エレキギターの歴史

 わが友人が「テストとは無から有を生み出す芸術である」という名言を残した。
 テストという緊張感の中、いつも以上に頭が働いて、特に書けるほどのことを吸収していなかったはずの分野で、予想だにしなかった新説を即興でぶち上げる。おっ、結構それっぽいこと書けたじゃないか。この快感にかなうものはあまりない。
 自分で思う最高傑作は、商業論の試験で「価格が高いと売れないから安くしなければならない。かといって安いと、実は悪いものじゃないかということでイメージが下がる。この矛盾を解決するために秋葉原が存在する。秋葉原という特異点を作り出し、高級感を損なわず安く大量に販売するマーケティング手段を作り出したのだ。」あーおもしろかった。

 要するに文章を書くときの醍醐味は、当初予想もつかないところに論旨が飛んで、新発見ができることであって・・・という人間に小説はかけないだろーな。
 テストほどではないが、宿題というのもなかなかの緊張感である。明日までにそれっぽいものを仕上げろ・・・うーん、帰国直後の新任部長の講演の原稿、書いてあげたんだけどなあ、お礼一つ無いのはナゼ?(与えられたテーマで、想定を圧倒的に超えた緻密で全体を見据えたものを作っちゃったからだろう。インターネットが普及する前だから統計を探すのが大変だったぞ。手持ちの雑誌ひっくり返して、、、という時代だから、もう時効だよね。)

 というわけでスケールの小さな宿題を書いてみた。ロックギタリストらしく、ロックギターの歴史、である。まあ、夏休みの宿題で、楽器についてまとめてこい、とか音楽の歴史についてまとめてこい、ってよくあるパターンを想定して、ね。娘の宿題手伝って書いてみたら例によって却下されたんだろうって思う人がいるかもしれませんが、そんなことは絶対にありません。私を信じてください。

 学校の音楽の宿題ならクラシックを絡めるのが好印象なので当然そこからはじめます。

 バロックの時代、音楽は王侯貴族の独占物であったが、市民階級の台頭により、コンサートを企画、チケットを市民に販売するという演奏形態が成立した。モーツァルト、ベートーベンがナポレオンと同時代人であったことは決して偶然ではない。
 しかし、この場合、多くの聴衆に同時に聞かせる必要が生じたため、ある程度の音量が必要となり、結果としてオーケストラを用いた交響曲が主流となった。
 この傾向は更に進み、多くの聴衆を集めたコンサート、必然的に更に大きな音量が求められ、ベルリオーズでほぼ限界に達した。
 これには、人間の聴感上の特性が関係すると思われる。聴感上の音量は純粋な音圧からみて対数的に増大するため、聴衆を倍にすると出演者は倍以上に増やさなければならず、コストがかさんだためと想像している。
 しかしこの傾向は更に進み、マーラー、ワーグナーで破綻した。特にワーグナーの楽劇においては大規模な演奏団体、舞台装置が必要となり必要となるコストを入場料収入で賄えなくなった。事実ワーグナーを支援していた諸侯は財政破綻している。

 一方、市民階級の数は更に増加し大衆社会となった。このため音楽の潜在マーケットは更に巨大化するが、従来の方法では必要となる音量を供給できないことが判明したため、解決策としていくつかの、方法が考え出された。

1.大音量楽器の発明
例:サキソフォーン(クラリネットを大音量化)
2.楽器の改造による大音量化
例:バイオリン属の弦がガットからスチールに。ピアノも大型化。
3.電気楽器の発明
楽器の音を電気で増幅することが考えられ、更には電気で増幅することを前提とした楽器が誕生した。
 しかし、音量の増大の問題は解決したものの、大編成のクラシック音楽をそのまま踏襲するのはきわめて難しい。電気楽器の場合当初の歪率は数パーセント単位。音が混濁するのである。よって演奏者自体は逆に減少を始めた。これは経済的には望ましいことだったのだが、クラシックの培った複雑性・緻密性を受け継ぐことが出来ず、新しい演奏形態に適合した別の方向性を持った音楽が必要になった。
 ここで影響を与えたのが奴隷制などによりもたらされた黒人音楽である。具体的には「リズム・ビート」の強調である。そしてこれに適した楽器として、「エレキギター」が着目された。和音をリズムを持って弾くのが簡単で、表現力も備えている。要するにコード進行がわかれば適当にガチャガチャ弾いていても、それなりに伴奏になる。この伴奏楽器として適しているために、聴衆へのアピール力が強い「歌」を前提とした大衆文化との相性が良かったといえる。

