初対面の人間に対して「相手の力量を計る」。これは誰にでもあることだろう。音楽ネタ、目次へ
特に相手が自分と同じ得意分野がある、なんて言ってきた場合、話の通じる友人ができるかもしれないという期待を込めて「計る」だろう。話の通じる人間に飢えている自分としてはその期待が少々大きすぎることがある。特に相手が個人でなく、組織であったりすると、後から考えて「道場破り」に近いスタンスになることすらある。
というわけで、汐留の全日空本社。入口エレベーター前の大きな看板は取っ払われた。
(そう、全日空旗艦店のフロアレイアウトと整理券発券システムの構成から社風に問題点があるのでは、とまで導き出して指摘したとき、彼らは〜二度とこんな奴が道場破りにやってこないようにと思ってか〜看板を取っ払ったのである。ただし私がやりたかったのは、そういう話題で盛り上がれる相手を探すこと。悪意はない。その証拠に、旗艦店が閉鎖になる最後の日、きっちりとあいさつに訪れました。誰も待っててくれなかったようですが。)というわけで、八重洲のGibson-TEAC-ONKYOの合同ショールームも、相手から見ると道場破りに見えたかもしれない。が、当方は結果的にそう見えても、その道場にきちんと自分の技術を伝えるくらいの責任感はある。しかも休日つぶしてまで。(さっそく研究成果を見せに行ったが、土日祝休みなのね。そして平日は18:00まで。さて、誰が来ることを期待しているのだろう。)
「なるほど、これは面白い。内部で検討するから、他には伏せておいてくれ」なんて要望がございましたら、製品の愛用者として言うこと聞きますが、10万円台のギターを売ることしか頭になく、売るためにはタダ並べておけばいいという発想の人が並んでましたので、そういうコトにはなりませんでした。まずは、GibsonのLes Paul Standardを取り出します。そしてTEACのGT-R1につなぎました。GT-R1は、ギターの出力をそのまま録音できるんですよね。これで、ダウンピッキングとアップピッキングで単音、フロントとリアで切り替え。ピックを換えたりして。24bit/48KHzが最高スペックなのが少々さびしいですが、16bit/44.1KHzのCDフォーマットでも同じ音を録音。
それをPCに持ってきて、SPWaveとかWaveSpectraで可視化します。
ちょっと驚いたよ。
私、普通に弾くと「噪音」がほとんどないのですね。いきなりスパンと立ち上がっている。弦を震わせずに弾くという「超絶技巧」をダウンだけならマスターしたつもりですが、エンベロープではっきり見えるほどになっていたとは。
ダウンとアップで波形が違います。アップの方が丸まっている。これはアップの方がピッキングが遅く粘るからもあるでしょうが、ひょっとしてナットの溝の切り方が非対称であることも関係してますか?君妙なところに気が付くねえ、と思うかな。でもさ、正しい発想だと思うよ。私のピッキングは噪音が極小で、いきなり純粋な弦振動に移行するのだから癖による妙な干渉は無視できるレベルと思う。
波形自体も妙。途中ゼロクロスのまま電圧ゼロの状態が短いとはいえ無視できない時間続く。こんなことってありうるの?ピックアップがとらえた限り弦の運動がゼロになって、また動き出すって現象が測定されているわけだ。バイオリンの波形ではこんなことありません。ってことは
「ひょっとしてマグネットの弦振動への干渉と発電が打ち消しあったりしてます?」
逆起電力からの連想ですが。。。とするとアルニコ/フェライトといったマグネットの種類や形状によって音色が変わることの説明がつくし、説明できるようになれば「コントロールできる」。
でもこれくらい、ギブソンなら気が付いて・・・いないかもしれない。
ちなみにリアピックアップだとエンべロープに「うねり」が出るよ。ピックを変えてクレイトンにすると私でも「噪音」が出てくる。ゼロクロスときの出力ゼロ状態もなくなる。これがピックによる音の違い、でしょう。でもこれが見えるってちょっとすごくない?
