人間の声にいちばん近い

 ある楽器が優位を主張するときに「人間の声にいちばん近い」という言い回しを使うことがある。
 ざっと検索しただけでも、
バイオリン、トロンボーン、二胡、チェロ、サックス、ユーフォまで。オーボエもそう主張していたなあ。
 さて、英語圏ではどう言われているのだろう。
 というのは、日本語と英語では発音が違う。音の出し方そのものが違っている。その差が反映されているかどうか。

 気が付いたのは、うちのガキが属している小学校の吹奏楽部の演奏を聴いていて。ディズニーメドレーとしてアラジンのWhole new worldのフレーズを吹いていたが、「なるほど小学生だから日本語で吹いているな」とよーくわかったわけですね。
 出だし、I can show you the worldのshowがしゃくれていない。あとNew fantastic of the viewのfan「ta」sticに強勢がおかれてない。もちろん難しいとは思うし、英語ができる中学生でも日本語風にのっぺりと吹かないわけでもない。

 発音記号の数を見ても分かるように英語の方が日本語に比べて音の種類が多い。だから日本語の音をカバーできる楽器であっても、英語の音をカバーできなければ、英語圏では「人間の声にいちばん近い」と呼ぶことはできないのではなかろうか。
 えっと、「解明、英語の発音」なんてのがありますね。
 どうやら日本語では母音が唇の形だけで決められそうなのに、英語では舌と上あごの間隔や舌の前後の位置も影響してくるようです。子音は破裂音、摩擦音、破擦音、鼻音はじき音、接近音、ですか?日本語では前の2つだけで、鼻音は無くなったんでは。
 というわけで「鉛筆を加えたままでもなんとか発音できる」日本語でなく、「英語の」曲を演奏しようとするとこの辺を意識する必要がある、という恐ろしいことになってきました。

 歌曲を歌うなら原語でないと、ニュアンスがわからない、という意見があって、私も同感です。たとえばシューベルトの「魔王」、nichtのchの音がないと第一連は締りません。

 言葉で歌える楽器でないと「人間の声に近い」とは名乗れない、とこういう当たり前の結論に達しました。フレーズを演奏するときに「もっと歌わせて」と抽象的な指示をされることがありますが、文字通り「歌う」ってことです。そうであれば「英語に適した楽器」「日本語に適した楽器」があるのではないかということ。
 するとバイオリンで絶叫できる奴はいるが、歌える奴はいない、ギターで笑う人間はいるなあ、といろいろ考えることが出てくる。こんな感じで多少なりとも突き詰めてゆくと今まで無批判的に「人間の声に近い」と形容してきたものも、基準が出来て、安易に使えなくなったということだ。

 この基準に基づいて提案!
人間の声にいちばん近い楽器として日本語では「トランペット」。
英語では「トロンボーン」です。
実例「ちり紙交換(not 関西故紙)」。
実例「マッカーサーの退役演説」。
異論は、あるかな?

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