100円ショップに売っている、300mlの蓋付コップにギターアンプを組み込んだのは以前に書いた。んでもって予告通り知り合いの工業デザイナーに見せに行った。第一声は「電池を外出しにしろ」次いで「吸音材を入れろ」。ダメ出しが続いた。しかし正直うれしかった。あれだけの人にリップサービスなしで評してもらえた。それは「まじめに取り扱うに値するもの」とみなしてくれたということだろう。酷評しながら、量産時にはどこで切って型を起こすか、なんて考えてくれていたし。音楽ネタ、目次へ
それなりに気をよくして、2号機作成。今度は予告通り普及品の部品を使った。タンタルコンデンサなんぞもかませたものの、基本的には「安い部品」です。スピーカーユニットは、月刊STEREOの付録。ScanSpeakの5センチ。ギターをつないで音を出すと悪くはないが、平板な音がする。弾き方による音色の変化があまりないのだ。もっとも娘はこっちの方が気に入ったらしい。前の分は、カラオケルームで弾いているような感じで、うまく聞こえて練習にはよくない、そうな。あいつの耳は信頼していい。もっとも、ギターをつないで出した音を聞いてきめたのではなさそうだ。スピーカーユニットに向かって声を出し、その共鳴具合で、アンプとしての特性を判断していたようだが。(ひょっとして耳でダンピングファクターが推測できるのかも。私もオーディオ機器のクオリティを電源投入直後の残留ノイズで判断できるから、考えられる能力である。)しばらく気楽な練習用として使っていたが(もちろん高い部品の方)、娘の担任の先生が「軽音楽部」の顧問ということが判明し、お世話になったお礼に2台とも寄付してしまった。個人への贈り物ならいろいろあるだろうが、部への寄付だ。問題とはなるまい。教材用として悪くはないと思う。部品の違いによる音の差を聞き取ることは耳の訓練にもなると同時に、電子回路への興味も刺激されることになるだろう。また中高生はエレキギターを買ってもアンプまで予算が回らないことも多い。自宅ではアンプなしで練習しているかもしれん。これは弊害が多いので、そういう奴らに貸し出すという活用法もある。もちろん「自分でアンプを作りたい」という奴がいれば面倒は見てやるつもりでいる。
このアンプ、自分としても気に入っていたので、手元にないのはさびしい。そこで工業デザイナーのアドバイスを受け入れた改良型の制作に取り掛かった。しかしどうしてもコップ型のデザインは捨てがたい。が、300ミリリットルより大きなものは見つからない。
スープカップはあるが、デザインがかわいくない。そんななか、Webで1つだけ気に入ったのを見つけた・・・ところが製造元に問い合わせると「生産中止」。検索しまくって1個だけ流通在庫を押さえる。側面が傾いているので、何らかの工夫をしてつまみとジャックを地面と平行にしないとカッコ悪いな・・・つまみはあきらめたが、ジャックだけでも・・・長さが足りない。何とか解決したよ。
オリジナルの回路、トーンコントロールはRCローパスフィルタなのだが、信号とシリーズに可変抵抗を入れても、この出力では「音量が減るだけ」と見てよい。取っ払うことにした。基盤の固定もメンテナンスを考えて「見るだけならカッコいい」宙吊りとした。例によって高い部品(さらに高い部品)を買ってきて、配線して、音出し。
「ピーーーーーーー」
派手に発振してしまいました。おちこんだぞー。失敗は、長い目で見ればきっといいことで、小学校6年生以来、電子回路のお勉強を始めました。回路図を暗記したあたりで、基盤のパターンを書き直し、部品がパターンをまたがないようにしました(アースをまたぐことはある)。ブレッドボードも買ってきて「仮組」。部品をとっかえひっかえして音が変わるのを確認、という気の長い作業もやったりしてます。できれば福島双羽の抵抗を使って「被災地支援」なる付加価値をつけるつもりでしたが、やっぱりDaleの無誘導巻線の方がいいです。しかし、部品差し直しただけで発振したりして、よくわからんね。
自分で作ったパターンが正しいか、若干の不安がありましたので、試しに1台作りました。ただし目的はあります。目いっぱい安く!は前回作りましたから、今回は「許容できる程度に安く」です。一番安い部品が15円で買える場合でも、オーディオグレードが20円で買えるなら20円出す。しかし50円は出さない。バイアス抵抗はカーボンを使っても、信号とシリーズに入るフィルタ用抵抗は10円余分に出して金属皮膜オーディオ用を使う、ということです。ただし、入力カップリング用のコンデンサは電解を使わず、安いものですがポリプロピレンフィルムを使いました。スピーカーユニットは秋月7センチ300円が最低線かな。しかしこれではコップに納められないので、ケースは100円ショップの弁当箱になりました。
デザインは「だっさーーーー」。でも全部でおよそ1500円。中途半端とみるべきかバランスが良いと考えるべきか。とりあえずお気楽練習用に使ってみました。娘の学校の軽音部の連中が相談に来たら、これを紹介してやろう。ちなみに被災地支援抵抗を使っています。しかし音が歪まないなあ。386という、言ってみればトランジスタラジオのスピーカを鳴らすICを使っておるから特性的にギターアンプっぽい歪が出るわけがないのですが。(それでも1号機からはそれっぽい音が出たぞ。)と、自信をやや回復したところで、高級部品を今度はブレッドボードに並べて、最終チェック。
なぜか急に発振。しかし回路の勉強は無駄ではなかった。どうやらRCローパスフィルタの周波数で発振している。ためしにコンデンサを抜いた。止まった。
