ハプニング音楽祭

 駅の周辺でわめいているストリートミュージシャンとやらがいる。だいたいの場合「うちの子の音感が狂うからやめてくれ」と言いたくなるのだが、親戚の子やるとなると話は別だ。つい追っかけてしまった。ただし厳密には「ストリート」ではない。堂々と管理者のいる横でやった。すごい心臓だ。しかも楽器は半分現地調達。
 たしかに美人なんだ。それなりの衣装。ちなみに姉妹です。

 どうやるつもりなのかと思ったらなじみの楽器屋さんに入っていった。顔見知りなので、姉の方がピアノの前に座っても特に何も言われない。妹がバイオリンを構える。さりげなくベートーベンのロマンス2番。この姉妹、上手いんです。楽器店のデモ演奏のレベルは余裕でクリアしている。当たり前のように弾いている。小さい子が「わたしもやりたい」なんて言っている。なんと自然な光景。店員さんが文句を言わないはずだ。早速カタログなんか用意してたりして。(^^;

 姉妹、上っぱりを羽織って商店街のアーケードへ。昼からのイベントのために真ん中に仮設ステージがある。ミキサーのおにーちゃんがサウンドチェック中みたいだ。
「すみませーん。ちょっとキーボード弾いていいですか。」
 あの2人に笑顔で頼まれて断れる男性はありえない。「う、うん」しどろもどろしている間に、2人、さっとステージに上がり軽く一礼。曲はサラサーテのカルメン幻想曲。なじみあるキャッチーなメロディ。ドラマ「のだめカンタービレ」の最終回、三木清良が弾いたことで知名度も上がっている。道行く人も足を止める。ミキサーのお兄ちゃんも妹のバイオリン用にマイクをずらしたりしてくれる。はっきり言ってかなりの集客力です。
 でも、さすがに難曲だね。第5楽章は気力でなんとか音をつないでいる感じ。アンサンブルも乱れ気味。でもさすがは姉妹。ポイントポイントできっちり修正してくる。
 汗をかいて逆にリラックスしたのか終わったところでマイクを持って「みなさん、ありがとうございました。今日は午後1時からここで、ジャグリングのショーをやります。テレビにも出ている有名な人だそうです。よろしければお立ち寄り下さい。」
 ニコニコしながら退場。なんて図太い神経なんだ。

 デパートに入って行く。ここって入り口がロビー風になっていてステージとグランドピアノがあったよねえ。まさかあそこでやる気じゃ。さっと上がって深々とお辞儀。いきなりベートーベンの「春」を弾き始めた。のだめがらみでなくとも有名で、この季節にぴったり。えっ、という表情の受付のお姉さん。そうか、今日日曜だからエライ人は休んでいるだろうし、連絡が十全に行われていない可能性もあるな。電話しても責任者がつかまらない可能性も高い。もっとも平日なら入社式でお偉いさんみんないないし、、、そこまで計算してるのか、こいつら。
 でも、受付のお姉さんが電話機に手を伸ばした。すかさずフォローに行く。「時々こういう催しをやるんですか?」「は、はい」「いいですねえ」「あ、ありがとうございます」。手が離れた。

 第1楽章が終わって礼をしたところで拍手。ここでやめれば逃げ切れたのだが、そこはまだ子どもだ。アンコールにモンティのチャルダッシュ。浅田真央がフリーの演技で使った曲。お客さんが手拍子であわせてくれる。これが悪かった。さすがに売り場の主任が走ってきた。
 演奏を妨害されることはなかったが、「ちょっとちょっと」。

 「困るんだよね。勝手に演奏されても。」
 「商店街の方で、ハプニング音楽祭というイベントをやるから、午前中だったらどこで演奏してもいいって」
 「そんな連絡来てないよ」
 「あ、すみません。デパートは別かも。でもどうしてもここで弾いてみたかったんです。」
 「まあ何でもダメっていう気はないし、弾きたいって申し出てくれれば、若い人にぃそういう場を与えるのもいいことだから、考えなくはないし、お客さんも喜んでくれたからねえ、こちらとしても悪い話じゃなかったけども、そのう、ハプニング音楽祭だっけ?それでも事前に一言ないとねえ。やっぱりねえ。でもそういうイベントの時は広報に連絡が入るはずなんだがなあ、、、あいつもきちんと引き継いでくれないと。」
 「その人は悪くないですよ。」
 「え、なんで?」
 「エープリルフールです。」

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