十数年がんばってくれたCDプレーヤーがついに息絶えた。PHILIPSの100周年記念モデルLHH-700である。宣伝文句どおり21世紀まで通用する音をしっかりと出してくれたので、よしとせねばなるまい。音楽ネタ、目次へ
しかし痛いよう。DATやカセットレコーダーが壊れても我慢できなくはないが、CDプレーヤーが無いというのはきびしい。そんなわけで、CDプレーヤーを購入することとした。ところが、単体のプレーヤーって近所の店に行っても売ってないのね、最近は。作っているメーカーも極めて限られている。SONY、松下が作っていないというのはショック。低価格品はやはり資本力がものを言うので期待していたのに。
それはDVDとのコンパチ機を買うという案もあるが(その方が安いが)映像機能が無駄だ。無駄なものが入っていると音質が悪くなる。それにどうやら読みとりエラーを起こしたときの考え方が根本から違うらしい。CDプレーヤーは訂正しようとする。DVDプレーヤーは読み飛ばそうとするようだ。これは要求される信号処理スピードの差によるものではないかと考えている。
かといってSACD対応の高級機を買う金は今はない。子どもが小さいので壊されるリスクも考えると普及機しか買えない。候補はTEACかmarantzかONKYOかDENONか。
ONKYO、DENONは音が嫌いなのでまず落ちる。ONKYOは以前A-819XXというアンプを使っていたが、高音が明らかに裏返る。DENONはカートリッジはいいんだけどね。
marantzはずっと使っているので好きなのだが、D/Aコンバータがシーラス・ロジック製とうたっているのが気にくわない。CD本家PHILIPS直系の誇りはどこへやった。おまえそれでもアイントフォーヘン人か、というわけで却下。
残るはTEAC、まあこれにするかなあ。CD黎明期にディザ信号を使ってローレベルのリニアリティを改善した試みは高く評価していたのだ。ただし当時から「モーターが悪い」という評判はあったので見送っていた。とはいうもののWebページを見てもディザ信号なんて単語は出てこない。けど、まあ圧倒的に安いし、センターメカだし。と半ばこれに決めていた。が、検索していると、なんとCECがローエンドを出しているのね。ベルトドライブの高級機という訳の分からない(角速度一定に適したメカを角速度一定に適用してええんかい)機械を出していたのは覚えているが、まあ高級機メーカーという印象があったのでちょっと注目。そして「D/Aコンバータはバーブラウン社製」と「オペアンプを使わず」のフレーズがかなりぐっとくる。
バーブラウンのD/AコンバータはSTAX製のものを友人が使っていたことがあり、その際オペアンプをバイパスすることによって音質が向上した経験があるのだ。(もっとも彼の場合プリアンプにC-280Vが控えていたから、ためらうことなくオペアンプをバイパスできたのだが。)いずれにせよ、その辺の店では売っていないので超久しぶりに秋葉原に進出。試聴用のCDを持っていかないのはささやかな意地。ローエンドを買うのにこだわりを見せるのはかえってかっこわるい。さて、いまどきCDプレーヤー単体なんぞ置いているというとどこかなあ、と考えながらも無意識に足は橋を渡っている。気がつくとヒノ・オーディオ。店頭にCECのCD3300が置いてある。2万円の真空管アンプとALTECの小型ブックシェルフで聴かせてくれる。ブラスの音がよろしい。筐体も割としっかりしている。マル。
一応TEACも聴いておこうと中央通りに戻る。置いている店発見。以前は1Fの商品なんぞ目もくれずハイエンドフロアに上がっていたのに、とおもいつつ、かなりの大型スピーカーが鳴っているのを聴いて「なんじゃこりゃ」。ザラザラしたいかにも出たてのCDの音。いかに安くとも買う気はしない。これでは耳に悪い。教育上良くない。
スピーカーの中央に置いてあるのは目をつけていたTEACであるが、鳴っているのは違う機器かもしれない。でも音がヤなので店を出た。音の分からない店がいいものを売っているわけがない。
まあ、これでCECに決まりだな。(ローエンドと言うには高めだが。)翌日、仕事が終わってヒノ・オーディオに寄るとすでに梱包がしてあった。どうやら「こいつは買うな」と分かってくれていたらしい。店員の応対は不愛想なところがあるが、こういうところがやはり10年経っても足を向かわせてくれるこの店の魅力である。
重い思いをして持って帰って(あー暑い)、セッティングして(下にネジ穴が出ているというラックの構造を忘れて床に傷を付けてしまった。自分で設計したラックなのに。ごめんなさい)音を出す。技術の進歩はすばらしい。LHH700に比べて値段は1/9であるにもかかわらず音場は広く、音像は小さい。実に繊細。しかし、存在感や迫力といったものは弱い。良くも悪くもバーブラウンの音。
とはいえ値段を考えると大満足。しばらくこれでいける。しかし、オーディオ不況は想像以上に深刻である。不況は当然撤退を招く。CDプレーヤー本体を作っているメーカーは激減したし、扱っている店も少ないことは先ほども書いた。パーツの供給もひどいもので良質のフィルムコンデンサはもちろん、バリコン、ボリュームまでもが入手困難らしい。
