「クセ」のないギター

 楽器用の木材資源の枯渇は相当深刻みたいだ。  バイオリンの弓に使われるペルナンブッコは次の世代には「ない!」
 本体に使われるシカモアはまだ何とかなるようで、例えばポー川の防風林を切ってくればよいらしい。それでもスカランペラが集めた材みたいなのはないんだろうな。手にとらせてもらったことがあるが、物差しに使えるほど均一に虎杢が入っていた。
 それよりもスプルースが問題か?最高の材はストラディバリの時代に切り尽した?

 木材を比較的使わず、高く売れるバイオリンでこうだから、大衆化したギターなどはすさまじく深刻。クラシックギター材はもちろんのこと、エレキギターもレスポールはこの先何本作れるか、というレベルじゃないだろうか。レスポール50周年モデルはさすがだが、これで最後だろう。丁度レスポール氏が長寿を全うされたのも、いいタイミングなのかも。(94才まで生きた人だ、いいタイミングで亡くなったといっても失礼じゃないだろう。)
 ハンドメイドの1品ものを見た。最高の職人が今手に入る最高の材で作ったらしい。かの信頼している楽器店で弾かせてもらった。ストラトタイプはストラトを超えた芯のある音で「最高!」だったのだが、レスポールについては、感想「自分の奴のほうがいいや」。工作精度はかの一品ものの方が上だし値段もいいのだが、もう木材の差だろうね。私の奴、見た目からして決して最高の材ではないと思う。それに重い。が、それでも響く。指先にも胴体にもきちんと伝わってくる。同じお金を出すならPRSを買っとくべきだったかと思ったことも正直あるが、やっぱりレスポールだけのことはあるなあと今更ながら感銘。平沢唯に感謝しないとな。レスポール氏もさまざまなギタリストの追悼の辞を聞く限り相当な人格者だったらしいから(抽象的に人格者だったという評価がやたら多いということは、実は具体的にこれといういいところを持たない人だったとも推測できるが)、多分、アニメで女子高生が弾いているということを聞いても、きっと素直に喜んでくれたと思う。(これで「レスポールは女子高生が弾いていいもんじゃない」とマジ切れした人も全員、矛を収めてくれるだろう。)

 しかしレスポール風ギター、平沢唯シグニチャーモデルについてはレスポール氏も眉をひそめたと思う。29,800円ではまがい物しか作れない。真面目に作ろうとすると40万円は超えてしまう。木材が手に入らないのだ。仕方なく「メイプル」の示す木材の範囲は果てしなく拡大解釈されて実はなんの木なのか怪しくなっている。1981年だったかグレコが「フレイムメイプルの突き板をつかう」というアイディアを採用し、EGF850を作ったとき、それでもトップはメイプルだった。同時に発売されたEGF450は同じく虎杢だったがカタログには正直に「シカモア」と書いてあった。そしてボディを叩くと音は完全に異なっていた。貴重だったなこの経験。だから私は50万以上のギブソン、レスポールのリイッシューものが吊り下げられているとき、無意識的にハードメイプルの前(数十本に1本くらいはあるみたいだ)に立っている。

 だから平沢唯シグニチャーモデル、ここでも風穴を開けてほしかったなあ。フレイムメイプルなんて書かなくてはっきり「シカモア」と書く。ストラディバリだってシカモアで作ってんだから恥じゃない。(ギターには向かないと思いますが)。だから「シカモア」トップでいいじゃない。何?シカモアは代用品のイメージがこびりついているから駄目?では「ヨーロピアンシカモア」トップ、でどうだ。ええい!いっそヨーロピアンシカモアの一般的な名前「プラタナス」トップとしてしまう。平沢唯モデル、バックのほうはマホガニーの代用品「ナトー」らしい。BCリッチのモッキンバードに使われているからイメージ悪くないと思ってるんだろうが、価格からしてナトーの粗悪品だろう。ここは割り切ろう。ストラディバリもバイオリンに使った「ポプラ」でどうだ。アルダーの代わりに使われることも多く、安いが音そのものは悪くない。
 平沢唯モデル。唯ちゃんのイメージに合わせてプラタナストップ/ポプラバックで作りました。メルヘンだねえ。違和感あるか?文句ねえよな。

 これはこれでなかなかのこだわりだと思ってくれ。
 当方はこういうレスポール愛好者なので、「けいおん!」の中野梓のセリフにカチン。
「重たいし、ネックは太いしでクセがあると思うんですけど」。
 ムスタング弾いてるあんたに言われたかあない。

 だいたい私は中野梓をメンバーと認めていないところがある。オリジナルメンバー4人の役割分担が、父親:秋山、母親:琴吹、子ども(職人):平沢、子ども(道化):田井中、と安定しているのだ。作者も実は自覚していると思う。澪に言わせている。「私はこのメンバーとバンドするのが楽しいんだと思う」。つまり梓は邪魔なのだ。
 確かに小柄な女の子がムスタングを弾いているとかわいらしいが、意外性は無い。エレキギターの定番中の定番であるレスポール、でも言われてみれば女性が弾いている事はないよね、これをあえて弾かせてみた。似合うじゃない!という意外性がいいのだ。「レスポール萌」原作者唯一の発見といってもよかろう。(強いて言えば「レフティ萌」というのもあるかもしれん。)

