アンビエント・テレキャスター

 ギター「メーカー」フェンダー社の製品を愛好する人間をFenderianという。これはフェンダー社公式の呼称である。(って言わないと知らない人多いんだろうなあ。)
 当方も「かっこいいから」という理由で最初の1本はフェンダーを買った。その後経営危機に瀕したフェンダー社は商標を売却し、ある日から「グレコ」のロゴが「フェンダー」に一斉に替わってしまい、ブランドイメージは暴落した。

 そんなこんなもあって、それ以降当方が購入したフェンダー系のギターはフェンダー製ではない。それに・・・あの構造のいい加減さがあまり好きではないし、、、正直、音もあまりよくないし(国産Fullertoneが3倍の価格のMasterBuilderを圧倒していた)。

 というわけでESP特注のストラトは帰省時の練習用になった。1本だけ残すとしたらどうする?と言われればためらわずレスポールにする。でも弾いている時間は先月買ったmomoseのテレキャスの方が長い。理由は単純だ。「丈夫でラフな扱いに耐える」。この寒い時期、居間に持ってきて弾くのだが、いつも置いているところと気温差があり、場合によっては結露する。なので指板まで塗装してあるテレキャスを持ってくる。レスポールだとハードケースごと持ってきて、しばらくそのまま気温に馴れさせて・・・面倒なのである。テレキャスは元々「板にピックアップを取り付けた」と揶揄されるように、Good Hack!いい意味アメリカンなギターなのでラフな扱いに耐えうる設計、なのでこの辺気を使わなくていいのが楽。

 momoseのテレキャス(Telly Goldという名前のはずだったのだが、頭の中では簡単に「モモ」と呼んでいる)、妙に音が丸かったり、不満を感じないでもないが(アッシュボディってこんなもんだが)、つくりの丁寧さがネックやボディから伝わってくるので、クラフツマンシップに乾杯!フェンダー純正ではないが、自分の中にテレキャスサウンドの基準が出来たというのは悪くない。やっぱりJimmy Pageの音ですね。Good Times Bad Timesのあれ。音を包む鞘が厚めの高域。ちょっと可愛いいような、でも芯がある中域。まっすぐな低域。ただし僕のタッチはかなり弱いのでJimmy Pageほどはっきりした音にはならない。まあ使いやすいかな。

 なわけで、発見できたことがあった。前述のグレコのロゴが変わったフェンダージャパンよりも、メキシコ工場で作られたフェンダー(日本ではフェンダーメキシコと言われる)の方が音がいい。同じ価格帯のものを弾き比べさせてもらった結果である。
 弾き比べた2本がたまたまだったのかもしれない。が、なんとなく構造的な要因があるように思えたのだ。

 先ほど「フェンダージャパン」を「グレコのロゴが変わった」と説明したが、もう少し詳しく言うと、グレコというブランドで商品展開していた神田商会という楽器商社(工場を持っていない)が、合衆国のフェンダーから商標の使用権を得て、楽器メーカーに発注して作ったギターにフェンダーのロゴを貼っているわけだ。その意味では、デザインはフェンダーのものを踏襲しているとはいえ、フェンダーが作ったものではない。一方、消費者はフェンダーのロゴがついている限り、フェンダーらしい音が出ることを期待している。そんなわけで、神田商会は「消費者が期待しているフェンダーの音が出るように」と楽器メーカーに発注することになるわけだ。
 一方、世間一般に通用するテレキャスターの音は「トレブリー」ということになっている。すると、神田商会はメーカーに「トレブリーな音を出すテレキャスターの形をしたギターを作ってくれ」という注文を出すことになる。すると、まあコストの制約もあるのだろう、低音にしわ寄せが来る。少々バランスが悪くなる。しかるに、テレキャスターというのはそんなにトレブリーな音に特化したギターではない。(レスポールの方が高域は伸びる。)
 ではメキシコは、というと、立地はメキシコとはいえフェンダー社の自社工場である。だから「自分たちが作ったものがフェンダーであり、テレキャスターだ。それが出す音がテレキャスターの音だ」と堂々と言える。かくして音のバランスのよいものが出来る。もっとも仕上げは日本の工場で作られたフェンダージャパンの方がよい。だからメキシコ工場のものがすべてよいとは言いにくく「うまくできたもの」という条件がつくのは補記しておく。
 え、本家USA工場のものはどうだって?メキシコ、ジャパンとは価格が違って比較にならないだろう。

 momoseのテレキャス弾いて、実は期待はずれのことが一つあった。弾き方を変えてもあまり音の差がないのである。構造が無茶苦茶シンプルなので、弾き手の個性を出すかと思うとさにあらず。まあこれは自称「世界で3000番目にいい音がするレスポール」と比較するのでどうしても点は辛くなる。それにうちのガキがバイオリンを買ってやったときに「ねじ伏せるのに3ヶ月かかった」という名言を吐いたのだ。何の気なしに弾くとバイオリンの方が出したい音を勝手に出して、自分が出したい音色を出そうとすると楽器が文句を言ったそうな。それで自分が出したい音を出させるのに3ヶ月格闘して、結局ねじ伏せた、そうな。もう少し慣れないとな。

 ではこのモモ、どんな音を出すかというと、芯があるけど刺激がない、のである。実に扱いやすい。なんとなくシンセサイザーの基本音を思わせる。シンセサイザーに基本音なんてものはない(と思う)が作曲をするときにとりあえずある特定の音色で弾いてみてそこから音作りを始めるというもとの音という意味で使っている。
 大昔、NHK-FMでサウンドストリートという番組があり、その中で坂本龍一が1曲作る仮定を本人が解説しながらまるまる紹介(殆ど実況中継だ)というのがあったのだ。そのときに「まずシンセでこの音を出して、作りながら色々変えていきます」の旨のことを言っていたんだな。何しろ30年以上前の記憶だからいまひとつ、あてにならないが。

 そのとき、シンセという考えられる限りの多彩な音を作ることが出来る楽器でも、ベースになる音は坂本龍一なら龍一で一定して限られているのだな、と思った次第だ。で、そういう音は作曲のイメージを広げやすい音になるはずで、つまりは創造性を邪魔しない音ってのがあるはずだ。それは言い方があれだがその人の心象風景にあたる音に近いはずだ。そういえばアンビエントミュージックの大家ブライアン・イーノがよく使う音に似ていた。なるほど、創造の基礎となる音と心象風景の音は共通点を持つのだろうな。

 最近の曲では、これの音が近い(加奈)

 なわけでエレキギターの音にそういう役割を求めるとしてどんなギターが適しているだろうか?という観点で考えると結構面白い。イメージの邪魔をせず膨らませるのを助けてくれるような音だ。ポール・ギルバートがソロ・アルバムを作るときにギターの機能から距離を置くためにカズーを使ってフレーズを作った、なんてインタビューに答えていたけど、機能はギターを使うとしてせめて音色は創造性を制約しないようにもっていけないだろうかってことだ。(ここで、そうだ!心象風景に出会うためにインドに行こう、とシタールに耳を傾ける奴もいそうだが。いや、ジョージ、君のことを言っているのではないよ。)

 するとテレキャスターって、悪くないぞ。さすがはソリッドギターの元祖。この音を基準にいろいろ作っていける。

 しかし、僕が上手くなりすぎたのだろうか、テレキャスに限らずフェンダー系のギターの致命的弱点に気がついてしまった。。。以下、次号。

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