逆に私の「噪音がないピッキング」はかなりピックに頼っていることがわかっちゃったりします。でもピックによるとはいえ、測定のリファレンスに使えるほど安定しているんです。
ただし娘には不評です。「なんか、眠くなるというか、なんか、変な音がする。」周波数レンジも、ダイナミックレンジも狭いエレキギターだと、サンプリング周波数や量子化ビット数をやたら増やしても大した変化はないようです。ところが、エフェクターのうちフランジャーをかけると変わってくるかもしれない。倍音が増えて、20KHz以上も結構な音圧になる。だとすると「エフェクターを生かし切るにはハイレゾ」ってセールストークを使っても嘘ではないということだ。「Jeff Beckはハイレゾで聴かないと!」
Gibson弾いて、TEACで録音して、ONKYOも作っているパソコンで自分の音を可視化すると、思ったよりも多くの事象が発見できた。できれば感心してほしいが、感心されたままだと逆に怖いなあ。向こうはプロなのにそれまで知らなかったってことだから。
そのあと、16分弾くとつなぎ目の波形はどうなっているか、三連はアクセントがきちんと頭にきているか、トレモロにすると急に乱れないか?とか調べたかったのですが
「いちいち録音して、えーとこの音はこういう弾き方した音で、とメモと照らし合わせて、切り貼りして/拡大して」
ってのはものすごくめんどうなのよ。これをリアルタイムで波形をモニタリングして、「あ!今のところ止めて」と巻き戻して見やすく加工して、できれば他の波形と重ね合わせて表示して、なんてのが簡便にできると私は嬉しい。これなら平日の日中しか空いてないショールームでも人が来るかもしれん。自分の音を分析したくてね。なんですって、コンピュータで音を分析したい、なんてひとは限られてますってか?否定はしないよ。でも、このショールームが想定している人よりは健康的だと思う。つまり「ギブソン買って弾いて、TEACで録音したのをONKYOで再生して、、、ボクちゃんの演奏GOOD SOUND!」って思う人よりは、「自分の音はこういう特徴があるのか」と研究する人の方が健康だろうということだ。
そしてだね。Gibsonさん、グラミー賞受賞のTAK松本さんと契約してるんでしょ。音を出してもらって無加工のまま録音しといてよ。そして同一ギター/同一録音条件を提供してください。それと自分の音を比べてみたいです。もちろん見える形にしてね。すると「あ、TAKさん、やはりタッチが軽いんだ。完全に力が抜けている証拠だな」「おんなじギターを弾いていてもサスティンが長い。たぶん左手の力の入れ具合がいいんだろうな」なんてことが分かる。TAKさんの音のデータをくれとは言わない。その場で比較できるだけで十分です。こうすれば日本中から来てくれる人がいます。そしてもし、ラリー・カールトンの音と比べさせてくれるなら、世界中から来てくれる人がいます。せっかく来てくれたら、その人の音のみならず、演奏フォームなんぞも撮らせてもらいましょう。え、拒否されそうだって?私が説得します「プレイヤーさんの弾き方や音を今後の製品に反映させたいのです。それはレスポールの形をいまさら変えることはできませんが、ナットの切り方や、ピックアップの調整で改善の余地があると思っています。あなたのプレイを参考にギブソンのギターをより良くしたい。協力してくれませんか?」
これでも自分自身の専門分野での突っ込みは自粛してるんですよ。「御社パイオニアの買収に参加してますが、パートナー、ベアリングス銀行の残党でしょ・・・。」
今回に限らず、私が「相手の力量を計ろうとして」話題を出すと、たいていの場合、相手は崩れる。が、たった一人完璧に打ち返されたことがある。バイオリンが弾けると聞いたので
「私も大学のとき、ショパン弦楽四重奏団、というのを勝手に作って・・・」
「いや、チェロソナタが一曲だけある。」
私が恥をかかないように途中で打ち切って返してくれた。私が親族以外に「負けた」と思ったのはこのときだけである。もっとも、まもなく「兄」と呼べるようになりましたが。