好意的に解釈すると(知恵袋ダイジェストPart2)

 Yahoo知恵袋に付き合って結構楽しんでることを先週書いたが、当然のことながらむかつくことも多い。
 嫌なのは意見だけ聞いておいて「取り消し」にしてしまう奴である。知恵コイン500枚!とか言っておいて、回答受付期間が過ぎると「取り消し」。普通は詐欺と言う。

 唯一許せたのは、いろいろ書いたおかげで、この人は豊かな家庭のよく躾けられたお嬢さんと分かり、楽器を買いに行く場所と日付まで推測できてしまうので、父親があわてて削除させた可能性が高い、というもの。消すならもっと早く消せよ、という気がしなくもないが仕方なかろう。ちゃんと父親と行け、と書いているのに。
 中には、反感を買う質問をして、袋叩きにあって、削除となったものもある。気持ちは分かるが、文句はある。このままじゃ袋叩きだな、と思ってフォローの回答をしてやったんだが、質問を削除すると回答も削除される。その気持ちまで一緒くたに消されるのは納得ができん。
 おすすめエレキギターを問われた。ステージ映えしてみんなが持ってないものを10万円以内で。難しい注文だが、見つけてリンクを張っておいてやったら、質問が削除された。少々ムカッと来たが好意的に解釈しよう。同じようなものを探している他の人がいて自分の質問を見て、先に買われたら嫌だという気持ちで消したんだろう。ちなみにフジゲンドラゴン・カスタムインレイです。確かにスイートスポットにハマっている可能性、高そうだ。質問者が見た瞬間に現金つかんで飛び出していってもおかしくない。しかし消すにしても質問に補足を加える形にしてお礼を述べてからというのがマナーだと思うぞ。

 ホントに詐欺としかおもえないのもある。当方の文章、たまたまその質問/回答を見た人にも楽しんでもらえるように工夫しているんだから、敬意は払ってほしいものだ。勿体無いのでここに残しておく。珍しくもウチのガキに褒められた回答だ。

「おもわずホロリとなる歌は?」に対して

John LennonのOh! Yoko
 私が聞いた中で唯一「嬉し涙が出てくる」曲です。
喜びを表す曲、というのは極端に少ないです。
「この喜びの日に」とスピーチをしている曲はありますけどね。
(ベートーベンの第9とか)
純粋に喜んでいるのを私に感じさせる中では
クラシックではシューマンの「謝肉祭」ただ1曲
(好きな子の生まれた町の名前が僕の名前にちょっと似てる、わーい
馬鹿みたいに単純な気持ちです)
その後はBeatlesまでありません。

それとも英語じゃ駄目?

 シューベルト「魔王」の
Es scheinen die alten Weiden so grau.
息子を力づけようとする父親の必死な気持ちが伝わってきます。
ついこぶしに力が入ります。

ドイツ語でも駄目?

 気になったのが、あんまり歌詞を書くと著作権協会がうるさいこと。。。
(シューベルト〜詩はゲーテ〜は著作権が消滅してますが)
あえて書かせる、ということは、自分で歌詞を書く際の参考に?と考えたんじゃないかと。

 まあ、私がさっき書いた
>>ついこぶしに力が入ります。
でも参考にしてくれ。
参考にならないって?
でも
「こぶし」は「ゲンコツ」と「コブシ(ビブラート)」の掛詞だし
「ゲンコツ」をドイツ語に訳すと「Faust」、作詞者ゲーテの代表作で、縁語になってます。

 多くの人は舌足らずだし、体系的な知識にもとづいて質問を組み立てているわけでもないので、そのままでは回答が出せない質問が多数存在する。
 そこで文体や使っている用語、社会常識から、類推してやる必要がある。何を言っておるんだこの馬鹿、と言うわけにもいかんので、親身になって質問を補足してやっているつもりだ。また、できるだけ好意的に解釈してやっている。

「高校では軽音部に入りたいと思います。エレキギターは何がいいでしょうか。」
→おそらくギター志望者が圧倒的に多いと思いますので、ギターを弾かせてもらえることが大事です。アコギを1年やっているということですので、「カッティングで勝負」しましょう。ということはギターはストラトタイプがいいです。ストラップをつけて立って弾くとカッティングがやりやすいです。コードを弾いて各弦の音が分離して聞こえるものを選んでください。太く歪んだ音がほしいのでしたら、保証の限りではありませんがCharvelを試してください。

 ギターを選ぶ基準も不明瞭で、予算も分からない。なら「軽音部でギターを弾かせてもらう」ことを主目的として考えるほかはなかろう。僕は親身な態度と思っている。

 ただし、「好意的に解釈する」と場合によっては相手を買いかぶることにもなり、それはハルヒに言わせると「相手を馬鹿にすると同じくらい失礼なことなんやで」なのだそうだ。未だによく分からないのだが、思わずスイッチが入ってしまった回答を自分で読み返すと分からなくもない。

 質問者は、2本目のギターがほしいと親に申し出たところ、こんな風に言われたんだそうだ。
「本物のレスポールは個体差が激しすぎる、なんでストラトじゃ駄目なんだ、上手い奴は皆ストラトだ。お前の弾いてる(中略、そいつらは)下手だからレスポールなんだ。そんなに欲しいならお前も大人になってから買え」

 この質問、実は同じ人が2回やっている2回目である。最初は親の台詞が「2本目のギターは個体差が分かるようになってから買え」と略されており、質問内容も「個体差はどうすれば分かるようになるでしょう」という素直なものだった。だから私は、ギターの個体差が分かって、当然質問者のことも分かっていて、そう言ってくれる親がいるというのはとても幸せなことだよ、と回答した。が2回目の質問は親の台詞を上のように引用して「この意味が分かりません」という内容だった。
 レスポール好きの私は、おもわずカチンときた。ただし文句は言わない。子どもの前で親の悪口を言うのは、多くの場合人間として許されることではない。だから思い切り真正面から、親の言うことを、誰が聞いても正しいと思えるように、解釈した。

