
 第一楽章の第一印象は、前奏曲集みたい。ショパンの構成力が弱かろうが、前奏曲集を聞きとおして全体の構成がどうのこうのと文句を付ける人はいないでしょう。そんな感じです。むしろ15番〜16番〜17番と続くあたりは見事な構成。それを協奏曲の中でやればいい。では、オーケストラはどういう位置づけか?ようするにショパンといえど手は3本無いので、その分をオーケストラにやってもらっていると考えればよさそうです。まあ、ショパンは10本しかない指で11音の和音を弾かせるくらいのことは平気でやるみたいですが。(前奏曲集7番「太田胃散」。右手小指で黒鍵を2つ同時に叩く。)
 そんな耳で3楽章を聞くと、これはオーケストラによって拡大されたスケルツォ。こうなるとツィンメルマンのとった「ピアニストが指揮もする」という形態がとても自然なものに思えてきます。今後のショパンコンクール本選では「指揮もさせてくれ」という参加者が出てくるかもしれません。
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