スーザ作曲のマーチ「ワシントンポスト」。音楽ネタ、目次へ
日本人にもなじみが深い曲だが、スーザはギターでこれを作ったのではないか、と思わせるほどにギター向きの曲である。残念ながら転調の前までであるが「クロマチック練習に飽きてきた人はこれを弾いたらどうかな」と提案しているかのような旋律だ。クロマチック練習は、最小限の動きで、両手のタイミングを合わせて、均質な音を出すという極めて効果的なものであるが、これは手への負担を極小化しているがゆえにできること。実際の楽曲はそんなに優しくない。だから、無理に動かそうとしてせっかく固めたフォームが崩れてしまう。弦移動を伴うとピックの振り幅も大きくなるし、ポジション移動がプレッシャーになって音を十分に伸ばすことができない。手のあまり大きくない人なら、人差し指をフレットに引っかけた反動で小指をストレッチ、なんてことにもなるだろう。そのときに指がばたつき始めると悲惨である。
だから、機械的なクロマチック練習と楽曲の間をつなぐ何かが必要だったのだな。ロング・ロング・アゴーなんぞを紹介していたがまだ難しかった。
ところがこのミッシング・リンクを発見してしまった。それが「ワシントン・ポスト」。正月休みに入って呑気にギターで遊んでいるうちに見つけてしまった。半音のメロディーが多いのだが、なぜかギターではストレッチしなければならない部分だけは全音の差となっている。図った様に、だ。スーザは1932年没で当然ディズニーより早く亡くなっているから著作財産権保護の対象外だ。おー、楽譜も堂々と配れる。というわけでタブ譜も起こした。(ください、って人はいそうにないが、考慮した指使いを記録しておくのは必要と思ってね。)この曲には別の長所もある。行進曲だから歯切れがいい。これは当方だけかもしれないが、楽曲を弾くと、音符のタイミングというよりメロディーに合わせて弦をはじくので、スローテンポの曲やゆったりした部分では、ピッキング速度が落ちてボヨッっとした音になるのだな。弦も不要に引っ張られてピッチが悪い。ところがこれは行進曲、長い音符であっても自然に「ピッ、ピッ」と弦をはじく。まあ小学校の運動会の行進練習、先生の笛の音の歯切れが良いようなものだ。理想的なミッシングリンク発見。
(しかし、今までなぜ誰も発見してなかったのだろうか。過去のギター教師は怠慢だ!と言われても仕方ないぞ。だから「初心者用の教本にふさわしいものはない」と私が主張するのだ。文句を言うだけではなんなので自分でこうして書いている。)ただしこの曲で初めて出てくる留意点はある。「休符を意識する」である。四分音符+八分音符と八分音符+八分休符+八分音符(聴感上は中抜け3連〜この曲マーチのくせに6/8拍子なのだ)をきっちりと分けて弾くこと。ロング・ロング・アゴーまでは、難易度の上昇を恐れて意識的に休符を避けた曲を紹介してきたが、ここまで指使いが楽なのだ。今度は休符を意識する練習をしよう。
休符の部分はどうするかって?最初の練習として「フレットハンドの指を弦につけたまま指板から離す」ってやったでしょ。その時の要領で弦を抑える指の力を抜く。心配ない。スーザさん、これまたギタリストのことを思ってか、弾き分けなければならない部分、音の跳躍を極力抑えてくれている。ただしこの曲、転調してからはちょっと難しくなる。谷型の音形で人差し指を1フレットずらさねばならない部分もあるし、分散和音をスタッカートを効かせたり、オクターブ飛んだソの音をできればミュートしたり、留意するところが出てくる。
でも「行進曲」だ。元気一杯弾こう。それができれば合格!である。そしてこの「元気いっぱい」にこの曲で練習するもう一つのメリットが隠れている。自然自然と音に「強弱」が付けられるのだ。