なんでこんなことになったか。音楽ファンを増やし底辺は拡大したものの、コアなファンを作らなかったからだろう。コアなファンがいるとなんとか続くものなのだ。いい例が阪神タイガース。コアなファンが20年に一度の優勝を待っていてくれる。コンピュータの分野でもマッキントッシュがコアなファンをつかみ、そして支えてもらっている。音楽の分野は底辺はめちゃくちゃ広がった。Walkman以降の成功はすさまじい。しかしいい音楽、いい音を聴かせてファンを育てるという努力をしなかった。したがって音楽ファンは単に音楽を聞き流すに留まり、コアなファンは増えなかった。だから当たり前のように「音楽を捨てて、他の趣味に乗り換える」ことをしてしまう。10年後にオーディオ専門店に足が向いてしまうということはないのである。私だってカセットデッキが壊れたときは、専門店に行かなかった。所詮カセットなんて音が悪い、それほどこだわるべきものでもない。いや訂正しよう。カセットにダビングすると音が悪くなる。音が悪くなったものを聞く気はしない。従って、昔エアチェックしたライブを聴くのでなければ、カセットテープなんて使うことはない。
これがコアなファンの態度である。オーディオマニアとはクオリティの下がった音を聞く気がしない人種である。だから借りてきたCDをダビングして聴くなんてことは絶対無いのだ。間違ったってMDなんか使うものか、どうしても音源が手に入らないときは我慢するけどな。だからおジャ魔女どれみメモリアルCD-BOXが出たらきちんと買ったぞ。
ところがこういうコアなファンをを再販価格制度で守られた販売網で食い物にして来たのが日本の音楽業界である。しかも売りつける音源は、MDにダビングしてもぼろが出ないよう品質を落としてきた。これではいい音を引き出す楽しみがない。いい音楽で感動する喜びがない。こうなると音楽ファンは増えても育ちようがない。
ついにはCCCDなどという「意図的にエラーを混入させ音質を落とした」CD類似物を売り始めた。ここでオーディオマニアをついに敵に回した。なぜなら「CCCDを聴くより、CD-Rにダビングした方が、CDの規格を満たしているが故に音が良くなる」からである。オーディオマニアは万難を排しCCCDをCD-Rにダビングするだろう。
こんなことをしている音楽業界であれば作曲者・演奏者の権利すら尊重しているとはいえまい。一応使用するCD-Rは音楽用に著作権料を上乗せしたのを買ってやる。これで文句はあるまい。(ところで個人用の複製は認められているから著作権料はいらないよね。ならCD-Rの値段に含まれている著作権料はなぜ必要なの?)独占にあぐらをかいてきた音楽業界はこの辺のことが分からないようで、とうとう輸入権などという概念を捏造した。これについてはあちこちで言われているので私は他で語られていないことを主張する。
彼らはダンピングを行っていることを認め、それを保護する法律を作らせた。つまり自由貿易協定に意識的に逆らい、それを日本が国として支持したということだ。
この法律は東南アジアなどに安く売っているCDが逆輸入されることを防ぐというのが意図らしい。ということは、海外にはダンピングして出荷していることを認めたことになる。
だからといって国内の再販価格で高い利益が約束された市場にそれが還流するのは避けたい。なわけで輸入権という観念を作ってしまった。国際的には自由貿易の原則に逆らい、国内的には馬鹿にするなである。
こんなところに貿易摩擦のタネを作るな。合衆国のレコード会社が「日本への輸出が増えないのは輸入権があるからだ」と後で文句を言ってきたときの対策はあるの?それをネタに自動車の輸入制限をされたときにどう責任をとるつもりなの?製品ならともかく他国文化をダンピングで売りつけられている国は決していい気持ちはしないよ。なのにダンピングだと積極的に認めるの?
どうしてもやりたいのなら、建前を作れ。途上国では現地の物価に合わせて廉価販売をするが、そのためにプラスチックをギリギリまで薄くしているとか、レーベル面をコーティングしていないバージョンを販売しているとか、もっともらしい理屈をつければいいじゃないか。逆に国内版の品質を上げて全てGOLD CDにしてもいい。(Microsoftはその辺分かっているようで、途上国向けに廉価版Windowsを出すが、入門者向けと称して機能制限を加え、逆輸入されないよう差別化を図っている。)
ただし、オーディオマニアはこんなCDを買わないとしても、MDに慣らさた消費者は抵抗無く買ってしまうかもしれない。でもそれは自業自得。(日本はオーディオ機器メーカーと音楽ディストリビューターが同じ系列なので一緒くたにしてこう言っても許されるだろう。)ところで、輸入権を主張するのなら、輸入してほしいCDの要望があればもれなく輸入してくれるんだろうねえ。ならばドイツ語版おジャ魔女どれみを是非よろしく。再販価格制があるから逆に高い価格はつけられないはずだよね。まあ3200円くらいは出そう。