 当初エレキギターは、従来のギターの弦の振動を磁気ピックアップで拾うという形状であったが、音量が増大するにつれて「ハウリング」が生じやすくなるという問題点があった。これを解決するために、ボディから空洞を取り除き、鳴りを抑えたソリッドボディが採用された。
 ボディのソリッド化は、加工・演奏を容易としたため、結果としてデザインの自由度が増すことにもつながり、形状にファッション性が導入され始めた。これがユーザーの心をつかみ、更なる普及を後押しした。また、演奏技術の発展に伴い、弾きやすく形状を変化させる必要が生じ、ボディのソリッド化は、これにも適していた。

 当初、音楽信号を電気化したのは大音量を手軽に得るための手段であったが、電気化したことにより音の加工性が飛躍的に高まった。つまり単に出る音を拡大するだけでなく、「いかに」拡大するか、という方向への発展が生じたのである。代表的な例としては真空管アンプを意識的に歪ませたときに出る音がディストーションサウンドとして選好されるようになった。(このとき、なぜかアンプという工業製品はイギリスで、ギター本体はアメリカでという国際分業を産まれております。国際分業時には工業製品をとったほうが有利よ、というリカードの教えを守ったのか、単に国内の電灯線電圧が高いから真空管のプレート電圧を供給しやすかったのか?)
 さらに軌を一にして発達した電気回路/電子回路が、出力の電気信号を加工するとい う手法をもたらし、今までにないサウンドを生み出すことが可能になった。しかも、ア コースティック楽器のような職人芸に頼らずとも誰もが音色の変化させることが出来る ように、しかも大きく変化させることが出来るようになった。

 こうしてエレクトリックギターは

  1. 大音量を出せる。
  2. 歌との相性がよい。
  3. デザインの自由度が高い。
  4. 演奏が容易。
  5. サウンドの加工性が高い。
という理由により、大衆音楽を支える基盤として爆発的に普及したわけである。

 その路線でいうと、今度は音の電気化から電子化への流れになるはず。事実キーボードはもちろん、ベース、ドラムも打ち込みで作られることが多くなり、それ以外の楽器はサンプリングが幅を利かせてますが、それでもエレキギターはそれなりに主流として生き残ってるんですな。何故か?これを考えて書けば「エレキギターの歴史」というタイトルのレポートが完結する。でもなんとなく書く気にならないなあ。

 まあ、電子化まで来ると、こちらもプロなので、それっぽい答えが出すのは難しくない。
 さて、あなたがパソコン上の表計算ソフトでえっちらおっちら月次作業をしているとします。
 「そんなん適当にマクロ組んでやれば楽だし、来月も使えるのに」と言われたら、まあこんな風に答えるんじゃないかな「マクロ覚えるの大変だし、まあ手で出来る範囲だから手でやってるんだよ。」
 似たような感じかな?「そんなんギター弾かなくても打ち込みでやればいいじゃない」「いや、打ち込み大変だし、ニュアンスも出しにくいので、手でギター弾いてるんだよ。」
 こんな答えが返ってきたら「なるほど、ギターって簡単なのね」という感想を持ってもいいよねえ。たしかにビブラートは手で弾いたほうが楽だし、音色の変化をコンピュータに追随させるのは至難の業。
 しかし、宿題のレポートでここまで書くと、なんか尻すぼみになった気がして夢が無い。だからその前で終わらせようか、ってこと!

音楽ネタ、目次
ホーム