クイーンというバンドがあった。音楽ネタ、目次へ
彼らのLove of My Lifeという曲を聞かせると全ての人から同じ感想が返ってくる。
「美しい」
ここまで全ての人が同じ感想を持つというのは危険だと思えるほどだ。ここのギタリストであるブライアン・メイはエレキギターの弦をはじくのに通常のピックではなく、イギリスの5ペンス玉を使っていた。しかしながら、大英帝国の落日を反映してか5ペンス玉は小さくなり、以前のサイズは手に入らなくなったので、現在ではイギリス連邦の一員であるオーストラリアの5セント玉(サイズが同じ)を使っているらしい。
コインでギターを弾く人は世界的にはそれなりにいるようで、彼らにとっては50円玉が垂涎の的とか。穴が開いているので滑りにくいのだな。また回りがギザギザなのはかなり重要な条件らしい。「けいおん!」では純ちゃんが10円玉でベースを弾こうというシーンがあるが、かきふらい、いわゆるギザ銭を意識させるなど芸が細かい。
コインのふちにギザギザをつけるのは磨耗対策である。その昔、金貨銀貨は地金自体に価値があった。かくして、とても良く磨耗したのである。ぶっちゃけ使う前に削り取るのである(なんというせこい発想)。そこで削り取るとすぐばれるように、まわりにギザギザをつけたと、こういうわけだ。かくして10円がそれなりの価値を持っている間はギザギザをつけていたのだろう。このギザギザを弦にこすり付けるようにして弾くと、独特な音が出ていいらしい。クイーンは好きなので、当方もコインで弾くことがある。が、5ペンス玉は持っていないので(ホントは持っているけど1枚しかないので)、オランダの25セント玉を愛用している。サイズは一緒。ユーロ統合で廃止になったが、手元に3枚ほどは残っていた。昔、オランダのフェンロ(サッカーの本田がいたところだ)の物価がドイツより安く、ときどき買出しに出かけていたのだ。おかげでギルダーの小銭が何枚か残っている、そういうことだ。
大きさは50円玉よりもかなり小さい。1円玉よりも小さい。もちろんギザギザがある。もっとも欠点はあって「磁石につく」。ピックアップの真上で弾くと、弦との接触時に出していると思われるノイズが出る。さらには磁力に逆らう余分な力は必要かもしれない。しかしながらこれで弾けば私もブライアン・メイ気分である。しかし一つ問題が。「擦って弾くなんてフォーム、やりたくてもできない。」ギターは下手だが、フォームだけは綺麗になってしまったのだ。しかしそれでもメイと同じくコインを使いたくなるのがファン心理である。するとどういうことになるか。コインの角で弦がはじけるようになるのである。コインの縁が弦のほぼ中央をかなりの精度で捉え、はじくのである。コインは無茶苦茶小さいので、初めのうちはつまんだ指が弾いた直後の弦にぶつかった、しかし慣れるとぶつからなくなる。動作が極限まで小さくなったのだ。それはスキッピングを交えた弦移動の激しいフレーズでは引っ掛かりますわよ。でも、結構すごくない?これ。まあ毎朝4時半におきて小1時間クロマチックばかりやっていたら少しは上手くなるわよなあ。
弦の中央を殆ど真横に弾く結果、ピッキングが極めて均一になってきた。(それでもアップとダウンの音質差が無視できないのは何でじゃ。)もともと弦移動を腕で行い、ピッキングフォームに負担をかけないタイプなので弦によるピッキングの差も小さいのだ。
そんなある日アレッと思った。1弦、あるいは1弦と2弦を弾くと音量がぐっと落ちてしまうのだ。ギターが壊れたか?んなばかな。特定の弦だけ音量が落ちるなんてことは・・・リアピックアップを良く見ました。(欠点が分かるよう、ピッキング練習時はリアピックアップを使うのが普通。)じっと見ました。真っ直ぐに見ました。でも無駄でした。リアピックアップは傾いてついているので真っ直ぐに見れません。
これか!原因は。
フェンダーのエレキギターのシングルコイルピックアップは少なくともそのリアピックアップにおいて、弦と垂直ではなく斜めについている(ジャズマスターってホントにシングルかあ?)。なぜそうなっているかについては、諸説あるが、お気に入りはこれだ。弦振動は当然弦の中央部が大きいのでブリッジ近辺、つまりリアピックアップの位置になると小さくなる。すると発電できる電力も小さくなる。これを補正するためにリアピックアップは同じ振動を受けても出力が大きくなるようにしなければならない。ではどうしたか。コイルとして巻く銅線を長くしたのである。当然ピックアップは大型化する。そのままでははめ込めない。そこでピックアップを斜めにして押し込んだのである。そのとき、レオ・フェンダーは高音部をさらにブリッジ(つまり端っこに)近づけた。ブリッジに近い部分でも、分割振動(つまり倍音)はそれなりに拾うことが出来るため、結果として高音弦の分割振動がバランス上強調されて、より弦の違いによる個性が際立つことになった。この苦し紛れが偶然評価されることになった。
しかし、これは設計ミスであった。つまり各弦を同じように弾いた場合、ピックアップがより端に位置している1弦の振動は他の弦ほどに拾われることはない。要するに低音弦に比べて「弱い」。そもそも高音弦は細いもんだから出力が小さい傾向を助長する。
それはピッコロがフルートよりも小さいにもかかわらず音が大きく聞えるように、高音は良く聞える傾向にある。しかしピックアップを斜めにつけた結果、バランスは崩れることになってしまったわけだ。これがフェンダー系ギターの致命的欠点である。
こんな大変なことをなぜ皆さん気がつかなかったのだ。多分、無意識的に1弦を強くはじいて補正してきたのだろう。具体的には弦を真横にはじかず、斜め下にはじいてきたのだろう。あるいはダウンピッキングで隣の弦が邪魔にならないのでフォームが大きくなったのかもしれない。そうか、ストラト弾くとピッキングに妙なクセがつくのか・・・。読んだ人、反発するだろうなあ。絶対的権威のフェンダー、それもレオさまがご設計しみずから御作りあそばしたビンテージに意義をとなえるのか、と。
とりあえず力技で矛を収めてもらおう。
この欠点に気がついてか偶然か、傾きを逆にして弾いていたギタリストがいるのだ。この場合、高音弦の出力が大きくなる。そしてそのサウンドは今でもロック史上最高と評されている。この一人を以って、現状以外の選択肢もあるべきではないかと当方は主張したい。誰か分かりますか?
ジミ・ヘンドリックス。