 あ、感心して損した。(元質問で感心した感想を述べてしまった。)
個体差が激しすぎるのは認める。
たださっきまで僕や他の回答者が考えている個体差ではない。

 徹頭徹尾相手の言うことを尊重して素直に解釈します。

 単に「レスポール」と言わず「本物の」をつけたところに注目。
「本物のレスポール」は、1952〜1960までに製造されたもの。そこで一度生産中止になったから、今生産されているのは「再生産モデル」といわれる。
 親御さんが何歳か知りませんが、「ストラトの個体差(こっちのほうがはるかに激しい)」に言及しないことを見ると何本も何十本も弾き込むタイプではないらしい。
 ましてや、1952〜1960のいまや貴重品を個体差が分かるまで弾き比べることができたはずがない。だいたい僕と同じか少し上の年齢だろうから同じ時代を生きてきたものの実感として分かる。合衆国在住であった場合、それができた可能性はあるが、そいつらを個体差が分かるまで弾いた場合
「普通はレスポールのとりこになっています」。
(ここ笑うところなんだけどな)
ということは、親御さんの言っている「個体差」は音ではない。

 本物のレスポールは個体差が激しい、正しいです。でもその個体差なら、すぐ分かります。
「確かに木目(特に虎杢)は1本1本の個体差が激しいよなあ。」
(ここ、コケるとこなんだけどなあ)
 あ、眼、見えますよね。見えなかったらごめんなさい。親御さんは眼の見えない子どもを気遣ってそう言っているのかもしれない。いや、見えなくても分かる。虎杢に沿ってかすかに凹凸があるし、ウェザーチェックも入っているから。だったら尚のこと「本物のレスポール」でしょう。

 ストラトのほうが個体差が激しい、というのはストラトの基本設計が変わらないからです。ストラトは1954年に発売されてから今までずっと基本的に同じものが生産され続けています。しかしたとえ木材やピックアップの種類が同じでも、音から言うと1964年までのストラトと今のストラトはまるで別物です。しかし全部「本物のストラト」には変わりない。

 親御さんが音が分からない人だというのは次の文でも十分すぎるほど分かります。
「なんでストラトじゃ駄目なんだ」
 これに対する回答、レスポール弾きの半数はこういいます
「音が違うから」
(もはや聞いている人が反応もできないほど当たり前のことなんだけどな。)
 まあ、別の回答として「かっこいいから」「平沢唯が使っているから」もありますが。少数派として「弾きやすいから」もある。

 「上手い奴は皆ストラトだ」
 この意味ですが、今までで親御さんがギターを音でなく、見た目で判断する人であることは分かりましたのでその路線で解釈しますと、言いたいのは
「ストラトのほうがカッコいい」
程度のことだと思います。確かに「ストラトのほうが軽くて」「ストラップをかけたとき安定する」のでアクションがしやすい。また「ストラトのほうが丈夫」なので気楽に振り回せる。したがって「アクションの上手い(というより派手な)奴は皆ストラトだ」というのは、ストラトシェイプのギターまで入れると説得力あります。
 1本数千万円と言われネックの折れやすい「本物の」レスポールで派手なアクションをやれる奴はおりませんよ。

 そう、「本物の」レスポールは高いんですよ。たとえそれが再生産品でも、コピーモデルでも、いい音するレスポールは高い。そりゃ親御さんが
「大人になってから買え」
と言うのももっともでしょう。
 だから「お父さんは見た目で判断している。僕はレスポールの音が欲しいんだ」
と主張しても
「いい音するレスポールは高い。大人になってから自分で買え。」
と言われたら扶養家族としては何もいえませんね。
 それは仕方ないと思ってくれ。私だって、高校出てから10年後にやっと買ったんだ。再生産品で、かつ中古だけどね。でもものすごく気に入ってます。一生手放しません。

 ポイントは「本物」という多分使用者自身も曖昧なまま使っている言葉の意味を少々厳密に定義したこと。たったそれだけのことだが、そこから文意全体を再解釈した。つまりジャック=デリダ得意の「脱構築」をやってしまった。文学批評の手法としても使われているからそう奇異じゃない。それによく分からない単語の意味を聞き返すのはコミュニケーションとして当然のことである。最終的には親の言うことを肯定しているのだから、文句もつけれないだろう。
 それに親御さんの意見を正しいとした場合、これ以外の解釈は不可能だ。そしてどこをどうつついても文句は出ないはずだ(途中でレスポールの対象をサンバーストに限定している、という批判はできるが、論を分かりやすくするためである)。でも全般的に馬鹿にされた感覚だけは残るような気がする。

 悪いのは変なことを言った先方である。それを真面目に解釈した私は褒められることはあっても非難されるところはひとつもない。
 「世の中は理屈だけでは割り切れない」という理論的でも理性的でもない意見があるが、そしてそのたびに「だとすれば理屈の方が間違っているんだ」と謙虚に返し続けてきたが(そのとき「じゃあ一緒に考えよう」といってくれた人は一人もいなかったが)、これだけは私も説明できない。
 かすかに類推できることを文学的に表現すれば、こう証明したのと等価なのかな。
「お前という人間は、お前のプライドに値しない。」

 朝青龍の顔が浮かんだぞ。「朝青龍の言動は横綱に値しない」。結構普通に言われていたよね、このフレーズ。ということは社会通念上、この程度のことは言われても問題ないはずなのだが。

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