しかしながら、ここのコンデンサを抜くのは海路の日和が、じゃなかった回路安定上よくないという話が。他の386を使ったアンプの回路図を見ても、330pF程度でも差し込んでいる。なら定数が近いから、と買ったまま使ってなかった宇宙通信用をポン。え、え、え、、、発振する前より音がいい。これは高域が伸びているからかな?それっぽく音が歪んできた。理由はわからんが結構いい。
なんでやねん。
でも、この歪みは気に入ったので、勘違いとはいえせっかくだからディザ信号から名前をもらって、Ditherd Distortionと名付けよう。が、なんか記憶にある音だなあ、このバリバリした歪。「YAMAHAのF100だ!」。このアンプの回路を紹介してくれた人はローランドのジャズコーラス的に使える、とおっしゃっていたが、ライバル的な機器になってしまった。回路はほとんど同じなのに。(信号とシリーズの可変抵抗をひとつはずし、後は初段FETの種類と、抵抗とコンデンサの定数がそれぞれ1つ違うだけなんだけどな。それと最終段階で、出力の電解コンデンサの容量を220μファラッドから330μにあげ、0.1μのフィルムコンデンサをパラで入れました。高音が裏返らなくなった。)
- 考えられること、いち。初段のFETが違う。今までのは2SK30。今回はJ201。ナショナルセミコンダクタである。(当然バイアス抵抗の値は変えてます。)
- 考えられること、に。パワー段のICが違う。初号機とこいつはナショナルセミコンダクタ。2号機と3号機は新日本通信。オーディオ的には新日本通信の方がいいんだけどね。やっぱりアメリカ製ってのはあるのかな。ギターも品質は国産の方がよくて大外れはしないけど、実際に音を出すとUSAの方が魅力的なものが多い、ってそんな感じだ。
- 考えられること、さん。発振は続いているのだ。しかしとっても高い周波数帯域に押しやられている。だから耳には聞こえないけど、ICが常に過大入力で歪んだ音を出しているのだ。超再生検波の逆。あるいはアナログでディザ信号を加えたって感じかや?基本的に小学校6年生の電子知識から脱却していない私にはこれ以上の分析は無理ですわ。出力波形をオシロスコープでとって分析し、再現可能な形にすれば、特許が取れそうなアイディアなのですがね。ストーリーもあるよ。せっかく作ったアンプが発振してしまった。失望して分解しようとしたが、ひらめくものがあって手が止まった。実験を続けると今まで半導体では得られないナチュラルなディストーションサウンドが得られた。なんと分かりやすい。古典的な発明発見のパターンだ。もっとも現実にそんなことが起こっていたら、大発見だ。。。というかきっと誰かが話題にしている。
プリント基板を削り、撚り線とスズめっき線でアースを引き、結構めんどくさがりにも部品のリード線をそのまま使って回路をつなぎ、私にしてはかなり丁寧に作ってます。 外部部品との接続、苦手なのよねえ。スイッチからの電源リード線、短すぎましたかしら。、LC-OFCの心線って結構切れやすいのね。モーツァルトを聞きながら作ると音もよくなるかしら、と製作に励みます。
いよいよ火入れ、ん?音が出ない・・・落ち込みー、、、あ、そうだ、IC挿すの忘れていた。パワーIC386の製造元と種類によって音が違いそうだと気が付いたので、差し替え可能にしていたんだわさ。気を取り直して、やったー、おとがでたー。ブレッドボードに組んだ時と結構音質が違う。うれしいような寂しいような納得したような。ノイズは思い切り減ってます。リード線が短いからね。(じつはブレッドボードを導電性スポンジでくるむ、ということをやってノイズがかわんなかったから、外来ノイズではなく残留ノイズと判断していたのだが、やっぱり外来ノイズだったらしい。)
その分、歪感は減っています。音色が安定しているのはいいのだけど、あの荒削りな感覚も悪くはなかったなあ。(内部で発振してないのかもしれないね。)
あと、今回半田にケスター44使わなかったのよね。使った方が音がワイルドになったかもね。(というほど関係ないか。)使わなかった理由は、前回は融点が低いケスター44の方が明らかに作業性がよかったのよ。今回は千住金属の60%でも全然問題なしだった。多少は技術が戻ったらしい。うちの娘の評価。デザインも含めて「いいねえ。」
プロトタイプの安すぎない弁当箱アンプに比べて、音量音質ともずいぶん違う。リスナーからすると部品代3倍の差はないかもしれない。が、プレイヤーとしては3倍の差は十分あります。
基盤の固定に凝った方法を使って、おかげで少々干渉するのだが、これはまた基盤スペーサーを交換するなりして調整しよう。長めのものが金属製しか見つからなかったのだが絶縁体のものもあるようなので安全の意味でも。ケース内部にコルクを貼り、ジャックを固定したところで、おもわず瞬間接着剤のついた指で外側に触れてしまった。下の娘が「シールを貼りたい」というのでそこに貼っていただきました。てへっ。
キャンベルのマイクロウェーブマグカップ(フタ付)を見つければ、もう1台だけ作ります。今度は双信V2Aをカップリングに、福島双羽を初段の後のインピーダンスマッチング用(?)抵抗とします。今回作ったのは外観が「雅」で部品がAmericanでしたが、逆が作りたいってこと。今度は内側にコルクではなく、導電性スポンジを貼ってみよう。部品だけちょこちょこ変えただけでは面白くないので出力段の後にボリュームを入れることにしようかな。低出力とはいえ、出力トランジスタ用の放熱器を貼った方がいいかもね。
もちろん娘の学校の軽音楽部の連中が教えてくれと言って来れば、付き合うというのは、表明継続でーす。そんな気概のあるやつがいるといいのだが。