あまりありふれていないチューニングの話

 ロックをやっている輩はあまり知能が高くないと思われているようだ。
 時々賛同せざるを得ないこともある。
 普通はしっかりせい!ギタリスト!と激励するのだが、アホかオノレは!ギタリスト!とほっぽっときたくなることもある。
 どうやらチューニング一つ満足にできない奴らが大半らしい。
 正確にはチューニングのやり方一つろくに考えてない奴がほとんどってことだ。

 上の娘は絶対音感で本人曰く0.2Hzまで追い込めるからまあよい。下はそんなに器用ではないので某クロサワ楽器にチューニングメーターを買いに行った。店員さん「お父さんがつかうのならいいですが、お嬢さんが使うのであれば売りません。」要するに音叉であわせるというのが耳の訓練になるので、音感を鍛えるべき幼少期にはさぼらずにきっちりやれということだ。あ、書き忘れました。ガキどもの弾いているのはバイオリンです。
 結局その店ではウィットナーのメトロノームを買って帰った。なぜウィットナーかって?私にも見栄はあるのだ。特にこんな昔気質のところを見せつけられるとだな。

 バイオリンは音叉でAの音を出す弦の高さを合わせた後、隣り合った弦を同時に弾いて「完全五度」の響きになるようE線、D線をあわせる。んでもってD線と一番低い音のでるG線を同時に弾いて完全五度の響きになるようにする。最後に全部の弦をさらっと弾いてバランスを確かめる。まさに耳の勝負だ。

 ギターの弦の音の間隔は完全四度の間に長三度が一カ所紛れている。
 というわけでA線をあわせた後、隣り合った弦を弾いて完全四度と長三度の響きを確認すればいいのだが、そういう人を私は一人もみたことがない。たとえばA線の4倍音をハーモニクスで出して完全四度上のD線の3倍音ハーモニクスを出しその二つの音程が一致するよう調整する。
 だからバイオリンほど耳の訓練にはならない。しかし無駄ではない。自分の耳で音程を聞いてあわせるというフィードバック回路が形成されるからである。そして音程のずれに敏感になる。人間の耳、放っておくと半音ていどの差なら区別できないとか。

 いつ頃からかチューニングメーターというものが普及しはじめ、今や(ギターってとくにご幼少から始めるものでもないので)チューニングメーターの使用が普通になってきた。おかげで音の高さは「耳」ではなくて「目」であわせるものと体が覚え込んでしまった連中が幅をきかせている。合うんだからいいじゃないか。確かにそうですなあ。
 なにしろハーモニクスで合わせるとギターのチューニングは普通ずれるから。

 ギターは一番低い弦から、E,A,D,G,B,E。一番下と一番上が同じ音名というのがみそ。2オクターブ離れているけどね。んでもってオクターブというのは周波数が2倍ということ。つまり、一番低い弦のE音と一番高い弦のE音は周波数比にして4倍。
 そして、さっき出てきた完全四度というのは周波数比4:3。つまりA音の周波数はE音の4/3倍。ついでに長三度は5:4。このまま計算すると、音叉と耳で響きを頼りに合わせていった場合、一番高いE音は一番低いE音のおよそ3.95倍になって4倍にはならない。当たり前だ、4/3を何乗しても約分できないからね。長三度まぜても5が加わるし。
 というわけで、ハーモニクスで合わせて良くなったはずの耳は、今度は1〜6弦まで使った和音を聞いてその濁った響きに毒されることになる。
 もちろんチューニングメーターを使ってもこのずれは無くなるわけではなく、適当に分散されているだけなんだけどね。。。でもいずれにせよ毒されている、ということを忘れてはならない。
 忘れるだけならいいが気がつきもしないから「アホかオノレら」とおもうのだなあ。

 ただしうまいことに「響きが変だぞ?」と気がつくのはチューニングメーターではなく音叉でチューニングする習慣で鍛えた耳なのだな。

 というわけで、当方流の合わせ方。当たり前といえば当たり前なのだが、
E,A,D,Gは通常のハーモニクスで合わせます。
一番高いEを一番低いEの四倍音ハーモニクスと合わせて、Bはその完全四度下。  このままではずれがBとGの間に集中しすぎるので、B線を心持ち下げる。(G線を心持ち下げた方がいい調もあるが、ギター音楽はGを優先したほうがよいことが多い。)
 ただし、めんどくさくなるとピーターソンの高性能クリップチューナーで合わせます。見事なもんです。が、それでもしっくりこなくて結局耳で合わせること、多いんだよなあ。

 ついでに弦の話。ボールエンドを持ってだらりと垂らしたときすっと伸びるのがいい。やはり鉄の分子構成が大事です。こんなことをいうと何を言っているのだと言われるが鉄鉱石の産地による差というのはあるはずなのだ。たとえば日本で採掘された鉄が海外で加工され製品が日本に輸入されるという(逆加工貿易だ!)例があるがこれは日本の鉄の質がいいからである。
 安来節のあそこでとれた鉄らしい。加工された結果は「ジレットのカミソリの刃」。
 ピンとこないかなあ。隆慶一郎の「鬼麿斬人剣」読んでないな。
 そうだ、最高の日本刀の原料となった鉄だ。

音楽ネタ、目次
ホーム