最も演奏の難しい曲

 演奏の難しい曲と言われて最初に思いつくのは、技巧的に困難な曲であろう。ベートーベンのピアノソナタ29番ハンマークラヴィーアはテクニック的に限界に近いことで有名だし、アルカンの短調による12のエチュードを全曲弾くことは人間には不可能と言う人もいる。
 あるいは、とてつもなく長いためにスタミナが続かないと言う曲もある。これも演奏困難だろう。でもエリック=サティのヴィクサシオンを24時間弾いた人は、いるんだよな。(私もちらっと実演を聞いた。)
 表現が難しい曲というのもありうる。第九をフルトヴェングラーのように振ることは難しいという言い回しがこんなかんじである。

 しかし、私は演奏している曲に演奏者自身が感動し手が止まるような曲、というのを最も難しい曲として提示する。初めてそう言ったとき、そんな馬鹿な!と友人に言われたが精一杯反論した。「自分の演奏からあふれ出る感動に、手が止まりそうになって、それでも歯を食いしばって、手を動かすような演奏が確かにあるんだ。その間、感動が全身の毛穴から血のようにしたたり落ちるんだ。」
 冷たい視線が痛かったが、後日彼らを自室に呼んでバッハ=ブゾーニ「シャコンヌニ短調(BWV1004)」演奏ミケランジェリのレコードを聴かせた。
 納得してくれた。

 似たような経験、実は私もある。BeatlesのLovely Ritaのベースを弾いていて最後のコーラス、私には歌えない。テクニック的には一番簡単な部分であるのに。あまりの完成度に圧倒されて声が詰まってしまうのだ。

 私はこの「バッハ 無伴奏バイオリンパルティータ2番、シャコンヌニ短調」を人類史上最高傑作と主張している。
 他の楽器にも編曲されているが、ブゾーニのピアノ版は秀逸である。アリアと30の変奏というどっかで聞いた構成だが、原曲のバイオリンではどちらかというと全体をさらりと弾ききってしまうのに対し、こちらは変奏毎の特性を対比させ、盛り上がりに盛り上がる。
 まあ、これは原曲があくまで組曲であるからシャコンヌだけを取り出したピアノ編曲と同列に比べるわけにもいくまい。実際、姉のダンナによると「この組曲は2本の弦で弾くD音から始まってD音に終わる。だから全曲通して弾かないとそれがわからない」。
 解釈はいろいろとあるものだ。

 この他に演奏が難しい、というと指揮者がタコで、とか編成が大きすぎてというのもあるかもしれない。一万人の第九は大変そうだった。はっきり言って指揮もメリハリがなかったし。(形態模写をやると受けた。)
 まあ、指揮には合わせ辛くとも楽しんで演奏してくれるというのもあるかもしれない。あくまで想像だが代表例は喜歌劇「こうもり」序曲。指揮はトムとジェリー。(邦題「星空の音楽会」)いやハンガリアンラプソディーの方が大変かな。(邦題「アカデミーピアノコンサート」)

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