容易に想像できるとおり、私はロック少年であった。西ドイツでBBC-FMを聴きながらリアルタイムで70年代ロックを体験してきたと自己紹介しても嘘ではない。音楽ネタ、目次へ
ちなみにFM放送の多局化は当時西ドイツが世界で一番進んでいたはずだ。第二次世界大戦の敗戦で大陸ヨーロッパ内での中波の周波数割当を削られてしまった西ドイツとしては、放送局を増やす手段としてFM放送にシフトせざるを得なかったのだ。この辺の事情は、グローバルIPアドレスをアジア全体で4億個しか与えられなかった日本でIPv6の研究が進んでいることにつながるものがあるかもしれない。(中波放送は国境くらいはすぐに飛び越えるので、狭いヨーロッパでは国家間で混信してしまう。そんなわけで周波数はヨーロッパ全体で一元管理して国別に割当を行うのだ。)
当時、一番大きかったポピュラーミュージックのムーブメントはVillage PeopleのYMCAだったなあ。ヒットチャートの傾向があっという間に変わったからなあ。そんな私がクラシック音楽に目覚めたのは大学も後半に入ってからである。
それまでも、レコードくらいは買ったことがあった。姉がピアノを習っていたので誕生日にラヴェルを贈呈したのだ。お礼に「なき王女のためのパヴァーヌ」を弾いてくれた。私とは似ても似つかぬ優雅な姉である。
そんなわけでラヴェルだけは若干聴いたことがあったのだ。で、ある日高校で同級だった女性に町で会う。3年ぶりくらいだ。ノリの良い子で結構好意を持っていた。
彼女は大学では姉の後輩になるので、ある程度事情を知っている。「ねえ、卒業演奏会何弾くの?」「ラヴェルの道化師の朝の歌、知ってるかなあ」「組曲、鏡の、、、何曲目だっけ」「4曲目、よく知ってるね」。
私は単純である。そんなわけでクラシック音楽を積極的に聴くようになった。丁度CDが爆発的に普及をはじめた頃だった。
なぜそのままどっぷりと浸かってしまったかの理由は・・・ちょっとだけ考察。同様にCDプレーヤーを買ったのを機会にクラシックを聴き始めようとした友人はそれなりにいたが、私のように傾倒したのは少なかったようだ。いきなりベートーベンの交響曲全集(もちろん指揮はカラヤン)を買ったり、バッハのトッカータとフーガニ短調を10枚近く買い集めたのもいて、なぜそういう物を買ったか、話を聞くとなかなか楽しかった。
よーするにクラシックにも興味がある、でも知らない曲のCDを買うのは抵抗がある。だから名の通った交響曲全集や、音楽の授業で聞いて感動したものをたくさん買い込んだりするらしい。なるほど。私は、知らない曲のCDを買うのに抵抗がないので、興味があればすぐ手を出したというのがはまった一要因だろう。買ったからには元を取らねばならない。
ではなぜ知らない曲のCDを買うのに抵抗がなかったか。もちろんクラシックは長年のうちに駄作が抜け落ちているので、はずれがそんなに無いという安心感もある。しかしそれにもましてかつてレコードを買いまくったという経験があるのも見過ごせない。西ドイツは世界に先がけてレコードの再販価格を撤廃した。従ってレコードがものすごく安かった。LP1枚500円というのも珍しくない。そんなわけで思い切りよく買えたわけである。
かくして再販価格の撤廃はマーケット拡大に効果があるのかと身をもって証明したことになる。といいながら、最近は、というか結婚してからはあまりCDを買っていないなあ。あれほど憧れたグレン=グールド1979年版イタリア協奏曲も買っていない。