破裏千流、鉛筆ピッキング講座

 繰り返すが私はギターが下手である。謙遜してこう言っているわけではない。ホントに下手なのである。どれくらい下手かというと。むかつくほど下手なのである。
 ギタリスト以外が聞けば「ホント下手ですねえ」で済むし、多少は慰めの言葉をかけてくれるかもしれない。が、ギタリストが「見れば」本気でむかつくと思う。少なくとも自分が自分と同じプレイを見ればむかつくに違いない。

 これだけ滑らかでストレッチの効いたフィンガリングが出来て
スキッピングを交えても整然としたピッキングが出来て、
しばしばうっとりするほどきれいな音が出せるのに
どうしてそんなに下手くそなの?
左手でも右手でもいいから自分のと交換してくれ。

 こういう意味である。実際、楽器店で弾くとそういう視線を思いっきり感じる。楽器店の兄ちゃんがうらやましがるレベルで右手、左手が動く。

 多分うちのガキもバイオリンを弾いていてそういう視線を浴びているのだろう。まあ、あいつの場合は「かわいいから許す」が付くと思うが、先生からしてみれば「いいもの持ってるんだからもう少し真面目にやればねえ」だろう。
 それでも私のファンは世界に1匹いる。聞いているとリラックスして寝てくれる犬である。まあ犬も食わない、ほどではないということで納得しよう。ピアノに合わせてインコを歌わせたニョーボのレベルには遠く及ばないが。

 要するに当方、両手をシンクロさせたり、リズムを動かしたりというのが苦手なのだ。簡単に言うと頭が悪いのである。実際に言語化できないものを取り扱うのは苦手である。これは日常生活でも感じること。ただし、普通の人が言語化できないものを言語化するのはものすごくうまい。理由は言語化する必要を感じないものまで言語化するからという殆どトートロジー。そして言語化してからは言語で捉えられないほど速く思考が回転する。この辺は自分でも良く分からない。一般には「勘がいい」と思われてるんだろう。勘じゃなくて計算のつもりなんだけど。

 というわけで、ひょっとしたら、自分は教えるだけなら上手いのではないか?という気はしてきた。普通の人にとって、言語化以前のコツとかノウハウをきれいに成文化できるからである。私の傲慢な台詞集に「ノウハウなんてのは存在しない。全部文章に出来たらノウハウとは言わないだろ」というものもある。

 では、左手がなぜこんなにきれいにストレッチするか、から説明すると、単純に親のおかげである。
 ぶっちゃけた話、生まれつき指が長くて開きが強いのだ。小六のときにすでに硬球でフォークボールが握れた。しかもいきなり大円をつかめる。だから知恵と努力でこうなった、という訳ではない。でも、もちろん考えていたことはある。その証拠に指はばたつかない。
 人間の関節は回転運動しか出来ない。というわけで、目的の場所にまっすぐに指を伸ばすのは無理な技である。薬指付け根の関節を右に回し、第1関節を伸ばし、と一連の動作として動かすとどうしたってばたつく。ではどうするかというと、指の間隔を固定しながら(実際には微調整の連続)第1関節を伸ばすのである。必要なのは指の間の距離をキープする筋肉である。楽器以外ではなかなかつかない。かつてポンとベースを渡されて構えたとたん、左指がネック上で等間隔かつ一直線に並んだ。この筋肉のおかげである。ということでベースが弾けることになってしまった(慧眼である)。だからギタリストとしてもベースの練習をしたほうがいいかもしれない。というかいいと思う。少なくともフィンガリングに必要な筋肉はつく。
 なお、この指の長さと開きの強さは長女にしっかりと遺伝している。

