プレ・クロマチック7.二つの弦にまたがる演奏

 続いて「弦の移動」の練習をします。多少はピッチを上げないとね。

 前回と同じように、ギターを構えて、人差し指を3フレットと4フレットの間くらいで1〜4弦に触れる。4弦は指の先っぽでね。次いで中指で3弦5フレットを押さえる。薬指で2弦6フレットを押さえる。なんで5フレットになったかの理由は「歌いやすいから」。中指で押さえているのは「ド」、薬指は「ファ」。
 この状態で一度中指と薬指の力を抜きます。要するに軽く押さえます。ここで試しに2弦3弦をはじいても「ブッ」と雑音が出るだけ。続いて3弦を押さえている中指に力を入れて、早い話が押さえて、3弦を弾くとはっきりとしたドの音が出ます。一方、2弦ははじいても「ブッ」と雑音が出るだけ。この状態で3弦をピッキング「ドー」。
 続いて、今度は3弦を押さえている中指の力を抜いて2弦を押さえる薬指で弦を押さえる。今度は3弦をはじいても「ブッ」で2弦なら「ファー」。
 最初はピックを使わずに中指と薬指に交互に力を入れる練習です。人差し指はずっと力を抜いたまま。結果として動きません。そのうちに「中指と薬指の間を重心が行き来している」くらいの感覚になると思います。無駄な力が抜けるとこうなると思うんだが。

 では今度はピックハンドの方に移ります。2弦と3弦を往復させるんですが、このとき「腕全体を動かすこと。」弦移動は腕でやります。イメージ的には肘を吊った腱で肘の位置を調整します。結果的に肩の角度が変わるけど、肩を動かそうとしてはだめ。余分な力が入ってしまいます。肩をいからせるのは避けたい。あと弦移動は手首を動かしたり、掌の開閉で調整したり、いろんな流儀がありますが、僕の紹介した方法は弦を移動させてもピッキングの形が変わらないというメリットがあるので、まずはこれをマスターしてほしいもの。
 教えてくれたのは20年前、寮の先輩。もっとも「腱で吊る」なんて具体的な言い方ではなかったですが。ホントはね、当時僕自身も「弦移動は腕でやった方が合理的かなあ」なんて考えてたんです。で、たまたま先輩の部屋に行くと「分かった!ピッキングは手首で、弦移動は腕で、むちゃくちゃ速く弾けるようになった」と興奮しながら教えてくれました。フェスティバル形式とはいえ東京ドームで3万人を前にソロをとったほどの人です。僕も迷いがなくなりました。

 腕を動かすもう一つのイメージは、LPレコードプレーヤーのJ字型アームなんだが・・・これはピンとこないだろうなあ。実はね、ベースギターをピック弾きするとつかみやすいんです。弦の間隔が広くて分かりやすい。弦が太くて腕もある程度意識的に使って弦をはじく必要があるから。

 ともかく、腱で吊った肘から伸びる腕を2弦と3弦を往復させて「ドー、ファー、ドー、ファー」と弾いてください。最初は全部ダウンで。ドを弾くときは薬指から力を抜いて、ファのときは薬指から力を抜いて。そのうち、中指に重心を移すのと「同時」にピックが3弦をはじき、薬指に重心が移るのと同時にピックが2弦をはじく、と「両手が同時に」動く感覚が身についてくると思います。何?ギターの構造上、フレットを押さえてから弦をはじかないと音がこもるはずだってか?違います。同時です。つべこべ言わずやりなさい。もちろんメトロノームに合わせて、です。僕も最初は「フレットハンドが先」って思ってピックハンドを追随させていたのだ。が、フレットハンドの動きが良くなるにつれて、特に「重心の移動でフレットを押さえる感覚」が分かってからは「同時」になった。そうしないと音が途切れる。リー・リトナーがセミナーで「速く弾くコツは両手を同時に動かすこと」と書いていたのを読んでから30年。やっと分かった。

 「プレ・クロマチック」といいながら、クロマチックにはとりあえず必要ない弦移動が先に出てきましたが、理由はこの「フレットハンドの重心の移動」を体得してほしかったからです。クロマチックだとどうしたって弦から指を離さないといけない。でも、離すことさえしない最小限の動きの方が、左右を同時に動かすって感覚を体得しやすい。動きが否応なしに最小限になるからね。
 次はいよいよクロマチック、と行きたいですが、その前にピックハンドによるミュートの話。今回出した音は「ド」と「ファ」。ギターの解放弦でハ長調の音階にないのはこの2つ。歌いやすい中で、解放弦との共振が起こりにくいのです。だからピックハンドによるミュートの必要はなかった。でもクロマチックだと共振が出てミュートしないとノイジーでたまんなくなるからね。だからそっちを先に書く。

音楽ネタ、目次
ホーム