ストラトキャスターのアーム折れ対策

 最もポピュラーなエレキギターといってもいいだろう。フェンダー社のストラトキャスターというのがある。こいつの魅力的なポイントとして「シンクロナイズド・トレモロ・ユニット」というのがある。「トレモロ」というが実際にはトレモロが出来るわけではない。強制的に弦のテンションを変えて音程を変える。つまりビブラートが出来るのである。
 従来からそのような装置はあったが、ストラトの特徴は、弦の端を支えている部分(ブリッジ)を直接動かすことによって、ブリッジの部分の動きを最小限にするというかなり天才的なアイディアであった。
 しかし、これが当たりすぎた。当初想定していたのはビブラートをかける程度。ところが強力な音程変化が可能となったので、これを思い切り使う人が出てきたのである。
 するとどうなるか。トレモロユニットを動作させる棒、トレモロアームというのだが、こいつに過剰な力がかかるのが普通になってきたのだ。するとどうなるか金属疲労がたまるようになり「折れる」。
 折れると悲劇である。このアームはアーム自体にネジが切られており、ブリッジの部分にくるくるとねじ込むのだ。で、アームにかぎらず金属の棒が折れるときは、強度が変わる部分で折れる。つまりネジを切っている部分とそうでない部分の境で折れる。かくしてトレモロアームが折れたとき、手にはもはや何の役にも立たない金属棒が残り、ネジ部分はねじ込まれたまま、ブリッジ部分に残ってしまうのだ。つまり、ネジの部分は取り出せない。
 だからといってトレモロユニットごと交換するのも不経済なので、なんとか対応策は練られてきた。少しでもネジの上の部分が顔を出していれば、ヤスリで溝を切って、ドライバーで回して出すことは可能なそうだ。折れた部分に出っ張りがあれば、そこにニードルの先を押し付けて、木槌でコンコンなんて手もあるらしい。

 そういう記事を読んだ30年前の僕は考えた。ならばトレモロアームのネジ穴を締め込み切らなければいいではないか。もちろん、締め込んだほうがアームは安定するからこれを避けたいという人は多いだろう。ならば、ワッシャーをかませばいい。即席ラーメンが出来るほどの時間が経過して、いやナットを締め込めばよい(写真参照)。ワッシャーだとヤスリでドライバーのために溝を切らなければならないが、ナットであれば瞬間接着剤でくっつけて、ナット回しで取り出せば良い。

 あれから30年、この誰でも考えつきそうなアイディアは、未だに誰にも知られていないようだ。それはアームの金属の材質が良くなって、折れなくなったので必要性が減ったというのもあるだろう。が、誰も気が付かないというのは間違いないようだ。ちぇっ。実用新案でもとっとくんだったな。
 特許庁の書類に足跡は残せなかったが、アイディアとして個人的な役に立たないわけではない。楽器店で買いもしないギターを試奏させてもらったときのお礼くらいには使える。
 なんでまた、実用新案、なんて思ったのかな?コンピュータ界ではいくつもの発明をしているのだが全然特許を取ろうなんて思わなかったのに。多分、僕がギター下手だからだろうね。だからエレキギターに関する発明が一つでもあれば、それなりに名前が残っているような気になるではないか。どっかの有名ギタリストが採用してくれたら自慢の種になるぞ。

 コンピュータを仕事にして20年。僕は自分がコンピュータ、ほんとは得意なのかな、と初めて思った。向いている、とは今でも思わないけど。

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