 右手はかつて「破裏千流武道ピッキング」を開発したが、現在更に進化して「鉛筆ピッキング」になっている。名称の迫力は落ちたが、説明はしやすくなった。
 さて、皆さん鉛筆を持って字を書いてみてください。自分でもたいしたもんだと思うでしょ。鉛筆の先端は思ったところに行くし、紙への着け離しを1mm以下の精度でやっている。指と手首の動きの分担も理想的だし、かかる力も必要最小限。次の字に移るときは腕全体が滑らかに移動。さあ、ここで鉛筆に替えてピックを持ってみよう。それで字を書く。中指の位置づけが変わるけど同じようにピックの先がスムーズに動くでしょ。
 この調子で、ギターの上に手を置いてみる。ブリッジの外に手を置いて鉛筆、いやピックを持った人差し指と親指が弦の上に乗るという形。ブリッジによってはやりずらいかな。でもなんとなく分かると思う。随分と動かしやすい。ただし、小指・薬指・中指を握った状態だと手が浮きすぎたり、弦に引っかかったりしてやりずらいかもしれないので、すこし手のひらを開き気味にするかな。これがバダスブリッジだとスムーズなんだが、どうやら絶滅に近いようだ。探すとこれくらいしかない。おかげで「初心者用ギターは?」と聞かれて適当な答えがなくなってしまった。まさか「モッキンバードのビンテージ」と言うわけにもいかんだろ。
 弾いている写真を載せておくが、弦移動は腕で、弦をはじくのは手首と指で、単音弾きには理想に近いフォームだと思う。あ、野球用のリストバンドをしているのは、滑りを良くする為よ。弦移動で腕が動くので、これがあるとずいぶん違う。

 ただし、2つ問題点がある。まずはミュートがしづらい。実際には見て分かるとおり親指の脇でやっている。人間の手首の骨のつき方からいって、小指側で押さえるよりも自然だと思う。慣れるとブリッジミュートもできるし。何故問題かって?ミュートが出来すぎて困ってしまうのだ。低音弦から高音弦に移るとほぼ自動的に弾き終った低音弦をミュートしてしまう。少々スタッカートしすぎるのだ。ピックを持つ親指をちょっと曲げて遊びを作り対応しておるんだがどうかねえ。
 もうひとつは「適当なピックがない」である。

 ここで本当に鉛筆を持ってピッキングしてみてもらいたい。まあ芯がすぐに折れるから爪楊枝あたりになるかな。ものすげえ力がいるよ。ホンの1ミリ弦に引っかかっているだけなのに。というわけで、ピックが弦をはじくというのは意外にも馬鹿力のいる動作ということが分かった。
 では実際にはどう動いているかを考えると、
1.ピックが弦に当たってはじかれる。
2.ピックを上に抜く。(ハリソンの指癖として紹介したが、ロイ・ブキャナンも思いっきりやっていた。)
3.ピックのエッジの丸みを弦が回る。
のどれかであろう。で、鉛筆ピッキングは3である。当然このとき擦過音がある。先が尖っているほど擦過音は少ないが、今度は弦の通過の抵抗が大きい。このバランスが難しい。またピックのエッジの仕上げがきれいでないと擦過音が盛大に出る。
 私の場合、このピッキングに合うピックはmoonのJazzしか見つかっていない。これ以外では弾けない。悪いことにどうやら生産中止みたいだ。流通在庫のある店を2軒見つけたので買い占めてきた。70枚ほどあるから当分持つだろう。リッチー・ブラックモア御用達の5角形べっ甲ピックでも悪くはない。
 が、問題は形じゃないんだよなあ、エッジの処理なんだわ。従って同じ形でもPickBoyのはザラザラという音がして使えない。ダンロップのデルリンピックはすべりはいいが、エッジがすぐにささくれ立つのでさほどには適していない。これ以外でエッジ処理がいいというと、TerryGouldかIbanezくらいしか見つかってない。でも若干柔らかいので、ピックで弦を叩く、という感覚が得にくいのだ。(叩く、という感覚が若干身についてきた。ひょっとしてドラムロールのようなピッキングでトレモロができるかも、と考え中。)

 ピックが弦をはじくやり方には多分もうひとつあって、
4.ピックを捻って弦を払いのける。
70-80年代ジェフ・ベックの音が出したければ試してみる価値あり。

 そうそう「ギターでハノン」とかいう本があったなあ。たぶん1番はこうじゃなきゃ駄目だよね。
1フレット(人差し指)−3フレット(中指)−4フレット(薬指)−5フレット(小指)−4フレット(薬指)−3フレット(中指)の6連。以下
2(人)−4(中)−5(薬)−6(小)−5(薬)−4(中)
下降形は、最後にこうなる。
5(小)−3(薬)−2(中)−1(人)−2(中)−3(薬)。
指のストレッチでまず不自由しない私でも下降形はしんどい。が、弾ける。
 つまり、1フレット単位の細かいポジション移動をいかに気楽にやれるか、ということ。人がうらやむほどの滑らかなフィンガリングはタネを明かせばこういうことだ。

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