太い音

 今日の御題は「太い音」。
 同じ種類の楽器でも、楽器の別によって、あるいは演奏法によって、音が「太い」と評されたり、「細い」と評されたりする。が、この手の表現にはよくあることだが具体的にどういうことか分からんのだよなあ。太いと評される音と細いと評される音をスペクトラムアナライザで視覚化して(最近では「見える化」と言わないといけないのか?レベル下がったなあ)、比較することは可能だが、そもそも「太い」という表現に何がこもっているか分からないんで、比較したはいいが、平均をとると単に周波数が低く音量が大きい方が「太い音でした」で終わりかねない。

 が、当方は思いだした。クラシックギターにおいては、弦のはじき方が大きく2通りあり、よほどのひねくれ者でない限り、一方が他方に比べて「音が太い」と表現するのが当然視されているのであった。つまり「アポヤンド」と「アルアイレ」である。弦をはじいた後の指を隣の弦に当てて止めるか、空中に逃がすか、という違いであるが一般にアポヤンドの方が音が太いと評される。やってごらん、音のニュアンスが「あれっ?」というほど違うから。たしかにアポヤンドの方が音が太いと感じられるから。

 であれば、同じギターの同じ高さの音を同じ人がアポヤンドとアルアイレで弾いて出た音を比較すればよい。弾くのは自分としてもちょっと問題がある。手持ちのエレクトリックはESP特注のストラトとギブソンのプロトタイプと思われるレスポール、いずれも一般的ではない。しかしESPはピックアップがビル=ローレンス、L-250という特殊なものなので、ギブソンの方が遙かに普通のギターに近いでしょうとレスポールを取り出した。仕様は(再生産)スタンダードと同じといえば同じ。
 弾く音は3弦解放のGに決定。理由は2つあって、まずプレーン弦であること。4、5,6弦は太さを稼ぐために、針金に針金を巻いている。当然、振動が一様でない可能性が高い。一方プレーン弦は1本の滑らかな針金。1,2,3弦と3本ある中でスペクトルアナライザで分析可能な範囲を増やすために音が低い方を選択する。また太い弦の方が振動が安定しそうな気もしたのだ。もう一つの理由は、弾く人間による変化を極力減らしたかったから。開放だと押さえる方の指の位置や力の入れ方を気にしなくてすむ。
 ボリューム、トーン共フルアップは、信号電送時に通過する素子の影響を極力減らすということで当然の措置。録音機は真空管アンプなど通さずにギターの信号を直接ディジタルレコーダーに入れる。幸い私の持っているのはギター信号を直接入れることができるように設計されているので問題はない。
 ピックアップはもちろんフロント。開放弦の長さの丁度1/4のところに置かれており、弦振動が比較的安定している部分での検出が期待できる。
 アポヤンドとアルアイレで弾いて録音。ノーマライズをかけて録音レベルを揃える。
 これをスペクトラムアナライザソフトで再生して、ピークホールドしてスクリーンキャプチャ。それが次の画像。(WaveSpectraってソフトです。作者のefuさんに感謝。)

アポヤンドの周波数分布

アルアイレの周波数分布

 ちょっと分かりにくいかな?実際に動いているのを見れば、もう少し分かるのだが。
 要するに「太い音」は、純粋な「G」の音以外のノイズ、というか操音が特に低域に多いということ。
 あと、2次が一番大きいのは共通するとして、3次、4次・・・と続く高調波のレベルが高次になるほど下がってゆく様がはっきりしているということかな。「細い音」は基音のレベルが低い代わりに高調波のレベルが高く、ところどころで段階的に落ちてゆく。

 というわけで「太い音」というものを科学的に解明してしまった。ちょっと威張ってもいいかな?しかし、こういうことを聞いてくれそうな「ミュージシャン」という人種は「感性だ」という主張にゆらぎを与えそうなものは生理的に受け付けてくれないかもしれない。
 というわけで彼らに聞いてもらいたいのでちょっと言い方を変える。
 徹底した分析とヒアリングにより、ギブソンレスポールの音の太さの秘密を解明。これを基にあなたのギターの音をそのまま太くするエフェクタが開発できるかも。

 おまけで、ESPストラトのアポヤンド。
 実は定説に反してストラトの方が音が太いように思っていたんだが、気のせいともいえなくなってきたような。。。

ストラトでアポヤンドしたときのの周波数分布

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