プレ・クロマチック12.音をよくする

 この講座も最終回。全12回、としたのは、テレビの「ワンクール」を意識してである。
 で、最後の12回目は、番外編的に、重要と思うものをいくつか、です。当初はリクエストがあればお答え、なんてのも考えていたのだが、質問すらすらないので(寂しい)自分の趣味に徹します。なお、コードストロークが全く出てこなかったのは、当方教えられないから。何も考えずに人並み以上にできたので、自分の動作が解説できないのだ。強いて言えば「野球のバックトスの要領で」、「水銀式体温計を振るように」。

 というわけで「音をよくする」ことでも書くかな。

 音の粒をそろえる練習法として、これはうちのニョーボが娘を指導してるときに使ったのだが、「リズム換え」というのがあるらしい。8分音符2個並んでいるのを、テンポを半分に落としてでも付点8分音符と16分音符に代えて弾いたりするわけだ。原理は良く分からないけども、これやったあとに元の譜割で弾くと粒が揃います。音を一個一個意識するようになるからかな?
 譜割と音の粒をそろえる技法としてギターでは「空ピック」というのがあるらしいけど、僕はどうしてもこれになじめない。ストロークのときは使うけどね。理由が今これ書いていて分かった。音を意識させるやり方がなじめなかったのだ。空ピック方式は、8分音符の連続/16分音符の連続という形でリズムの基本を決め(8ビートとか16ビートという奴だ)、音が不要なポイントでは空ピックという形で音を飛ばして音の長さを決める。16分でピッキング+16分の空ピック=8分音符、という形だ。
 確かに16分の連続を正しい譜割で、粒をそろえて弾ける限りは合理的なやり方だ。しかし、この方式は8分音符を8分音符として認識せず、結果として8分音符の長さの音を出しているという問題がある。一つ一つの音を大事にしているとは思えないのだ。日本のエレキギター教育の草分け成毛さんは「日本人はリズムが無いから空ピックを使え」と言う。トモ藤田さんは「空ピックを使わないと必ずリズムが崩れる」と言う。私はこの2人を尊敬しているが、それでも思う。そんな馬鹿な。ピアニストで空ピックにあたるものを使う奴がいるか?バイオリンは弓を端まで使い切るとリズムが崩れるのか?(逆にオルタネイトで弾くと下手と思われる〜イザイのバラードなんかは別として。)要するにお二人のリズム感が悪いのである。言いがかりでもないよ。根拠もある。トモ藤田さんは三連符をダウン・ダウン・アップで弾けと指示している。オルタネイトではないのだ。そうかもね、オルタネイトだとアクセントがダウンとアップ交互に来るのでリズム感がないと難しいよね。
 でもファンキーなリズムのときは空ピックも有効。これは認めるんだ。というのは休符を音符と同じように意識させる(空振りとはいえピッキングする)からだ。また次の拍にタイで繋ぐときも空ピック使うね。拍のアタマを意識することになってシンコペーションがとりやすいからだ。

 で、さっきあまり評価しないようなことを言った成毛さんだが、この人の「真空管アンプを使わないとピッキングが上達しない」というのは支持する。が、成毛さん自身は生徒を指導していて気がついたに留まるようで、なぜそうなるのかは考えなかったんじゃないか?(その代わり、安くていい音のする真空管アンプをメーカーが作るように仕向けて、実現した。そういうところが偉い人だ。)
 真空管アンプでないとピッキングが上達しない理由。(以前も別の面から書いたが)簡単である。真空管の方が圧倒的に反応がいいからだ。トランジスタは適当にピッキングがぶれても同じ音を出してくれる。なんかうまくなったような気がする。が、ピッキングニュアンスを変えても同じ音を出してくれる。とてもつまらない。この辺をシビアに出してくれる真空管の方がいいということだ。
 理屈の上では増幅素子としてはトランジスタが優れているのだがね、やっぱり動作がシンプルなのがいいのかな。(私は真空管の動作原理は小学生で理解したが、トランジスタは今でも理解できない。)もう一つ理由がある。真空管は音量の変化が音質の変化になるのだ。
 入力が大きくなると出力のひずみも大きくなるが、この比例関係が違うのだ。トランジスタは入力が大きくなると逆にひずみが小さくなり、最大出力のところで急激にひずむ。
 これに対して真空管は入力が大きくなるにつれて、徐々に出力の歪みが大きくなる。つまりピッキングの強弱で歪み方が変わり、要するに音色が変わるのだ。
(真空管アンプを重用するのはロックギタリストの常だが、この辺のこと全然知られてないようなので、あえて書いてみました。)
 というわけで、真空管アンプを使うと、ピッキングに音色が追従するので、自分のピッキングに伴う音色の変化が耳からフィードバックされるので、ピッキングが上達する、と。
 というわけで上手くなりたければ真空管アンプを使いましょう。

 上でも述べたように、真空管アンプを使うと音が歪む。これを意識的につまり盛大に歪ませた音が「ディストーションサウンド」と呼ばれる。このDistortionを日本語に訳すと「歪み」になる。ところがこれを皆さん「ひずみ」と発音することに抵抗を感じていた。Distortionの訳は「ゆがみ」であるべきである。最後にそれを説得する。2分あれば十分だ。

 過大入力による波形のクリップをフーリエ変換して還元される高調波の増加を指すなら「ひずみ」で全然問題ありません。が、それが大きすぎるアンプは単なる不良品です。
 では、なぜディストーションサウンドは不良品とされないばかりか、むしろ好まれるのでしょうか。それは「電気信号」ではなく「音楽」としての価値によるものです。
 ここで音楽史を紐解いてみましょう。J.S.バッハは「バロック」音楽の作曲家とされています。ここでいう「バロック」は「ゆがんだ真珠」のことです。「ひずんだ」真珠は不良品ですが、ゆがんだ真珠はそれなりに装飾的価値のあるものとして珍重されました。
 理想的には球形とされる真珠は、確かに神のもたらす予定調和を音楽の世界で表すには好都合だったでしょう。しかしそれでは曲が一回りしても元のところに戻ってくるだけです。
 しかし真珠がゆがんだ時、音楽は予定調和を脱して新しい旋律とリズムと和声・・・そして音色を獲得したのです。真珠のゆがんだ面に沿って、音楽は広がり、広がり、、、そして今に至った。バッハが「音楽の父」と呼ばれるのはこの故なのです。
(BGMにこれのフーガ部分などを入れると説得力五割増し。)
 ダイオードでクリップした信号を「ひずみ」と呼ぶのはその通りです。しかし変形された信号が音楽的な共感と感動を呼ぶのであれば、それは「ゆがみ」と呼ぶべきでしょう。

 以上、約2分。
 何?10歩譲って主張には納得するとしても、ディストーションの和訳に「ゆがみ」をあてるのは同意できないって?
 うーん、そうだなあ。というわけでEnglish Speechingの本場の方に説明してみました。

「ぎたーさうんど ゆがみ いず ぐっど。」
通じまへん。
やっぱり英語っぽく話さないといけないようです。
「ギターサウンド、ユー、ガッ、ミー イズ グッド」
何となく通じている。もう少しです。強調するには確かReallyを入れるんだっけ。
構文を考える前に声が出てしまった。
「ギターサウンド、ユー、Really、ガッ、ミー イズ グッド」
"Oh! You Really Got Me!
KINKS is Great!
Eddie is Excellent!"
通じてしまった。

 照れ隠しに説明した。
「最高のロックサウンドです。でも誰もがあんな音を出せるわけではないので、日本ではReallyを外して
You Got Me
サウンドと呼んでます。」

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