 ただし、楽器店で店員に聞いてみると、「クセのないギター」というとだいたいストラトキャスターの名前が出てくる。そうなのかなあ。かなりいびつだと思うんだが。大量生産に適するよう設計されたため、ペラペラのプラスチック板にピックアップからボリュームからまとめてねじ止めされている。ボディのカットは二次曲面。ネックもボルトで接続。おかげで丈夫だし、部品交換も容易ということでメンテナンス性は高いが、クセがないというわけではない。量産に適したシェイプや構造が真似されたのでありふれているというだけだ。
 かといって、エクスプローラーやフライイングVといった変形ギターがクセがないという人はまずおるまい。それにストラトタイプ、確かに弾きやすい。ストラップをかけたとき安定するというのが大きいか?ようするにありふれているので、たとえクセがあってもそれが普通と思われているだけなんだろう。そういうもんだとは思うが、腑に落ちない。

 そもそもクセのあるギターとはどういうものを指しているのか?いろいろ考えても結論が出ん。そこで見方を変えることにした。
 奏法のクセ、というのはワリとよく分かる。指先の屈伸で弦移動するクセとか、ピックを深く弦に当てるクセとか、チョークダウンの時に隣の弦をはじいてしまうクセとか「演奏に害がある」ものを中心に割と分かりやすい。というわけで、このギターを弾いているうちに演奏のクセがついてしまうものを「クセのあるギター」と定義する。違和感ないですよね。

 するとレスポールはクセがないことになる。確かに標準的な手の大きさの女子こーせいが弾くと、ネックが太いので自然と握りこんでしまうことになり、ポジション移動の時に手全体がが動かない、というクセはつくかもしれない。が、その程度だ。重いから猫背になる?まさか。ジミーペイジは知らんが平沢唯は胸を張って弾いている。
 ボディが重いので、ネックが地面に対して角度のついた形で構えることになるが、別にいいんじゃなあい?なぜならクラシックギターはそう構える。
 私がレスポールで単音でメロディーを弾くとき、リアピックアップのエスカッションに右手小指を当てて安定させる。これもクセかもしれないが悪影響がない(と思う)からセーフにしてくれ。

 この定義で行くとストラトキャスターはクセがあることになります。まず初めて弾いて面食らうのが、ボリュームノブの位置。カッティングをやるとぶつかります。回避するため小指中指薬指を跳ね上げるクセがつく可能性が高いです。さすがは椎名高志、絶対可憐チルドレンで雲居悠里がストラトを弾いていますが、見事このクセを捉えて描いています。これやると音の粒が揃いにくいし、タッチが軽くなりすぎるんだよね(アポヤンドにあたるピッキングが出来ない)。ムスタングも同様の問題があります。
 アームがフローティングの状態なので、ダブルチョーキングの時に音程を変えない弦も軽くチョーキングしないと音程が合いません。先ほどの雲居悠里はこれを嫌ってかアームを外してブリッジを固定させています。同じくトレモロユニットがフローティングになっているムスタングを弾く中野梓も同様です。でもムスタングの最悪のクセは別にあるのだぞ。指板とブリッジのアールが合わないので、ハイポジションを弾くと余分な力が入る。
 なお、私に限ったことかもしれませんが、単音ソロのとき、小指をピックガードに当てて安定させるけど、こうすると小指の間接が逆に曲がり、後で痛いことがある。これは悪い癖じゃないのかなあ。
 テレキャスターもオリジナルの状態ではブリッジがカバーされているので「ミュート奏法ができない」という弱点があります。これもクセでしょう。

 実はモッキンバードがクセが少ないかもしれない。変形ギターとはいえ、ひざに乗せると安定するし、スルーネックはハイポジションに行くまで左手親指のフォームを変えなくてすむ。随分意外な結論。これでは心情的に納得できない人を考えて、最もクセの少ないギターは、パンパカパーン!ポールリードスミス(アームなし)です。殆どの人があっさり納得してくれそうだ。(これでもボリュームノブが邪魔な人がいるかもしれんが。)
 えらくPRSを持ち上げるねえって?東京に転勤してきたとき極上のPRSを持っていた先輩に世話になったという理由によります。なおこの先輩が「田井中」という苗字でした。本人何も言ってなかったけどP-MODELのドラマーと関係あるのかな。先輩自身も東京ドーム、3万人の聴衆の前でギターソロを取ったという、一生自慢できる経験を持った人でした。
 この先輩に教わった「ピッキングは手首で、弦移動は腕で」が、ようやくなんとなく、分かってきたところ、です。

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